第27話 彼女と彼の話-5



「そういえば、何で今日だったんですか?」


ぬくもりの中から聞いてみた。


「え?いや、話すのは早い方がいいかなって思って。ちょうど今日休みだったから」




やっぱり。


イベントごとには疎いタイプなんだ。

先輩からすっと離れて携帯を取り出す。

そして日付がわかるように画面を見せる。




「さて問題です。今日は何月何日でしょーか」




目の前に出された画面を凝視し、数秒間黙る。

そしておもむろに立ち上がりこちらに身体を向ける。

そして勢いよく頭を下げ、

「クリスマスなのすっかり忘れてました!ごめんなさい!」と謝った。




一連の流れが面白すぎて、思わずお腹を抱えて笑ってしまう。






「本当にごめん。今橋本さんに言われるまで全然気付かなかった・・」


「カフェの内装もめちゃくちゃクリスマス仕様だったし、何なら買ってきてくれたコーヒーだってイラスト書いてありますよ?」


ほら、とカップに書かれたサンタのイラストを見せる。


「朝電話かけてきたとき、わざとなのかと思いました。クリスマスに話したいなんて何考えてるんだろうって」


笑いすぎて涙が出る。

今日は泣いてばっかりだな。


「本当そうだよね・・しかもクリスマスなのにホットケーキって・・・」


相当ショックだったのか、ベンチに座り自分自身に幻滅しているようだ。


「私別に気にしてないですよ。むしろイベントは苦手な方で」


「いやダメだ!」


私の声を遮るように急に立ち上がった。

そして携帯で何かを検索し出した。


「何探してるんですか?」




画面を覗き込もうとしたが、すっと避けられた。

なんか地味に凹む。




しばらくその様子を見ていると、急にこちらを振り返り、


「橋本さん、今日予定ないって言ってたよね?」と圧強めで聞いてきた。


「特別用事はないけど・・・」


「じゃあこれからイルミネーション見に行かない?」


そう言って携帯の画面を見せてきた。


そこには一面に光るイルミネーションと大きなクリスマスツリーが映っていた。




「今日が記念日になるわけだし、俺は橋本さんとクリスマスの思い出を作りたいと思っています」




どうですか?と手を差し出される。


この話し方、気に入ったのかな。

でも思い出を作りたいというのは私も同じだ。


「とてもいいと思います」


そう言って先輩の手を取る。


すると勢いよく立たされ、その瞬間に何か柔らかいものがおでこに当たった。


恐る恐る見上げると、「恋人になれたので・・・調子乗りました」と私のサンタが照れ笑いを見せた。




















こうして私が大学2年、先輩が3年の冬にお付き合いが始まった。


あの3人にはなんとなく直接報告をしたかったので年明け1発目の学食で。

当然大騒ぎになり、先輩も(私の携帯で勝手に)呼び出され事情聴取を受けることになった。


先輩が馬鹿正直に全部答えるから、それがおかしくて愛未と優花は余計なことまで質問するし。


さらになんでかわからないけど文那は1人号泣してるし。


でも3人が喜んでくれることが私も嬉しかった。






その日の夜、洋ちゃんに「いい友達だね」と言ってもらえてつくづく私は友人にも恋人にも恵まれているなと感じた。





「ちょっと変な子たちなんだけど、大好きなの」





素直にそう答えることができたのは、きっとみんなの笑顔をたくさん見れたからだろう。






















あっという間に月日は流れ、先輩は先に卒業を迎える。


就職はしれっと決めていたらしく、大手の有名商社に進むらしい。


「元々商社志望だったの?」


「いや別にそういうわけではないんだけど、受けたら内定もらえちゃった、みたいな」


「それ、他の人が聞いたら刺されるよ」


「うん、だからかなちゃん俺を刺さないでね」


社会人経験してみたいから、と言って両手を合わせて祈る。


「かなちゃんはまだ学生生活が1年あるけど、後輩とかに目移りしないでね」


「すらっとした細マッチョイケメンが現れたらわかりません」


「ねえ!いつもそれ言うけどかなちゃんの彼氏は太ってるのではなく筋肉があるだけなんです!」


ほら!と言って腕の筋肉を見せる。


これが最近の私たちのお決まりなのだ。


当然細マッチョイケメンが現れても心が揺らぐことはない。


ただ、彼のこのリアクションが可愛くてついからかってしまう。






でもここだけの話、タイプなのは細マッチョだ。

言ったら泣いちゃうから言わないけど。





「心配だから文那ちゃんに定期的に聞くもん!」


「そうやって私の友達をスパイみたいに扱うのやめて」




そんな話をしていると、遠くから先輩を呼ぶ声がした。


「洋ちゃん先輩~!写真撮ろ~!」


よく通る声で呼ぶのは愛未だった。その周りには優花と文那。




「洋ちゃん先輩卒業おめでとうございます!」


「ありがとう。これからもかなちゃんと仲良くしてあげてね」


「私のお父さんか何かなの?」


「まぁまぁ喧嘩しないで」


こんなやりとりができるのも今日で最後かと思うとなんだか寂しい。




「優花の彼氏も今年卒業じゃなかったっけ?」


「うん、そうだよー。でも洋ちゃん先輩とは専攻が違うから接点ないのかも」


「そうなんだ。顔見たら俺もわかるかな?」


「わかるんじゃないかなー?あ、あの柱に寄っかかってる人だよ」



優花が指差す方を全員で見る。

そこには芸能人のようなオーラを放ったイケメンが立っていた。



「え?芸能人?」


「あいつ確かモデルやってるって聞いたことあるけど」


「あんなイケメンうちの学校に居たんだ」




文那以外が立て続けに感想を言う。



「全然イケメンじゃないよ~雰囲気だけじゃない?モデルはバイトでやってるって言ってた気がする」




かなりの視線を感じたのか、イケメンがこちらを見た。

すると柔らかく手を振ってこちらを(優花を)見てる。

「なんか呼んでるっぽいから行ってくるね~」と優花が向かった。





「洋ちゃん先輩、喋ったことないの?」


「あんなイケメンと話せるわけないじゃん!」


「あなた女子なの?」


愛未とのやりとりに思わずツッこんでしまった。


その時、先輩の携帯が鳴る。同級生に呼ばれたようだ。





「ごめんみんな。俺呼ばれたから行かなくちゃ」


「あ、じゃあ最後写真だけ!はい、2人並んで」




愛未がテキパキ指示を出す。

みんなで撮るのかと思ったのに、どうやら私と先輩の2ショットのようだ。

最近カメラが趣味の愛未がお気に入りのカメラを取り出す。


「この写真できたら佳奈子に渡すね。はい、笑って~!」


今でもこの時撮った写真は家に飾ってる。

とてもお気に入りの写真だ。







「じゃあ俺行くね。かなちゃん、帰ったら電話するね」


「うん、あんまり飲みすぎないでね」


心配しないで、と私の頭をふわっと撫でて友人のところへ向かった。




その間、横でシャッター音が鳴り続けていた。

2ショットの写真をもらった時、中に数枚この時の写真が混じっていた。


私の頭を撫でる先輩と、それを見送る私。


そして振り返り真っ赤な顔で愛未に撮らないで!と叫んでる姿が写っていた。






後日、その写真が洋ちゃんの手帳から見つかって喧嘩になったのは言うまでもない。





















その1年後、私たち4人も無事に卒業。

卒業式には洋ちゃんがわざわざ休みを取って会いに来てくれた。




それもとんでもない大きさの花束を持って。




「洋ちゃん・・どうしたのその花束!」


「かなちゃん卒業おめでとう!どうしてもかなちゃんの袴姿が見たくて有給取った!」


めちゃくちゃ目立ったよーと照れ笑いを浮かべるが当たり前だろ。


「こんな大きな花束持ってたらそりゃ目立つよ!どうしたのこれ!」


「事前にお花屋さんと相談してお願いしてたんだ~かなちゃんの袴の色がわからなかったからどの色でもいいようにってお花屋さんが!」


はい、どうぞと言って手渡してくれるが、結構重くてびっくりした。


すると後ろからいつものメンバーがやってくる。




「あれ!洋ちゃん先輩来てたんだ!」


ヤッホーと愛未とハイタッチをする。


「佳奈子、すごい花束だけどどうしたの・・?」


花束の大きさに圧倒されながら文那が聞いて来た。


そりゃそうだよね。

お花持ってるというよりお米持ってる感覚だもん。


「洋ちゃんが卒業祝いに用意してくれたの。めちゃくちゃ重い。」


「すごいね!こんな大きな花束あるんだね!でも洋ちゃん先輩仕事は?」


今日平日だよ?と首を傾げる。


「袴姿見たさに有給取ったらしいよ」


本人は愛未と優花のカメラマンに徹しており、こちらの話を聞いていない。


すると文那がクスクス笑って、「佳奈子、ずーっと愛されてるんだね」と私の肩を指でつついた。




「いつか文那もそういう人に出会うでしょ」


「そうだといいなー」


「きっとそうだよ。文那が自覚してないだけであんた結構モテるんだから」


「じゃあ好きな人ができたら紹介させてね」


「いいけど変なやつに引っかからないでよ」


文那は佳奈子怖い~と笑いながら愛未と優花の方へ駆け出した。










「はい、じゃあ4人並んで」


いつのまにか愛未のカメラアシスタントになった洋ちゃんが私たちを並ばせる。


「4人ともそれぞれの袴が違っていい写真になりそうだね。はい、笑って!」













シャッターが切られる瞬間。


卒業して離れ離れになっても、この友情がずっと続きますようにと願った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る