第26話 彼女と彼の話-4



それから数ヶ月経ったある日。

アラームではなく、電話の着信で目覚める。




「はい・・・もしもし・・」




誰からの着信か確認せずに通話ボタンを押した。

どうせこんな朝早くに電話してくるなんてあの3人のうちの誰かだろう。









「あ、もしもし。橋本さん?」





その声で一瞬で脳が覚醒しベッドから飛び起きる。

そしてもう一度発信元を確認する。

画面には【山崎先輩】というここ数ヶ月見ていなかった名前が表示されていた。








「こんな朝早くに連絡しちゃってごめんね。寝てた?」


「あ・・いや・・・すみません、寝てました」




なぜかベッドの上で正座をする私。

どうしよう、全然意味がわからない。




「いや休みの日なのに朝から連絡した俺が悪いから」


いや今聞きたいのはそんな謝罪の言葉じゃないんだけど。


「何か、あったんですか?」


「あー・・えっと。今日、橋本さん予定あったりしますか?」


「今日、ですか?」


「そう、今日」






今日・・・なんか予定あったかな。

確認するためテーブルの上に置いてあった手帳を開く。

今日、何日だっけ?部屋のデジタル時計で日付を確認する。





「いや、特に予定はないですけど・・・」




これはわかって言ってるのかな。

それとも偶然なのかな。


いや変な期待はしない方がいい。


というかそもそも数ヶ月ぶりに連絡してくる日が今日って、どうかしてる。







「ほんと?もし良かったら数時間でもいいから会えたりしないかな?」


寝起きで頭が回らない。

聞きたいことがありすぎる。


それに、今日誘ってくることに何らかの意味を期待してしまう。





一度新呼吸をして、返事をする。


「・・・わかりました。準備とかあるので13時頃でいいですか?」


「全然大丈夫だよ!じゃあ13時に駅集合でいいかな?」


「はい、大丈夫です。じゃあまた。はい、失礼します」







電話を切って、そのままもう一度ベッドに潜った。

どういうことなのこれ。


唐突な朝一の電話で、念願(?)の初デートが決まった。


でもなぜだろう。これっぽっちも嬉しくない。


というのも、あの電話の一件から先輩は私を避けるようになったのだ。


学食での恒例行事も当然ないし、私が1人の時でも話しかけられることはなかった。


もちろん、この携帯が先輩の名前を表示するのだって数ヶ月ぶりだ。


初めの数週間は精神的にも結構きつかった。


学校では気丈に振る舞っていたけど、家に帰るとその反動で部屋に篭るようになった。


簡単にいうと、失恋したときみたいな状態だろうか。


勝手に舞い上がって、勝手に落ち込んでいるだけなんだけど。


でも、学校へ行くと3人がそばにいてくれたし励ましてくれたので立ち直りは割と早かった。





それなのにこっちの気も知らないで突然の、しかも朝一の電話。


さらには会いたいとか言ってやがる。


考えれば考えるほどに腹が立ってきた。


もうこうなったら直接文句をぶつけてやろう。


この数ヶ月の私の苦しみを全部あいつに叩きつけてやる。


でもどうせ会うなら楽しまないと時間が勿体ないし、可愛い格好して今までの行いを後悔させてやろうと思い、クローゼットを開けて洋服をかたっぱしから引っ張り出した。

















待ち合わせ時間の5分前。

いつもより人がいっぱいいる。

人混みは苦手なのに。



するとすぐに名前を呼ばれる。


「橋本さん!ごめん、待たせちゃった?」


数ヶ月ぶりに聞く先輩の声。

そして相変わらず人を気遣うその癖。


「今来たところです。お久しぶりです」と挨拶をした。


すると先輩もつられて頭を下げる。

なんかこの感じ、前にもあったような気がする。




「今日は朝から電話しちゃってごめんね。予定大丈夫だった?」


「特に予定はなかったので大丈夫です。話って何ですか?」


そちらがなくてもこちらはたんまり話したいことあるんで覚悟してください、と言ってやりたがったが、過去と同じヘマはしない。


すると先輩はワクワクした面持ちで、「話す前に行きたいところがあるんだ」と言って私の手を掴み駅に向かった。







しばらく電車に乗り、知らない駅で降りる。


ここに何があるんだろう?


休みだからなのか若い人が多かった。

先輩は携帯で地図を見ながらも私の手を離さない。


「この辺だと思うんだけど・・・あ、あれだ!」


先輩が指差す方を見ると、1軒のカフェが見えた。


「カフェ、ですか?」


「そう、カフェ!前に約束したから」


人気だから並ぶかな~と私のことをそっちのけでカフェに向かう。







運よく待たずに席に案内してもらうことができた。

古民家風のカフェで机も椅子も程よく配置されている。


最近のカフェは集客のためなのかびっしりテーブルを用意してあり “静かさ”に欠けるお店が増えてしまっている。なのでこういう落ち着けるカフェに来たのは久しぶりかもしれない。




「このエリアはカフェが多いことで有名なんだって。写真映えするところもあったんだけど、橋本さんは静かなところが好きだと思ってここにしてみたんだけど・・」


「はい。こういう静かなカフェは好きです。大学の周りのカフェはどうも落ち着かなくて。あ、先輩と前行ったところが唯一大学近辺で行くカフェかもしれません」




自分の好みの雰囲気すぎて、心がワクワクする。


駅で顔を見るまでは怒りしかなかったけど、案外簡単に機嫌が直ってしまうんだなと新しい自分を発見できた。




店員さんからメニューをもらい、一緒に選ぶ。

向かい合って座っているので私に見やすいようにメニューを置いてくれる。

こういう小さな気遣いはやっぱり嬉しいものだな。




「先輩はこの限定特大ホットケーキがお目当てだったんですか?」


あえてメニューから目を逸らさず聞いてみた。


「え!いや、そんなことないよ!前に賑やかなところは苦手だって橋本さんが言ってたから・・・」


大きな体を丸めて項垂れる。

ちょっと可哀想な聞き方しちゃったかな。


「だってここのホットケーキ、先輩の好きな王道のしっかりめですよ?それに先輩の顔くらいあるじゃないですか。美味しそうなのに」


メニューを先輩に見やすいように回転させ差し出す。

すると、それを受け取りながら、


「だって美味しいって口コミに書いてあったから・・・」とぼやいた。


その姿に思わず笑ってしまう。


「別に頼むなとは言ってませんよ、私も食べたいんですけど全部は食べれそうにないので一口もらってもいいですか?」と聞くと、「もちろん!」といって子供のような笑顔でまっすぐ手を挙げ店員さんを呼んだ。




ホットケーキは焼くのに時間がかかるらしく、先にコーヒーが運ばれてきた。

それを飲みながら、この静かな空間を堪能する。


先輩も喋ることなく飾られている絵を見たり、メニューを見返したり。

私の居心地の良さを優先してくれた。





しばらくすると、待望のホットケーキが運ばれてきた。

カフェメニューはメニューの写真と相違していることも多いが、ここは違った。

むしろメニューの写真より大きい気がする。

しかし好物を目の前にしたクマさんはサイズなどどうでも良さそうだった。




「橋本さんどれくらい食べる?」


「一口もらえればいいですよ」


「ダメだよ!こんな焼きたてで美味しそうなのに、もっと食べないと!」


なにがダメなのかよくわからないが、一口以上は食べなければいけないらしい。


「じゃあ適当なサイズに切ってください」


テーブルにあった小皿を手渡す。

するとそのお皿に乗るギリギリの大きさに切って乗せてくれた。

でもその断面からは湯気がほんのり立っていて、バターのいい香りを運んでくれる。


「これくらいで足りる?もし足りなかったら言ってね」


「これで十分です。あとは先輩が食べてください」


はちみつやメイプルシロップ、ここは生クリームも用意されてる。


各々好きなものをかけて、手を合わせる。


「いただきます」




口に運んだ瞬間、バターの香りがすぐに広がる。

卵の味もしっかりしてるしほどよいしっとり具合だ。

ホットケーキは普段あまり食べないがこれならこの大きさでもペロッと食べれてしまうだろう。

好きな人だったらよりそう思うだろう。



「これすっごい美味しいね!橋本さんもしっとり目が好きなの?」


大きい手でナイフとフォークを器用に操り一定のリズムで口へ運ぶ。


「そこまでホットケーキにこだわりはないんですけど、今日これ食べたらしっとり目が好きだなって思いました」


フォークでも綺麗に切れるしっとり具合。

コーヒーとの相性もいい。


「ふわふわ系も美味しいんだけど、食べ比べてしまうとこっちがいいなってなっちゃうんだよな~」


一口目から最後まで同じテンションで食べ進め、私より量が多かったのに先に食べ終わっていた。


「美味しかったなー。あ、橋本さんは気にせずゆっくり食べてね」


そう言ってコーヒーのおかわりを注文していた。


食べ終わった状態で待たれると嫌でも気になるが、コーヒーなどがあるとまだいくらか気負わずに自分のペースで食べれる。ま、たまたまかもしれないけど。







「この後さ、まだ時間ある?」


「この後ですか?時間はありますけど、なんか話があったんじゃないんですか?」


「そう。でもこういうカフェでは話しづらいから場所をちょっと変えたくて。付き合ってもらってもいいかな?」


全く意味は違うのに、久々に聞く「付き合ってくれ」というフレーズに胸が鳴ってしまった。

誤魔化すために残りのホットケーキを口に運び、コーヒーで流し込む。

そして先輩の問いに首を縦に振って反応した。




前回の約束通り、ここは私に払わせてもらった。

ずっとこのことも気になっていたのでやっとスッキリした。

貸し借りなし、みたいな。




「もう少し歩くと、大きい公園があるみたいなんだ。そこで話をしたいんだけどいい?」



行動の1つ1つを私に確認してくれる。

これを嫌がる人もいそうだが私は大切にされている感じがして割と好きだ。

と、最近気付いた。


地図を見ながら、2人で知らない街を歩く。

見るもの全てが新鮮で歩いているだけで楽しかった。






さっきのカフェから歩いて10分ほどで公園に着いた。

園内は本当に広くて緑がたくさんあった。

子供が遊べる遊具などもありいろんな人が集まっている。




「俺そこであったかい飲み物買ってくるよ、橋本さん何がいい?」


「カフェラテがあったらそれで。なかったらブラック以外でお任せします」


了解、といってキッチンカーカフェに向かった。











果たして私はちゃんと話せるのだろうか。


今朝はあんなに意気込んでいたのにすっかりデートを楽しんでしまってる。


それに先輩の話も気になる。

実は数ヶ月考えたけど勘違いでした、とか言われるのかな。


でもどんな結果になってもこのデートをいい思い出として私の中に残しておこう。

今日は絶対モヤモヤを残さない、これは自分と約束しよう。




「カフェラテあったよ。熱いから気をつけてね」


「ありがとうございます」


2人でベンチに座りながらコーヒーで暖をとる。




しばらく沈黙が続く。

緊張や安心、不安が入り混じる空気が2人を包む。








「話、私からしてもいいですか?」






先に沈黙を破ったのは、この空気に耐え切れなかった私だった。




「数ヶ月前、電話で私が言ったこと覚えてますか?」


「うん。ちゃんと覚えてるよ」


互いの顔を見ることなく、まっすぐ前を見ながら話す。


「そのあと、先輩が1年以上続けてくれた学食での告白がなくなったじゃないですか。あれ、どういう気持ちだったのかなってずっと聞きたかったんです」




カフェオレの甘さが心に滲みる。




「橋本さんに電話で言われた時、確かにって納得しちゃったんだよね俺」




ドリンクを飲みながら先輩が口を開く。




「初めて学食で橋本さんを見たとき、笑顔がすごいかわいいなって思って。もうまさに文字通りの一目惚れだった。その瞬間、今言わないとダメだってなんか自分で思っちゃってさ。そのまま橋本さんのところ行って告白したんだけど、今考えると怖かったよね」




くるっとこっちを向き、ごめんと頭を下げた。私は首を横に振る。




「そん時、橋本さんはごめんなさいとか気持ち悪いとかじゃなくて誰ですか?って言ったんだよね。だから俺勝手に否定はされてないってポジティブな変換しちゃって。それならまずは名前と顔を覚えてもらおうとそれから学食で会うたびに言ってた」




あの時は本当に素直な気持ちが吐露したんだと思う。

結構怪訝な顔してたと思うし。




「それで電話でああ言われた時、確かにそうだと思ったんだ。橋本さんは毎回リアクションしてくれてたけど、実は嫌だったのかもしれないって。友達に冷やかされたり、なんか言われちゃったりしてたのかもって思ったら何も言えなかった」




私はただただ彼の話に耳を傾けた。

彼の言葉を1つも聞き逃さないよう真剣に。




「だからあれ以来、橋本さんとどう接していいかわからなくなっちゃって。学食でのやりとりも、一緒にカフェに行ったことも、夜の電話も。もし全部が橋本さんの優しさで成り立っているんだとしたら、それは俺が願ってた形じゃないなって。だから連絡するのも話しかけるのも、やめた」







先輩の中でどうして私はそんなに優しいという印象があるのだろう。








「じゃあ、なんで今日会おうと言ってくれたんですか?」


「それは・・・」




先輩が黙る。

きっと今懸命に言葉を生み出そうとしているのだろう。


カフェオレを持つ手が震えてしまう。








































「それは、やっぱり会いたいって思ったから」




先輩らしい、シンプルな言葉だった。




「この数ヶ月、これが正しいんだって思い込もうとしてた。橋本さんもきっと清々してるって。でも、俺が無理だった。中途半端なことをしたと謝りたかったし、ダメならダメでちゃんとフラれたかった」




言いたいことを言い終えたのか、またしばらく黙り込んだ。


次は私の番かな。







「人の優しさって、守りたい相手ほど傷つけてしまうことがあると思うんです」




先輩がこちらを見たような気がしたが、そのまま前を見て話を続ける。




「先輩が私を気遣った優しさで、私は少し傷つきました。でも、そんな私を優しいという先輩を私も無意識のうちに傷つけているのかもしれません」




でもその優しさに救われたのも事実だ。


人の感情ほどややこしく、難しいものはない。




「初めて先輩に告白されたとき、すごいびっくりしたし正直、何だこの人って思いました。名前も学年も専攻も。何も情報がない人から告白されるなんて人生で初めての経験だったので。最初はそういう遊びなんだろうと思ってましたけど、それ以降学食で顔を合わせるたびに先輩は言ってきたので遊びではないんだろう、とは解釈してました。ただ、本気なら普通連絡先を聞いてきたりデートに誘ったり。何かしらの行動に出るものじゃないかって思ったんです。それに私は先輩から肝心なことを言われていない」




「肝心な、こと?」




「はい。だから先輩の気持ちがわからなかったんです。告白はしてくるのにそこから進展させようとはしてこない。話しかけてくるのは友達のいる学食だけ。カフェで2人で話すまでどういうつもりなのか全然わかりませんでした。でもあの時2人で話せて、疑問がいくつか解消しました。ただ、その次の日の夜から今日まで、また疑問が募りました」




「疑問・・・それは今俺が答えられるものなのかな?」




「むしろ先輩にしか答えられないと思います」




「じゃあ・・・聞いてもいい、かな?」










くるっと先輩の方へ顔を向け、目を見る。


きっとこういうのは真っ直ぐ伝えないといけないのだろう。


伝えたことがないから、このやり方が正解なのかはわからないけど。


先輩に聞こえないように1度深呼吸をする。























「私は多分先輩が好きなんだと思うんですけど、先輩は私のこと好きじゃないんですか?」




















全然可愛くない。


いつも通り、素直じゃない言い方をしてしまったけれど。

でもきっとこれからもこれは変わらないから。

今更良く見せようとしても後々自分が苦しむだけ。


だったら今は嘘偽りない自分で彼と向き合いたい。

それで判断してほしい。




「1年以上告白されても、カフェに出かけても、夜電話をしても。1度も好きだと言われたことがありません。付き合ってというフレーズに含まれていると言われたらそうとも考えられるけど、でも私はその言葉が欲しかったです。だからずっと先輩の本心がわかりませんでした。時間が経つにつれて聞くのも怖くなりました。でもあの電話以降先輩の態度を見てそういうことかと思いました。きっと先輩は私のことを好きではなかったんだろうと。ちょっとからかってただけなんだろうって。そう思い込もうとしました。でも数ヶ月後、突然連絡をしてきて私の好みのカフェに連れてってくれています。もう何がなんだかわかりません」







冷静に。


冷静に話すのよ。橋本佳奈子。









「中途半端な告白しかしてこないくせに、ダメならダメでフってほしい?そんな都合いいことよく言えますよね」











あぁ、ダメだ。治りきっていないのに瘡蓋を剥がしてしまった。痛い。










「決定権を私に委ねるの、もうやめてください。2人のことは2人で決めていけばいいじゃないですか。目の前のことから逃げないでください」














結局、こんな言い方しかできなかった。


最後の方は呼吸すら乱れてしまってうまく伝えられたのかもわからない。

逃げてきたのは私も同じなのに。

私も先輩に決定権を委ねてしまっていたのに。



でも言った言葉は元には戻せない。

これから先輩に何を言われても私は全てを受け止めなければならない。


そんな覚悟、最初から用意してきてないのに。


すると先輩が少しだけ、間を詰めて座り直した。

泣かれるとは思ってなかったのだろう、動揺しているのが顔から滲み出ていた。








「ごめん。そんなに悩ませたとは気付かなくて・・」


私の頭にふわっと暖かい何かが乗っかった。


「橋本さんの意見を聞きたいんだけど・・」


そう言って頭の上に乗せていた手を頰に移動させ顔を上げられる。


こんなぐちゃぐちゃな顔、一番見られたくない顔なのに。


大きくて暖かい手が私の涙を拭う。









「俺は橋本さんが好きで、橋本さんも俺が好きらしい。俺としては橋本さんに彼女になってもらいたいと考えているんだけど、橋本さんはどう思う?」








余裕ぶってるけど、顔は真っ赤に染まってる。


それは寒いから、という理由では説明がつかないくらいだ。


でもきっと彼の瞳に映っている私も寒いからという理由に収まらないくらい目や鼻が赤くなっているだろう。









「・・・私に決定権を委ねるんですか?」


「違うよ。君の意見を聞きたいだけ。2人の関係について話し合いたい」


「ずるいですね」


「ずるいのは橋本さんも一緒だと思うけど」




私の顔から先輩の手が離れる。

そしてその手は私の手を優しく包む。

寒空でかじかんでいた手がゆっくりと暖まっていく。




「橋本さん」


「はい」


「俺は橋本さんが好きです。初めて君の笑顔を見たときからずっと。ずっと君のことが好きです」




手を握る力が強くなった。




「だから俺は橋本さんの恋人になりたいと思ってます。橋本さんはどう思いますか?」




大きくて不器用な手を握り返し、顔を上げる。


















「とてもいい案だと思います。私も先輩の恋人になりたいと思ってました」








そう答えた瞬間、身体中を柔らかく暖かいものが包み込んだ。




コーヒーとバターの香りのする、私の恋人。

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