第25話 彼女と彼の話-3
翌朝、一応準備はしているものの、学校へ行く気力が湧かない。
しかもこういう日に限って外せない授業がある。
最悪だ。
もう今日はその授業だけ出て帰ってこよう。
このメンタルでもし先輩と出くわしたらいつもの悪態もつけない。
あのメンバーに報告する気力もない。
今日はいつも以上に静かに、そして1人で過ごしたいと願った。
不幸中の幸いなのか、必須の授業が午前中で終わった。
しかもまだ先輩にも会っていない。
よし、このまま帰ろう。
今日は誰とも話す気になれないしこの状況を説明するパワーもない。
荷物をまとめ帰ろうとしたその時。
「佳奈子、学食行く?」
文那だった。
会いたくはなかったけど愛未や優花よりはマシか。
「あー、今日はもう帰ろうかと思ってるから学食はいいかな~・・」
「そうなの?体調でも悪いの?」
文那は基本人を疑わないから本気で私の体調を心配してくれているのだろう。
有難いが今は放っておいてほしい。
「んー昨日からちょっと食欲もなくて。だから2人にも言っておいて」
「あれ、文那と佳奈子だ~」
逃げ道を失った瞬間だった。
「あ、優花。今日佳奈子体調が悪いらしくて」
素直に全て報告する文那。
いいところでもあり、少々困るとこでもある。
「佳奈子大丈夫?生理とかだったら痛み止め持ってるからあげようか?」
優花も普通に心配してくれる。
その優しさが妙に沁みてなんだかとても悪いことをしている気がする。
「今から私たち学食行くけど、佳奈子は帰る?」
2人に顔を覗き込まれ、言葉が詰まる。
帰ると言っていいべきなのか、でも体調悪いのにご飯だけ食べて帰るなんて余計に怪しい気もするし・・
「佳奈子が体調悪いのって身体的なこと?それとも精神的なもの?」
普段ふわふわしていて男ウケに全振りしている優花だが、こういうところは勘が鋭く働く。
もうここまできたら話してしまった方が早いだろう。
「後者・・・かな」
学食に着くとそこにはすでに愛未が待っていた。
「今日みんな遅くない?」
「ごめん、ちょっと立ち話しちゃってたの」と優花が座る。
「あれ、佳奈子は今日ご飯食べないの?」と愛未に聞かれ、
「あー・・あんま食欲なくて」と答える。
大丈夫?と心配してくれてる愛未の隣で、
「恋の病、だけどね」と優花に茶化された。
食欲がないのは事実なので、3人には気にせず普通に食べてとお願いした。
「で、恋の病ってなに?」
ご飯そっちのけで愛未が興奮気味に聞いてくる。
「こんな病ってほどでは・・。昨日私連絡先を渡したの覚えてる?」
その場にいる全員が頷く。
「で、昨日夜かかってきたの。最初は普通に話してたんだけど、私いつものように余計なこと言っちゃったんだよね」
さっき買ったカフェオレを飲みながらみんなに話す。
「余計なことって?」
今日は珍しく優花もお弁当を作ってきていた。
「いや話の流れでつい言っちゃったって感じなんだけど。先輩になんでいつも話しかけてくるのが学食なのか聞いたら、私の1人の時間は邪魔しちゃいけないと思ってたんだって」
「え?どういうこと?」
愛未の頭上に?が浮かぶ。
「1人の時間を大事にしてるって思ったらしいよ。寂しそうとかネガティブな感じがしなかったんじゃないかな。まあ実際そうだし」
「うちら4人みんな、ここ以外だと案外1人で行動してるよね~」
一番単独行動が苦手そうな優花が言う。
「それに学食はみんながいるからかえって話しかけづらいと思ってたんだけど、逆に友達といるときは話しかけてもいいかなって思ったらしい」
「どんな感性してんのよ」と愛未が笑う。それは私も同感だ。
「なんでそんな私に気遣いするんですか?って聞いたら、橋本さんが嫌って思うようなことはしたくないって言うから、その流れでつい言っちゃったの。学食で毎回告白してくることは私が嫌だと思わないだろうってことかって・・」
全員が口を揃えて「あー・・・(言っちゃったんだ)」と言った(思った)
「で、それに対して何も言ってこなかったの?」
「しばらく沈黙が続いたから切っちゃった」
みんなの視線が怖くて俯くことしかできない。
「そういえば今日、学食で会ってないね」
「え?私みんな待ってるとき先輩来たよ?」
「なんか言ってなかったの?」
文那が身を乗り出して愛未に聞く。
「それがさ、目が合ったのよ。だから今日も佳奈子を探してるんだろうなって思ってたんだけどあっさりどっか行っちゃったの。声かけても無視。なんかおかしいなとは思ったけど、やっぱりなんかあったんだね」
先輩、来てたんだ。
寂しい気もするけど今は会えなくてよかったかもしれない。
「でも昨日の今日だからもしかしたら謝りたいとか思ったのかもよ?」
愛未がすかさずフォローしてくれる。
「愛未の声かけを無視したのも、事情説明するのを省くためじゃない?わざわざ電話で言い合いになったなんて友達に喋るのもなんか違うじゃん。さすがに謝るのは友達の前じゃなくて2人の時に、って思ったのかもよ?」
優花も励ましてくれる。つくづく友達に恵まれていることを実感する。
確かに2人の言ってることは理解できる。
私にさえ気遣いをしてくれる人だ。
他の友達を巻き込まないようにしてくれた可能性はある。
でも、避けられている可能性だって否定はできない。
現に私が先輩を避けてしまっているのだから。
「しばらく、様子を見た方がいいかもね」
愛未の言葉にみんなが静かに頷く。もちろん私も頷いた。
その日、学食を出るまで文那がずっと手を握ってくれていた。
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