第24話 彼女と彼の話-2
でも、認めたからといって何百回断ってきた私からどうやって動いたらいいの?
さっきの話が本当だとしたら、自分の気持ちがわかるまで私に告白してきてるんでしょ?
そしたら、私がそこで動いてしまうと逆効果じゃない?
それで動いた結果、やっぱり勘違いでしたとかなったら私どうしたらいいの?
自問自答が頭の中をぐるぐるしてその場から動けない。
次が空きコマで助かった。
ひとまず外の空気でも吸いに行こうと席を立つ。
すると、遠くから名前を呼ばれた。
「橋本さん?」
「山崎・・先輩?」
え?なんで?というか私に話しかけるのは1日1回ではなかったの?
今まですれ違っても話しかけてこなかったのに。
「授業は?空きなの?」
先輩が私に近付いてくる。
どうしよう、足が動かない。
「あ、はい。2コマ空きなんです。なのでちょっと外で時間潰そうかなーって思って・・・」
あなたのことで脳みそが爆発しそうなので空気吸うために外に出るんですもう話しかけないでください・・・!と願ったときだった。
「もし橋本さんが嫌じゃなかったら、一緒に着いて行ってもいい?」
嫌です。それは本当に嫌です。
いや嫌というか無理なんですよ。
だって今あなたの対策を考えてるので!!!
・・・・・・
「その辺のカフェ行くだけなので。別にどうぞ」
もう最悪だ。
せっかく2人で話すチャンスなのに。
どこまで可愛げがないんだ私。
くだらないプライドが邪魔して、ちっちゃい自分を守るのに必死で。
素直に向き合うことさえできない私はいつか本当に愛想を尽かされるかもしれない。
「橋本さん?顔色悪いけど、大丈夫?」
先輩に顔を覗き込まれ、咄嗟に背を向けた。
「ごめんなさい、急用を思い出したので失礼します」
どんな顔をしていいかわからず、怖くなってその場から逃げ出した。
そのまま大学から少し離れたカフェに入った。
静かな空間で1人になりたい。
ソファ席に座り、アイスカフェオレを頼む。
身体中をジトッとした汗が包んでいた。
届いたカフェオレを流し込み、ふぅと深めに息を吐く。
なんで逃げてきちゃったんだろう。
先輩と話すチャンスだったのに。
愛未の言う通り、好きとか付き合うとか関係なく普通に話せたかもしれないのに。
自分の気持ちに気付いた瞬間意識しちゃうなんて、私はつくづくダメだな。
これだから人と関わることが苦手なのだ。
特に恋愛は。
これまでも何人かお付き合いをしたことはある。
でもその全てが向こうが先に好意を持って来てくれたから。
そして必ず、「君の気持ちがわからない。僕のこと好きじゃないよね?」というセリフで私がフラれて終わるのだ。
お付き合いした人のことはもちろん好きだった。
最初から好きだったかと聞かれると難しいが、でもちゃんと好きだった。
だけど私はそれをうまく相手に伝えられない。
面と向かって「好き」と言ったことはないし、友人にさえ感謝の言葉を伝えるのが苦手だ。
甘えることもできないし、喧嘩になるまで言い合ったこともない。
男性からしたら私は“つまらない”彼女になるのだろう。
急激に脳みそを酷使したからなのか、さっきお昼を食べたばかりなのに甘いものが食べたくなった。ここのカフェはケーキが有名らしく、テイクアウトで買う人も多いと前に優花に聞いたことがある。店員さんからメニューをもらい、どれにしようか選んでたとき、携帯が鳴った。
「あ、佳奈子?今どこ?」
電話は文那からだった。
「空きコマだからカフェにいるよ」
何か貸してほしかったのかな?
「そうなんだ。あ、いや・・その・・」
急にもごもごと話し出した。
「なんか急用あったんじゃないの?」
「急用っちゃ急用なんだけど・・先輩が、声、かけてくれて」
先輩?
先輩って山崎先輩のこと?
「洋ちゃん先輩が授業終わった瞬間に駆け寄ってきて、佳奈子が顔色悪いのに走ってどっか行っちゃったって言ってて。追いかけていいのかわからなかったからいつも一緒にいる私に教えようと思ってって」
心配、してくれたんだ。
「だから私もびっくりして電話したんだけど・・。カフェに居るってことは体調は大丈夫そうだね」
何かを察したのか安堵した声で話す文那。
「うん大丈夫。なんかごめんね。心配かけちゃって」
「ううん。あとこれはなんとなくの予想だけど、あんな話した後だったから先輩と会って気まずくなっちゃったのかなって思って。1日1回ルールはうちらの勝手な妄想だったね」と文那が笑った。
そして、
「もし、もしね。今佳奈子が先輩と話せばよかったって思っていたとしたらの話なんだけどさ?」
「うん」
「その場合さ・・・私は友達の恋を応援する身として、今隣ですごい心配そうな顔をしているクマさんに佳奈子の居場所を教えるべきだと思いますか?」
「え、もしかしてずっと話聞いてたの?」
「会話は聞かないようにってちょっと遠くに離れてはいるんだけど、ずっとそわそわしてて・・・」
教えてあげたいのだけど・・・と申し訳なさそうに言う文那。
彼女が置かれている状況があまりにも面白すぎたので、「位置情報送るね」とだけ伝えた。
それを教えるかどうかは文那に任せよう。
でももし先輩がここに来たら、今度は逃げずにちゃんと話そうと心に誓い、店員さんを呼んだ。
「すみません、もしかしたら1人増えるかもしれなんですけど広い席って空いてますか?」
文那に位置情報を送って20分ほどすると、店内に大柄の男性が入って来た。
大きい身体を丸めて、店員さんに小さい声で「待ち合わせで・・」と言っているのがやけに滑稽だった。店員さんにあちらですと促されると同時に私を見つけたようだ。
「さっきは・・突然すみませんでした。心配させてしまったようで」
一応、頭を下げた。
そんなに心配すると思わなかったから。
それに肩で息をしている彼を見る限りこのカフェにも急いで来てくれたのだろう。
「ううん!なんか勝手に俺が大騒ぎしちゃったみたいだね。いつも一緒にいる子を見かけたからつい声をかけちゃって」
俺の方こそごめんなさいと頭を下げた。
謝りあっている姿がおかしくて2人で笑ってしまった。
「あの、1つ聞いてもいいですか?」
先輩のドリンクと私のデザートが同時に運ばれてくる。
「うん、何?」
喉が渇いていたのか、アイスコーヒーを一気飲みしていた。
「先輩は・・・そのー・・・」
どうしよう。やっぱり言葉が続かない。
いやここで急にこの話を振るのは早すぎたか。
最初は趣味の話とか学校の話とかした方が良かったのか。
すると先輩が先に、「俺も橋本さんに聞きたいことあるんだけど、いい?」と聞いてきた。
「あ、はい。どうぞ」
ちょっと一安心。
「橋本さんって、1人で過ごすのが好きなの?」
コーヒーの水滴がついた氷をストローでコロコロ鳴らしながら話す。
「え?どういう意味ですか?」
「あ、いや!怒らせたかったんじゃなくて!」
小さめの目を最大限に広げて全力で否定する先輩。
「学食では友達といるのを見るけど、他だと1人で行動してることが多いなって思ってて・・。さっきも本当はカフェには1人で行きたいのに俺が余計なこと言ったから走ってどっか行っちゃったのかと思って。まぁ、結果邪魔しちゃってることには変わりなんだけど・・・」
俺、ストーカーみたいだね、と俯く。
お腹空いたクマさんみたい。
本物知らないけど。
「1人は好きですよ。私友達あの子たちしかいないから。だから学食以外は割と1人です。自由に動けるので困ってはないですけど」
デザートを食べながら話す。
「でも、絶対1人がいいわけじゃないですよ。1人じゃこうやっておしゃべりできないですし」
カフェオレで恥ずかしさを流し込む。
フォークを持つ手が震えていたのはバレてないだろう。
これが今の私の限界だ。
ちらっと先輩の反応を盗み見ると、「そっか。なんか安心した」と目がなくなっていた。
先輩のおかわりコーヒーと頼んだ記憶のないパフェが運ばれて来た。
不思議に思っていると、「あ、俺が頼んじゃった!」と子供みたいにはしゃぐ先輩。
ギャップがすごすぎて思わず見つめる私を、ぽかんと見つめる先輩。
「どうしました?アイス、溶けちゃいますよ?」
「あ、いや。橋本さんの新しい顔見つけちゃったなと思って」
橋本さんも食べる?と渡されたスプーンを受け取る手が震えた。
それからは他愛もない話をした。
実は友人に身体が大きいというだけでラグビーに誘われたので好きでやっているわけではないことや、ご飯は一人前で十分満足できること、パンケーキはふわふわより固めが好き、など。
今まで全然知らなかった先輩を知ることができた。
「私、そろそろ戻らないと次のコマ授業なので・・」と声をかける。
「そっか。もうそんな時間経ってたんだね。俺も授業だから一緒に、あ。」
まずい、みたいな顔をして止まる先輩。
「どうかしました?」
「いや、一緒に戻るの嫌かな~って・・・」
チラチラと私のリアクション待ちをする。
「嫌だったらこんなに長く話してないと思いますよ?」と返すと、パッと顔の周りにお花を咲かせ、伝票を持って席を立つ。
「いや、ご馳走してもらうのは嫌です!」と断るも、
「俺めちゃくちゃ食べたから!今日は先輩らしいことさせて?今度は橋本さんの番ってことで」と振り払われた。
今度、があるんだな。
深い意味はないかもしれないけどその一言が妙に嬉しかった。
2人で大学へ戻り、それぞれの教室へ向かう。
すると遠くでまた私を呼ぶ声。いや呼ぶというか叫ぶに近い。
「かなこーーーーーーー!」
振り返らずとも誰かわかる。
「文那、さっきはごめんね」
「ううん、先輩と会えた?」
結構なスピードで走って来たのか、ものすごい息切れ。
「うん、無事にカフェに来たよ。さっきまで一緒に居たし」
「え!」
文那が目を見開く。
なんかさっきもこんな光景見た気がする。
「さっき一緒に学校戻って来たよ。なんか奢ってもらっちゃった」
すると突然文那が私に抱き着いてきた。
「どうしたの?」
「ううん。なんか佳奈子がお昼の時と違ってすっごく幸せそうな顔してたから。モヤモヤしたものが少しは晴れたのかなって思って嬉しくて」
そんなこと言われると思ってなかったので、なんだか気まずいし苦しい。
でも文那が先輩に居場所を伝えてくれたから実現したこと。
「ありがとう」
距離が近いのをいいことに耳元に届く程度のボリュームで伝えた。
面と向かってはまだ言えないから。
でも、そんな小さい感謝が届いたのか文那はさらに私をぎゅうぎゅう締め付けた。
翌日も飽きもせずいつものやりとりが行われる。
私を見つけるや否や近寄って来ていつものセリフを口にする。
「橋本さん、僕と付き合ってください」と。
1年以上もこのやりとりが行われていると周りも何もリアクションしなくなる。
たまに先輩に好意を持ってる人がこのシーンを目の当たりにしてショックを受けているくらいだ。
いつもならここで断るのだが、もう1年も続けているやりとりだ。
さすがに飽きてくる。
かといって先輩が言葉を変えてくることはないだろうから、私から変化をつけることにした。
「カフェくらいだったら、付き合ってあげてもいいですよ」と。
日常会話程度のボリュームなので、聞こえてるのは先輩といつものメンバー3人だけ。
ただ面白いことに全員がキョトンとした顔をしている。
写真撮ったら怒るかな?
「橋本さん・・・今、なんて・・?」
いつもと同じ返しがくると思ってた先輩は私が急に投げた変化球にとても驚いているようだ。
「だから、カフェくらいだったらいいですよと言いました。別に行かなくてもいいですけど」
こんな清々しい気持ちで学食のカレーライスを食べるのは久々だ。すると、
「行く!行きます!えっと、お店は俺が探します!いいところ見つけたら連絡します!」と遠足を楽しみにしている子供のようにはしゃいだ後、急にテンションを落とす。
なんとなくその理由がわかっってしまい、笑うのを堪える。
先輩と文那以外の2人も堪えているが愛未の肩が動いちゃっている。
「連絡先とかって、聞いてもいいんですかね?」
目をウルウルさせてこちらを見ないでほしい。
身体とのギャップがありすぎて優花は口元を手で押さえ出してるというのに。
失礼だが早くこの場から先輩に立ち去ってもらうためにバッグからメモを取り出し電話番号を書いた。
「これです。知らない番号出ないので出るまでかけてください」と渡す。
先輩は宝物をもらったかのように目をキラキラさせ連絡するね!と言って森へ帰って行った。
「・・・もういい?」
こちらも目をウルウルさせ見つめてくる。
「どうぞ」と返事したタイミングで2人が大声で笑いだした。
「ちょっと!どういうことなの?!昨日まであんなに思い悩んでたのに!」
「カフェならいいですって言われた時の洋ちゃん先輩、状況理解できてなさすぎて可愛かったんだけど!」
息ができない~とかなんとか言いながら2人は笑っているし、
「佳奈子・・また先輩とデートできるんだね」
こっちはこっちでなんか知らないけど感動してる。
笑っていても重要な一言を愛未は聞き逃すことなく、
「というか、またってどういうこと?」と冷静に突っ込んで来た。
「昨日。みんながいなくなったあと学食で会ったの」
さっきまでは平気だったのに、思い出そうとすると急に顔が熱くなる。
「で、話しかけられたの。授業は?って。で先輩も空きコマだったらしく一緒にカフェ行って喋ってた」
細かく言うのは恥ずかしかったので要点だけ伝える。文那も特に気にしていない。
「急にめちゃくちゃ進展してるじゃん」
愛未のお弁当を食べる手が止まる。
「えー、私話が全然わかんないんだけどー」と騒ぐ優花。
「でも本当に他愛もない話しただけ。毎日の謎の告白には特に触れなかった、というか触れる勇気がなかった」
3人は嘘をついてもしょうがないので正直に話した。
「最初はなんで毎日告白してくるのかその真意を聞こうとしたの。私のこと好きなのかどうか、とか。でもいざ聞こうと思ったら全然言葉出てこなくてなんて言っていいかもわからなくて。そしたらそれを察したのかわからないけど先輩から普通に話してくれて。途中めちゃくちゃ大きいパフェ頼むからびっくりしたけど」
あの時感じたことを全て話した。
自分でもこんなに饒舌に話せるんだなと驚くくらいに。
「佳奈子、楽しかったんだね」
最後まで聞いてた愛未と優花がニヤニヤして聞いてくる。
表情がちょっとムカつくけど、否定できなかった。
だって今、思い出しながら話してただけでも楽しかったと再確認してしまったから。
みんなには言わないけど。
「・・・・・まあ、いい暇つぶしにはなった」
その場に居た堪れなくなってトレーを持って席を立つ。
「もう佳奈子は照れ屋さんなんだから~!」
遠くで愛未と優花の笑い声がする。
素直じゃないことを気にしている私に“素直じゃない”と言わず、ポジティブな言葉に変換してくれる友達には本当に助けられている。
この3人のことは卒業しても大事にしたいと思ってる。
もちろん、そんなことみんなには言わないけど。
その日の夜、寝ようとしたタイミングで電話が鳴った。
画面を確認すると、未登録の番号だった。
いつもなら無視するのだが、その日はなんとなく出てみることにした。
「はい」
すると出るとは思ってなかったようで、「え、出た!」と言われた。
かけて来たのはそっちなのに。
「出ない方が良かったですか?」と聞くと、
「いや未登録は出ないって言ってたから1回目で出ると思わなくて・・」と肩をすくめている。
実際の姿はもちろん見えていないけどきっと当たっている。
「なんとなく、先輩かなと思ったので。違いました?」
「違わないよ!わかってるでしょ!」
からかい甲斐が人だな。
「ごめんなさい、わかってます。今部活終わりですか?」
さすがにちょっと可哀想になったので普通に会話をすることにした。
「うん、さっき終わって飯食って帰って来たとこ。もしかして起こしちゃった?」
「いえ、そろそろ寝ようとは思ってました」
「そっか。ごめんね、そんな時に電話しちゃって」
あ、ちょっと寂しそう。
「大丈夫ですよ。かかってくるの待ってたので」
「ぇえ!」
本当にこの人のリアクション飽きないな。
そしてめちゃくちゃ声大きいな。
「・・・嬉しい」
「え?」
「こうやって学校以外でも話したいって思ってたの、俺だけだと思ってたから」
これをからかってる訳ではなく、思ったことをそのまま言っているから怖い。
「学校と言っても、学食でしか話しかけてこないじゃないですか」
今まで散々学内でもすれ違ったりしたのに。
「1人の時は話しかけちゃいけないのかと思って・・・」
「え?どういうことですか?」
思わず笑いが出てしまう。
「昨日も聞いたけど、橋本さんは1人の時間をすごい大事にしてるんだと思ってたから邪魔しちゃいけないんだろうなって思ってて。でも学食ではいつも友達といるから大丈夫なのかなって思って話しかけてたんだよね」
そういうことだったのか。
だから、私が誰かといる時だけ話しかけてきたのか。
「でも、昨日学食で話しかけられた時私1人でしたよね?」
優花は彼氏のところに早々に出かけたし、愛未も文那もいなかった。
「それは・・なんか表情がすごい暗かったから」
「表情?」
「いつも友達といる時は楽しそうに笑ってるし、1人の時も清々しいというか別に暗いなって思ったことはなかったんだけど。昨日は見たことないくらい沈んだ表情だったから思わず・・・」
表情の持ち主より私の表情について詳しいのでは?
「カフェで話した時はいつもの橋本さんって感じだったけど、あの時なんか考え事とかしてたの?」
考え事。
してなかったと言ったら嘘になる。
でもそれを今ここで言っていいものなのか。
もし言って明日以降気まずくなるのは避けたい。
・・・あれ?私先輩と気まずくなりたくないの?
確かに昨日は楽しかったし、今度があると思って浮かれたけど。
それにそのテンションでカフェくらいなら付き合ってやるとか言ったけど。
「まあ考え事はしてました。でも、先輩には関係ないことなんで大丈夫です」
でもやっぱりここでも聞く勇気はなかった。
聞く勇気というか、少しずつ近づき始めたこの関係を壊す勇気、というのが正解だろう。今ここで聞いて、「からかってるだけだよ」なんて言われても笑って流せる自信がない。
明日からどういう顔して話せばいいのかわからない。
だから今はこの強がりを許してほしい。
「そっか。俺にできることあったらなんでも言ってね。あまり頼りにならないかもしれないけど・・」
「そんなことないですよ。先輩は話しやすいです。何かあったら頼らせてもらいますね」
人に頼ったり甘えることは苦手だけど。
でもそう言ってくれるだけで嬉しかった。
「橋本さんにそう言われると、なんか照れるね」
そんな細かく感情の報告をしなくてもいいのに。
「じゃあ私そろそろ寝ますね。カフェの件、決まったら教えてください」
電話は表情が見えないから苦手だ。
普段から感情が伝わりにくいのにより伝えられなくなってしまう。
「あ、ごめんね。こんな遅い時間に。でも話せてよかった。あ、あの最後に1つだけ聞きたいんだけど、」
「はい、なんですか?」
「これから、もし1人で居ても普通に話しかけてもいい、のかな?」
声だけでも遠慮気味なのが伝わってくる。
「なんでそんなに私に気を遣うんですか?」
「え?俺が?」
「今先輩と話してます」
「あ、そうだよね・・うーん、そうだな~・・」
考えているのか沈黙が続く。
でも答えが気になったので先輩が話し出すのを待つ。
するとポツリ、ポツリと喋り出した。
「気を遣ってるというか、嫌われたくない、というか・・・」
「橋本さんが嫌だなって思うことをしたくないだけ、なんだよね。気遣ってるつもりはなくてむしろかっこ悪いと思う」
本当に優しい人なんだな。
こんな優しい人今まで会ったことない気がする。
「じゃあ、毎日学食で言ってくれる告白は私が嫌じゃないと?」
しまった。
しかし時すでに遅し。
もう相手に伝わってしまった以上どうすることもできない。
何やってんだ私。
当然、先輩も黙ってしまって予想通りの気まずさを迎えた。
「あ、ごめんなさい。気にしないでください。じゃあもう寝ますね。おやすみなさい」と半ば強制的に電話を切ってしまった。
「もう、何やってるんだ私は・・・」
そのままベッドに突っ伏し、気分と一緒に沈んでいった。
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