第19話 彼と彼の話-8
僕が入学してから、ほぼ毎日登下校を共にしていた。
放課後もアルバイトや友人と遊ぶ予定がない限りは一緒にいるのが当たり前だった。
家についてからも連絡は必ずしたし、2人でバイト代を貯めて旅行だってした。
大人の階段も一緒に登った。
それなのに。
本当に突然の出来事だった。
それを知ったのは、先輩の同級生が僕に声をかけてきたことがきっかけだった。
朝、いつもの待ち合わせに先輩が来なかった。
携帯に電話しても出ない。
最近寝坊が多かったので、そこまで気にしていなかった。
僕はいつも通りの電車に乗り学校へ向かう。
教室に入るとクラスメイトが近寄ってきて、
「さっき、先輩がお前のこと探してたよ」と言われたので、先輩のクラスへ向かった。
先輩のクラスに着くと、「お前、航太郎のこと聞いたか?!」とすごい剣幕で話す。圧倒されて、体が少し仰反る。
「え・・いや・・。僕は何も聞いてないですけど。朝も連絡取れなくて」
僕の言葉を待つことなく、先輩は僕に自身の携帯画面を見せた。
すると、そこには、
《俺今日で学校辞めるわ。急でごめん。真山にも言っておいて》
ただそれだけ。
たった一文だけ、書いてあった。
は?いや全然意味わかんないんだけど。
全身が熱い。
視界が歪む。
呼吸がどんどん荒くなっていく。
感情がコントロールできず、つい目の前の先輩に掴みかかってしまった。
「どういうことだよ!辞めるってなんだよ!意味わかんねぇよこんな文章で済むと思ってんのかよ!」
怒りも悲しみも名前さえわからない感情の全てが一気に湧き出て、自分ではどうすることもできなかった。
先輩達が数人がかりで僕を押さえつけた。
でもみんな、誰1人として僕を責めることはしなかった。
きっと僕と先輩の関係に勘付いていたのだろう。
でも先輩の友達はみんないい人だったからあえて気付かないふりをしてくれていた。
その日は授業を受けられる状態ではなかったので、体調不良ということで早退することにした。
僕の同級生や先生には先輩達が事情を説明してくれた。
もちろん、あいつの名前は出さずに。
1人の先輩が僕を心配して駅まで送ってくれた。
その間、僕は何も考えられず左右の足をただ順番に前に出すことしかできなかった。
そのまま電車に揺られ、最寄駅で降りる。
改札をくぐり、自転車に乗る。
そして僕は家とは反対方向の神社へ向かった。
神社の前に自転車を止めて、参道には行かずその横の先輩が住んでるマンションへ向かった。
先輩の家の前。
震える手でインターフォンを押す。
しかし、中から反応はない。
もう1度押してみるが何も起こらない。
3回目を押しかけたとき隣の扉が開いた。
隣の家の人が顔を出し目が合う。そして、こう言った。
「南さんなら、今朝引っ越しましたよ」
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