【番外編】シロ、私の宝物

…………。


「できるだけ、一緒にいる時間を増やしてあげてください」


動物病院でそう言われたのは、随分と前のことだった。


ここのところシロは、寝てばかりいる。


食事の量が減って、あんまり動かなくなって。


なんとなく、答えは分かっていたけど。


だけど病気じゃないか、目に見えない所に怪我をしてるんじゃないかって。


病院で診てもらえば、また元気になってくれるんじゃないかって、そう思いたかった。


……ニャーン


最近はずっと、窓辺で日向ぼっこばかりしてたのに。


今日は本当に久しぶりに、私の膝の上に乗ってくれた。


膝の上で丸まったシロは、少し重いのに、どこか軽いような、不思議な感じがした。


背中を、優しく何度も撫でる。


何度も、何度も。


なんとなくだけど、分かってしまった。


もうそろそろ、なんだね。


視界がぼやけるけれど、少しでもシロを目に焼き付けておきたくて、まばたきを繰り返した。


そんな私とシロを丸ごと囲うように、クロが部屋に入ってきて横になる。


大きくなったクロにもたれ掛かりながら、シロの背中を、そしてクロの尻尾を、何度も何度も撫でる。


……ニャーン


……キューン


賢いクロのことだから、きっと分かってる。


これがお別れなんだって。


クロが、優しくシロを舐める。


うちに来てから、シロがクロに毎日してあげてたグルーミング。


長くて細い舌で、器用にシロのグルーミングをする。


昔はあんなにへたっぴだったのに。


シロに教わったことが、たくさんあって、みんなみんな、必死に覚えようとしてたね。




段々と、シロの呼吸が浅く、弱々しいものになっていく。


最後まで、撫でていてあげたいのに、視界が歪んで、それを拭って。


私と、クロの涙で、せっかくきれいになったシロの毛並みが濡れてしまって。


ごめんね、シロ。


ありがとう、お母さん。


またいつか、虹の橋の向こうで会おうね。


クロと一緒に優しく、だけど、強く強く、抱きしめる。


声をあげて泣きたいけれど、最後は笑顔で、静かに送ってあげたかったから、我慢してた。


でも、もう、いいかな?





シロ……私の宝物……


あなたのことは、忘れない……





急にシロが立ち上がった。


え?


きゅ?


ニャーン


元気そうに鳴いたシロは、ぺたんと座って、湿ってしまった自身の毛並みをぺろぺろと舐めて整え始めた。


心なしか、若返ったように見える。


そして機嫌良さげに揺れる2本の尻尾。


どういうこと?


慌てて動物病院に電話する。


え、猫又?





どうやら、どうやらだけど。


シロとのお別れは、まだまだ先に延びたみたいだった。


まったくもう。


心配をかけたのに、マイペースなんだから。


シロを強く抱きしめる。


今だけは、嫌がっても離してあげない。


本当に、本当に大好きだよ、シロ。


抱きついて、声を上げて泣く私とクロを、まったく仕方ないなって顔で見るシロ。


ニャーン


キューン


私たちの日常は、まだまだこれけらも続くみたい。


願わくば、これから先も、みんなの幸せが続きますように。


平和な日々に、感謝を込めて。





ドラ猫日記(番外編)、おわり。

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ドラ猫日記〜ある日、ドラゴンを拾った〜 砂上楼閣 @sagamirokaku

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