【番外編】伝説の黒竜

大地を震わせるような咆哮が、辺りに響き渡った。


気が付くと私は、辺りを一望できる半壊した建物にいて。


そしてどこか廃城跡地を思わせるそこに、クロがいた。


辺りの建物と比較しても縮尺が狂うような身体に、立派な牙を生やして眼光鋭く辺りを睥睨するその姿からは覇気のようなものまで感じられる。


大きく、大きく成長したクロは、まるで物語に出てくる強大なドラゴンのようだった。


可愛らしくキューンキューンて鳴くクロの姿は、そこにはいない。


そんなクロを、私は遠くから眺めていることしかできなかった。




法螺貝でも吹いたような笛の音が、辺り一体に響き渡った。


すると程なくして、4つの人影が建物の中から飛び出してくる。


各々がまるで精巧に作り込まれた衣装を着てコスプレをしているような、そんな不思議な格好。


物々しい鎧や華美なドレス、全身に甲冑を身に纏っているかと思えば、猫耳と尻尾を付けた人までいた。


バラバラな見た目だけど、共通している事がある。


それは全員が武器を持っているということ。


身の丈を越える物々しい大剣。


禍々しい雰囲気の弓矢。


神々しく光る双剣。


巨大な……笛?


そのどれもにハリボテではなく、本物の武器としての迫力があった。




巨大な笛を持った人がひと一人分より重量のありそうなその笛を振り回すと、独特な音色が鳴り響いた。


まるで体の奥から力が湧いてくるような、不思議な旋律。


残る3人が、武器を構えてクロに向かって駆けていく。


(やめて!)


明らかにクロに対して敵意を持って近づいていく人たちに、ありったけの声で叫んだつもりだった。


けれど、なぜか声は出ず、その場から動く事も出来なかった。


矢が放たれ、大剣と双剣が左右からクロに迫る。


危ない!


けれど、矢も刃もクロの鱗に当たって呆気なく弾かれた。


お返しとばかりに振るわれる尻尾。


大剣と双剣の人が吹き飛ばされて、弓矢の人の所まで転がっていく。


そして、


ーーーゴオォォォ!


クロの口から、火炎放射器みたいな炎が吐き出された。


草木どころか石造りの建物の跡地すらも燃やし尽くしそうなブレス。


倒れてぴくりとも動かない4人。


そこに丸太でできた台車を押すたくさんのシロが現れて……




はっ!


夢、か。


どうやら寝落ちしてしまったみたい。


テレビ画面にはモンスターをハントする某ゲームの待機画面が映し出されていた。


確か親戚の子供が一緒にやりたいって言ってたから買ったものの、結局やらずにしまってたゲームを見つけて…


勿体無いからやろうと思ったけど、モンスターにボコボコにされて、飽きて、それで…


キューン?


私の横で一緒に寝てたクロが目を覚ましたみたい。


夢の中のドラゴンと違って、小さくて、可愛らしいクロ。


ゲームの電源を落として、テレビも消した。


眠そうなクロを抱っこして、ベッドに運ぶ。


先に寝ていたシロと並んで、横になった。


やれやれ、変な夢を見た。


さすがにあんなに大きくならないよね?


もう寝息を立ててるクロを撫でる。


ゲームはほどほどに。


それじゃあおやすみなさい…

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