火葬の日
さて、火葬の日がやって来ました。
この日で肉がついた父とはおさらばです。線香を上げ、私は就職の時に買ってもらったスーツに着替えました。どこでも着れるようにと黒をチョイスしていたのが役に立ちました。喪服用の黒いネクタイを締めて火葬場に移動します。
車を運転して火葬場に到着すると、母方の祖母と叔父、父の勤め先の社長が先にいました。私は叔父と目が合うと手を軽く上げ、「久しぶり」と声をかけました。叔父が「おお。久しぶり」と返すと祖母が「大変だったね」と声をかけてくれました。
声をかけてくれた二人に礼を言った後、私は焼いている間に食べるお菓子や軽食、飲み物を運んでいました。そして、顔を見てその場にいる皆が父へお別れの言葉を言った後、喪主を務める母の手によって、父の亡骸は炉の中へ入っていき、火葬が始まりました。
焼いている間、私と叔父と弟と祖母はただひたすらコップの水を交換するために動く人形となっていました。炉の中は熱いから、せめて水分をいっぱい摂れるように、という願いが込められています。たまに父の姪もやって来て水を交換していました。
一時間半の時間を掛けてじっくりと焼かれた父の亡骸は、それはもう見事に骨だけとなってしまいました。一緒に棺へ納めたタバコ、旅路の休憩で食べる食べ物、同じく旅路で使う杖。趣味の釣りに使う釣り竿は駄目だったので、代わりに入れた釣りの本はインクだけ落ちた白い残骸となっていたけれど、それ以外は全部燃え尽きて残っていませんでした。
そして、収容室へ移動し、父の骨を拾って骨壷へ納めていきます。最初は利き手とは反対の手で拾うというしきたりがあったのですが、最近は熱くて火傷するという理由でやらなくて良いと言われました。現代っぽいですね。
ちなみに、骨を入れるのにも順番があるんですよね。最初は下半身から、次に上半身、そして最後に頭の順で入れていくんです。中学生の頃やった以来なんで、記憶があんまり残っていませんでしたよ。
骨を全部入れたら、葬式会場の控室へ戻ってお逮夜です。一般的にはお通夜の方が通りが良いですかね? とにかく、今度は遺骨と母を乗せて私の運転で葬式会場へ戻り注文していた寿司とオードブルを受け取り、夕食の準備です。食事の間は父の思い出話を聞いていました。ついでに恋人はいるのか、などの近況も聞かれました。いつの時も恋人はいないって答えるのはキツイものがあります。
親戚が帰った後は特に何もなく、一日が終わりました。次は、いよいよ葬式当日です。
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