初めて葬式をやる側になった

龍崎操真

初日から火葬前日まで

 どうも、龍崎操真です。

 ツイッターでは報告したのですが、先日の1月21日に急性骨髄性白血病で入院していた私の父が逝去いたしまして、ちょっと筆を置いて連載の方が休止している状態です。でも、どこかに気持ちを吐き出したいなと思い、これを書いています。

 せっかくなので、逝去した日の初日から火葬前日、火葬の日、葬式の日の三パートに分けて書いていこうかと思います。

 このページでは、最初の二日間の事を書いて行きます。




 知らせが飛び込んできたのは、深夜一時でした。私は酒を飲み、現在放送中の「ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン」を実況しながら見終わって、さぁ寝るか、と布団を被った時の事です。突如、固定電話が鳴りました。驚いて飛び起きた母より先に受話器を取った私が電話に出ると相手は「秋田厚生医療センターです。○○さん(父の名前)のご家族の方ですか?」と告げます。以下、私と厚生医療センターの看護師さんとのやり取りです。

 

「はい、そうですけど……」

「あの、現在こちらに入院されている○○さんが10時頃に頭が痛いとおっしゃいまして、ナースセンターまで来たんですよ」

「はい……」

「それでその場で戻してしまってそのまま意識を失ってしまって……」

「はい」

「現在、意識レベルが低下してしまって昏睡状態になったので今すぐに、こちらまで来てもらえませんか?」

「分かりました。すぐに行きます」


 と、こんな感じのやり取りをした後、母に事情を説明をし、すぐに着替えて車に飛び乗って厚生医療センターへ向かいました。もちろん、私は軽く酒を飲んでいたので運転は母がしました。

 厚生医療センターに到着し、ナースセンターへ直行すると担当の医師から父が現在どういう状態なのか、その説明を受けました。

 端的に言えば、脳の血管が切れた事で脳の右側が圧迫されているとの事でした。左目に光を当てても瞳孔の収縮などの反応がなく、痛み与えて起こそうとしても反応なし。それで血圧が下がる薬の点滴で様子を見ている。次に、手術で取り除こうにも、ここに移る前にポリープの除去手術を受けていたため、体力的な面で手術をを行う事ができない。そういう説明でした。そして、説明を受けた後に父がいる病室へ案内されました。

 病室の中にいた父はイビキをかいて眠っていました。しかし、その体勢は普通の仰向けと違い、気道を確保するための肩を浮かして支えられている物です。


「とりあえず、声を掛けてあげてください。私達は泊まれるよう準備します」


 そう言い残し、看護師の人たちは病室から出ていきました。看護師の言うことに従って、母が父に呼びかけます。


「おっとう、来たよ」


 母の呼びかけに父からの返事はなく、イビキをかいているだけです。私はなんと言っていいか分からず、見ているだけしかできませんでした。

 とりあえず、準備が整うと母が病室に、私は家族の控室にいる事になりました。そして、仮眠を取っていくださいと渡された毛布を被るといつの間にか、眠りに落ちていました。

 そして、午前4時50分。私のスマートフォンが震えます。相手を確認すると母からでした。

 

「○○(本名)、来て」


 言われた通りに駆けつけると、看護師さんが私と母に言いました。


「手を握ったり、呼びかけてあげてください。もしかしたら反応があるかもしれません」


 即座に母が父の右手を両手で握り、呼びかけました。


「おっ父、一緒に帰るよ」


 涙声の呼びかけでした。でも、父からの反応はありません。依然としてイビキをかいているだけです。私も手を握って呼びかけます。


「おっ父」


 返事はなく、返ってくるのはいびきだけ。それでも、母は涙声のまま父への呼びかけを続けました。


「おっ父、一緒に帰るよ」

「ほら、おっかあ泣かせちゃ駄目だろ」

「一緒に帰るよ!」

「今度、俺も一緒に釣りに行くからさ。だから起きてくれよ」


 二人でこんな感じの事を言ったと思います。でも、返事はありませんでした。そして、そのまま午前5時31分、父は帰らぬ人になりました。

 医師の人から死亡確認と助けられなかった事への謝罪を受けた後、私と母は父の仕事先と父の姉、及び家で何も知らずにぐっすり眠っているであろう弟、そして母方の祖母にそれぞれ電話をかける事になりました。

 唯一、すぐに連絡できる母方の祖母への電話は私が役割を買って出ました。そこしか連絡先を知らなかったので。

 席を外した私は電話帳にある祖母の家への電話番号をタップしました。できればまだ寝ていて欲しい。そう思いながら、コール音を聞いていました。しかし、そんな願いはお構いなしに二回くらいコールしたら、祖母が電話に出ました。


「もしもし?」

「おはよ、ばあちゃん。○○(本名)だけど」

「うん。おはよう。なした?」

「実は、おっ父さ。ちょっと白血病で厚生医療センターに入院してたんだけど……」

「あい〜仕方しがだねごと……。うん。お父さんがなしたの?」

「ついさっき、亡くなり……ました……」

「えっ!?」


 受話器の向こうで祖母の驚く声が聞こえました。当然です。なぜなら、父はそのまま病気になったのは伏せたまま退院して、何も言わずに日常に戻る予定でしたから。

 その後、慰めの言葉と励ましの言葉をもらって、電話は終わりました。

 病室へ戻ると、ちょうど母も電話を終えた所でした。


かぁ、起きてた?」

「うん、起きてた」

「びっくりしてたでしょ?」

「うん」


 そんなやり取りをして、母は葬儀屋への電話をしました。その後、病室を片付けた午前7時20分に葬儀屋の人が到着し、父と母は葬儀屋の車に乗り込みました。一方、仮眠を取って酒が抜けた私は厚生医療センターに乗ってきた車で、走り出した父と母が乗った車の後を追いかけました。


 


 葬儀屋が所有する葬式会場に到着すると、控室に案内されました。テレビや浴室など、宿泊ができるよう用意されたその部屋で葬式の準備をするのです。

 控室には、既に父の亡骸が運びこまれていました。そして、その前には線香や位牌、ろうそくなどが用意されています。

 控室に入ると疲労がどっと出てきました。そして、同時に眠気で目蓋が重くなります。そんな私へ、母が声をかけました。


「あんた、起きっぱなしだったから眠いんでしょ」

「いや、少し寝たよ」

「まずや。眠たかったら寝な」


 この時、私は素直に母の言うことに従って、就寝用のベッドルームでちょっと眠る事にしました。二時間くらいで目が覚めると、リビングのような部屋から何か知らない男性の声と聞き慣れないけど過去に聞いた事ある声が聞こえてきます。どうやら、父の姉達が到着して葬式の段取りの話をしているようでした。どんな顔して行けば良いのか分からなかった私は、話が終わるまで待っていました。そして、話が終わって男性の人が帰ったタイミングで顔を出し、父の姉二人とその旦那、父の姪へあいさつをしました。ぶっちゃけた話、非常に気まずかったです。

 あいさつを交わした後、打ち合わせで決まっただいたいの日程を聞いた私は、すぐに勤め先へ電話して休みをもらいました。勤め先の人からも慰めの言葉をもらった後、わざわざ来てくれた最寄りの寺の住職が経を読んで帰っていきました。




 次の日は遺体の身支度をする湯灌ゆかんの儀、そして棺へ納める納棺の儀を行いました。納棺師の人に従って父の身を清め、あの世への旅支度をしてあげるのです。冷たくなった父の頭を洗ってやるのが非常に辛く、着物を着せてやるのが本当に大変でした。そして、棺の中へ納める瞬間にもうこれが最後なんだと思うと泣き崩れるとはいかなくても、涙が出てきてこらえる事ができませんでした。そして、あの世へ旅立つ人が使う財布の頭陀袋、頭に着ける頭布ずふ、死者への思いを届けるようにと願いを込めた折り鶴、その他に花や食べ物などを棺へ入れて蓋を閉めました。

 納棺の儀を済ませた後は、だいたいだった残りの日程を固めて、火葬に備えて早めに寝ました。そして、ついに火葬の日を迎えます。

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