背理に抗う天秤-7-
三件の犯行現場から
そこで返ってくるのは、「一家の大黒柱たる父親は、社会的に地位のある人間だが、家庭内暴力を振るう人格破綻者」だの「父親にはさしたる地位も名誉も持たない田舎臭い地域の住民達を見下すような嫌らしさがあった」だのと、止め処ない悪評が溢れ返るばかり。
中には「あの家の娘を見たことがない」という情報も数多に渡り聞こえてくるが、年齢で言えば十四歳になる一人娘が通学している気配もなく、通学先の中学校も心配の声を上げていると言うのは、やはり
一通りの情報収集を終えた後、僕達四人は到頭
「こんな夜更けに一体何用ですかな?」
当然夜も遅い時間の訪問に対し傍迷惑そうにインターホンの画面から顔を覗かせた男は、不機嫌そうな声を上げる。画面に登場した彼は、きつめの印象を与えるつり目をしており、オールバックで固めた髪型に、バッチリと高そうなスーツを
失礼は重々承知だが、僕達が一連の連続殺人に纏わる事件を追っている軍属の者であることと、
「次の犯行の標的に我が家が入っているとは、どういうことでしょう?」
彼から疑問が浮上するのも当然だった。玄関口ではそれくらいことを急くように口早く、手っ取り早い説明しかしなかったのだから。一家が命の危険に曝されている、なんて口上で始まる謁見の要求など、通常ならば断れるはずもなかろう。
しかし厄介だ。今日得た諸情報によれば、犯行対象となるのが虐待などの横行した家庭であることは確かなのだが、それを
僕達全員は同じどん詰まりに行き着き、純粋な質問の回答に考え
食器を洗う時に出る陶器の擦り合う音色、テレビから聞こえる出演者の声、トイレの流水音。それらのざわめきが、一瞬氷の世界に閉ざされたように凍てついて静まり返る。近隣住民にすら影を認知されない少女が実在していたという事実が、正に強調された瞬間である。
「お嬢さん、こんばんは。夜分遅くに騒がしくして大変申し訳ない」
数秒の後、最初に意識を取り戻したレンさんが、奥でこちらをぼーっと眺める少女に声を掛ける。僕と彼の彼の部下二人も次いで意識を取り戻すが、彼女の
娘に対するレンさんの挨拶から、辛くもその存在の登場に気付いた
「彼女、随分と酷い格好じゃないですか。学校にも顔を出していない様子、と伺っていますが、何か特別なご病気でも患っているので?」
「他人の家庭環境にまで口出しするほど、いつから軍人は偉くなったんだ?」
醜悪な返事に反吐が出る。よもや虐待が露見した今、彼――
「一連の殺人事件を引き合いに、我々
盛大な怒声と共に、僕達一行は直ぐ様野外へと追い出されてしまう。塩を撒かんとばかりに拳を振り上げる
「やれやれ。虐待の存在を白日の下に曝されてなお、命乞いを優先するみっともない
一瞬、
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