背理に抗う天秤-5-
家庭内暴力、育児放棄、虐め、匿名の誹謗中傷。それが
殆ど無理強いに等しい事情聴取で、嫌な記憶を呼び起こすような真似をしたことを詫びるレンさんに、
「
少女の現状を気遣ってそう問えば、彼女は過剰に重かった肩の荷が下りたかのように、安穏に「まあね」と微笑んだ。
ただ、報われないのは
「実際のところ、
かつての親友にそう想って貰えることこそ、今は亡き
確かに虐めという行為自体は、どんな理由があろうと正当化できるものではない。しかし、極限まで追い込まれた人間は、きっと自分より不幸な人間がいることに安堵感を得るものだ。だからこそ、
彼女自身殺されてしまった今、僕達にも
もしも、もしもだ。今回討伐対象とする
確証を得た訳ではないが、推論を共有するのはありだろうか。下手に教えたことで部隊内の混乱を招く結果になりはしないだろうか。――そう危惧するも、一人で抱え込んでも仕方がないと割り切り、僕はレンさん個人に向けて一つの仮説が立ったと、そっと小声で囁く。
万一これが真実であれば、決して真っ向から向き合いたくない仮説だ。目を背けるように、どこか
「本当に初任務とは思えないほど利口な発想だな。お前の仮説は存外間違ってない」
レンさんはマスクの下でどんな顔をしていただろうか。したり顔をしているような予感を覚えながらレンさんを眺めていると、彼は
「有益な情報提供に感謝します。それでは我々はこれにて失礼する。貴方達家族に、今後幸多からんことを」
そう別れの言葉を交わして、
本日回る犯行現場は三つ。そのうち一つの検証を終えた。残りの二つでどのような物的証拠・状況証拠を得られるかが今後の課題となる。まだまだ気は抜けないぞ、と密かに己を鼓舞する最中、僕は先ほどの推論について思考していた。
あの時推論を口にしたとは言え、果たして
次の現場に足を運ぶ。とは言っても、頻繁に運行している交通機関があるほど交通網は完備されていない。次のバスが来るまでの間、僕は
「ルカさん。僕はこれまでの訓練期間で
ルカさんは、次に訪れるであろう問を耳にしたくないといった雰囲気を纏いながら、「……何でしょう」と少し言い淀んだ。彼は僕がこれから質問しようとしている内容を感知しているのだと静かに悟ったが、敢えて明確な回答欲しさに僕は尋ねた。
「人間性を喪失した者――つまりヒト型の
「…………ありますよ」
長い沈黙の末、案の定、肯定の台詞が返ってくる。
ルカさん曰く、人の形を成した
「それってまるで――」
――【
被害者を出さないためにも、人ならざる
「ハチ。僕は君の戦う信念を揺らがせないため敢えて
「そ、……うですか……」
彼が真実を隠していたことに怒りや恨みが生じる訳ではない。優しさから生まれた嘘に対する罪を嘆いて欲しい訳でもない。ただ、やはり僕の歩むべき道の上には純粋な殺人が付き纏うのだなと、再認識したまで。対
「今回の
後に引けないように。彼ら第一部隊のメンバーと同じ土俵に上がるために。僕は腹を括ってそう進言したのだった。
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