背理に抗う天秤-4-
現場検証に来ただけのはずが、
ガラリと引き戸を開けて出てきたのは、四十代半ばの女性。黒づくめのガスマスクをした四人組を目前にした彼女は、一瞬「ヒッ」と小さな悲鳴を上げたが、レンさんが先んじて自己紹介することで女性の混乱は免れた。
「第三師管区総司令部の者です。この度は先日亡くなったお隣の
そう告げると、
人間の心情の機微に鋭敏に反応するのが得意なレンさんは、彼女の醸す不協和音に気付きながらも、らしくなく
「
「帰ってください」
突然の門前払いにレンさんは「やはりな」とでも言いたげに溜め息を吐いた。僕はレンさんが
決して良好とは言い難い両者の関係を慮りつつも、相次ぐ猟奇的殺人の犯人解明に少しでも力添えできないかと、僕が横を割って申し出る。すると彼女は激昂したようにヒステリックを起こした。
「あんな奴ら、死んで当然なのよ!!」
温和だった表情が一気に鬼の形相に早変わりする。人の死を悼むでもなく、死んで当然と広言する姿勢は、正に嫌悪を体現していた。それほどまでの冷遇を、それほどまでの脅威を、あの家族から受けて来たのだろう。彼女の地雷を踏んだ――そう一瞬にして理解した。
が、しかしこちらとて貴重な情報源をみすみす逃す訳にもいかない。何とか
「お母さん、落ち着いて」
「
少女――
レンさんが彼女に改めて自らが軍の者であることと
「――私は
淡々と語る
ただ、心配性の母親にバレたくない一心で、只管被害の痕跡を隠してはいたものの、段々とエスカレートするそれを隠し切れる訳もなく、遂に母親に問い質された間際に
『
『この度はお宅の大事な娘さんを傷付けてしまい、大変申し訳ございませんでした! ほら、お前も謝るんだよ!!』
ガツンガツンと何度も床に顔面を叩き付けられ、凄まじい勢いで鼻血を噴き出している
『そ、そこまでしなくても、謝罪の一言と今後同じことを繰り返さないという反省をして頂く約束だけで、私達は十分ですから……!!』
眼前で予期せず展開された暴行に
漸く父親の腕から解放された
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