背理に抗う天秤-3-
件の
すると中は強盗や窃盗にでも遭ったのではないか、というレベルの散々な有り様であった。物盗りの類が見境なく金品目当てに散らかしたのとはまた違う。侵入者と家の者達が総力を上げて闘争を繰り広げたであろう形跡は、そこかしこに散らばる血痕から見て取れる。
死体を
現場における犯行の流れは、実際の犯罪などの凶行に明るくない僕ですら
凶器がないためそれは犯人が現在も所持していること、犯行はいつも宵闇に紛れるようにして夜間に行われること、今回は生存者がいない案件であること。などと見て分かる内容を情報共有をし合った先で、今度は
ルカさんとの座学では、
一人置いてけぼりを食らっている間にも会話は進む。一見して
そこでレンさんが懐から検査薬品のようなものを取り出す。僕が思わず「何ですか、それ」と尋ねると、「
先ほど三人で論議した末、一連の凶行が
結果は、黒。
本案件が
玄関から外に出た途端、聞こえてきたのは村人達の噂話。それこそ一家惨殺された
「我々、殺害された
全身黒づくめのガスマスクが、六フィートを越す大男が、突然会話に割って入ってくるという極めて異質な光景に、奥方二人は一瞬身を縮ませたが、彼が軍属の者だと分かるや否や、にっこりと微笑んで会話の輪に入れてくれた。
「あら、妙な出立ちだと思ったら、あの第三師管区総司令部の軍人さんだったのねェ。
本来の捜査であれば被害者の身辺調査をして然り。それを怠るとは何と杜撰な捜査だと、最初は警察の無能さに頭を抱えていたが、
同時に、世間的に警察より信頼度の高い軍人という位置付けに違和感を感じながら、それが特殊精鋭部隊たる
「奥方御一同にご忠言申し上げますが、警察の方々も日々怠惰に過ごしている訳ではありません。ですから、必要な情報提供は是非ともしてあげてください。我々軍人は未解決事件を追う最後の砦として、警察の方々から収集した情報の全てを引き継いでいる。故に、警察への情報提供が無駄になることはありませんよ」
警察に対する冷遇っぷりにフォローを入れざるを得ないレンさんの声音は、僅かに苦笑いしていた。奥方二人が、「最終的に軍人さんのお役に立つなら、警察への情報提供もやぶさかではないわね」と納得する中、レンさんは会話の軸を
「早速で申し訳ないのですが、我々第三師管区総司令部は
「いいのよ~、そんなに畏まらなくて。今や警察より余程軍人さんの方が信頼できるご時世だもの。警察が万策尽きた案件を華麗に解決してみせる第三師管区総司令部の快進撃を、私達は何度もニュースで目にしているんですから。その手助けになるなら協力は惜しまないわ~」
奥方二人は軍人というものに対し極めて親和的であるため、そこを上手く利用した情報収集は存外お手軽に済みそうだ。無論上手く取り入ったレンさんは、更に詳しい情報を追及しようと試みる。
「それで、お二方から見た
すると奥方二人は、「その言葉を待ってました」とばかりにマシンガンの如く
「あそこのお宅は夫婦共々感じが悪くてねェ。こっちの挨拶に返事も返さないくらいご近所付き合いに無頓着というか、常に人を下手に見ているような高慢痴気な性質があったのよォ。旦那さんが大手企業勤めだからって天狗になってるのかしら?」
「一度家族全員で出かけている姿を見たけど、外出を楽しむような雰囲気は全くないし、家族だってのに殺伐とした空気を纏っているのを見掛けたわよ~。遊びに行く先が観光施設とかアミューズメントパークみたいなところじゃなくて、お葬式や警察に呼ばれたような雰囲気っていうのかしら。家族でわいわいって言葉は、あの家庭には似合わないかもね~」
「お子さんも悪い噂で持ち切りだったわよねェ。上のお姉さんなんて就学先で虐めの主犯格を張っているっていうし、下の弟さんは引き篭もりだけどSNS上で誹謗中傷の投稿をしてのさばっているらしいし。あの家には碌な人間が居ないわァ」
「そういえば私聞いたわよ~。弟さんったら動画配信しているちょっと有名な配信者さんを匿名でバッシングして自殺未遂まで追い込んだとか何とか」
「怖いわねェ。そこまでして他人を貶したり乏したりする理由が、私達凡人には理解できないわァ」
ここまできたら両親にも何か問題がありそうだ。近隣の住人に事情聴取する意義はまだまだあるだろう。なんて考えていると、奥方の方から朗報が舞い込んだ。
「そうだ!
「そうね~、何なら
「「「「是非」」」」
思わぬ吉報に僕達四人は見事食らいつく。全く同一の反応を示す僕達四人に奥方は「皆さん仲が良いのね」と微笑む。彼女らを筆頭に、黒づくめの集団は更なる情報を求めて、少し離れにある
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます