首輪に従う黒狗-10-
厚い期待を無碍にされて、「糞狸め」と小さな声で悪感情を燻らせる少佐を見れば、なるほど
「ハチの内部調査と言っても、我々の通常任務は各個部隊が単独行動する場合が圧倒的に多く、現存する各九部隊との接触自体が難しい。閣下の言うところの任務遂行は極めて困難に思われますが、そこについてはどのようにお考えで?」
「任務発行に僕が一枚噛むよ。それで各部隊との長期合同任務を用意しよう。各地で広大な紛争制圧が依頼されたり、街中に潜む大量の
そこまで順当に手配されているのであれば、最早お手上げだ。そう言わんばかりに泣く泣く僕の保護係を受諾した少佐は、あんなに保護係を嫌がっていた割にいざ保護係に決まったとなったら、即座に手の平を返した。僕の訓練に割く時間が、一分一秒でも惜しいのだと、早急に訓練に取り掛かりたいと申し出る。少佐自身が答えられるものなら質問は後ほど自身で済ませ、今は
少佐が急く気持ちは十分に理解しているが、あと二つだけ、僕は
「ああ。それに関してだが、ルベルロイデ少佐の私室近辺と室内の監視記録が、丁度一ヶ月前から破損していてね。バックアップも綺麗に消去されていて、破損データのサルベージは極めて困難。少佐自身もラナンキュラの遠征任務に赴いていたから我々監視官も監視の必要性なしと判断してしまい、復旧が後回しにされたのかもしれないが、実際に復旧したのがついさっきなんだ。だからハチ、君がいつ・どこから・どうやって侵入したかは掴めない。まあ何にしろ、
まさかの事実解明ならずに一驚を喫する。過去の自分が凄腕の
「少佐。聞きたいこと、終わりましたよ。
少佐と
「分かった。部隊は全部で十あるからね、合同任務を一つずつ
「では閣下! 小官のラナンキュラ遠征任務のご報告の詳細は、後に提出する報告書をご査収下さい。また、並びにハチの処遇決定につきましても、貴重なお時間を頂戴し、感謝の念に堪えません」
少佐が「これにて失礼!」とでも言わんばかりの敬礼をするので、慣れないながらも見様見真似で僕もそれに倣う。
「本日より三十日後、ハチの任務遂行の一環として、トゥールオルン少佐率いる第二部隊と一週間の長期合同任務を用意する。それまでにハチ、君は死なない実力を身に付けるように。あと、今の君の負傷部位の治療に第十部隊所属・クンツロール少佐の無償治療を手配した。訓練を始める前に、先にそちらに立ち寄るといいよ。彼は全国屈指の一流ドクターだ。その程度の傷なら完璧に処置してくれるだろう。それと、君の記憶喪失についても何か有益な情報が得られるかもしれない。その点についても彼に相談してみるといい」
「……はい、Xデーまでには訓練を怠らず、生き残る実力を身に付けるがために善処します。治療についても感謝申し上げます。すぐに治療を受けて訓練に励む所存です。それと僕のこの記憶喪失についても、実りのある医学的な知見がないかクンツロール少佐に直接確認してみますね。では、一旦失礼します。ご報告はまた後日」
そうして、怒涛の情報交錯の末、僕達二人は絢爛な執務室を後にした。
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