首輪に従う黒狗-11-
ものの数十分。たったそれだけで今後の道筋が確定してしまった。衝撃的なこともあれば、絶望的なこともあり、気持ちは大きく揺さぶられたが、世界の裏側の一面を耳にし、その裏世界から逃れる手段が奪われている点により僕の意思は固まり始めていた。監視官総括役による裁判を切り抜けた今、ただ生き残る。その術を身に付ける――それだけだ。
「訓練にあたって、まずお前が配属される
またあの秋田犬の面とガスマスクをした二人で、野次の飛び交う中歩いていくのかと少しばかりげんなりしながら、
「第十部隊のクンツロール少佐はレディには優しいが、野郎には手厳しいのが難点でな。閣下のご命令だから適切な処置はしてくれるだろうが、消毒や包帯の処置は野郎が苦痛を感じるように嫌がらせしてくることもあるだろう。その時は俺に言え、奴の眼鏡を
移動を開始しながらからからと笑う姿を見るに、「ただ単純に少佐がクンツロール少佐の眼鏡を
執務室までの移動時間は無言を貫いていたのにも拘らず、今はやけに雑談を仕掛けてくる。その変化に不思議と違和感を感じたので「今普通に会話してますけど、道中また無言の荷物を演じる必要性が?」と問えば、返ってくるのは「いや、小声で会話する程度なら問題ない」と。
「じゃあ、先に一つだけ質問です。またガヤガヤしたところで聞くのは憚られるので今聞きますが、貴方の名前を教えて頂いても?」
「レンハルトだ。レンハルト・ルベルロイデ」
「あー、短い方でも長いのでレンさんと呼びますね」
物覚えの良い方ではないので軽くそう返せば、彼は目をパチクリさせ驚いていた。何しろ、未だに軍人基質とは程遠い人間故、今更正体が総本部の監査役でしたなどとカミングアウトされても、そう簡単に畏まった態度に即座に切り替えられるほど器用ではないからだ。レンさん本人も嫌な顔一つせずにそう呼ばれることを承諾していたから、半ば呼び名はこれで決定だろうと確信していた。
「変に畏まった態度で距離を置かれるよりは、まあまだマシか。呼び方も本来ならばルベルロイデ少佐と呼ばせたいが、この
片や総本部監査役(階級不明)と片や
「あ。あと、第四隊舎を通過した時に飛んできた【
「ああ、あれはただの簡易的な嫌悪を表した異名だな。端的に言えば僻み。重要任務は八~九割方俺達
「やっぱり良い意味ではなかったんですね。……それにしても、随分と達観した主観というか何というか」
「まあ、それなりに生きてりゃそうもなるさ。しかし中には尊敬してくれている奴もいる。そういう奴とは惜しみなく交流を取ると良い。良い教本になるだろうからな。手始めに付き合うならそうだな、せめてコールマン大尉レベルの士官にしておけ」
随分と蛋白に応えるレンさんは、最早その野次馬の誹謗に傷付くほどのデリケートさを失うくらい図太いだけなのか、しれっと答えた。それはまるで
確かに他人の悪口ばかり言っている人に、実力が伴わないケースが多いのは分かるが、多少なりとも傷付いたり落ち込んだりするのが普通の人間である。だが、相手はあのレンさんだ。言いたい奴には言わせておけと、そうきっちり割り切れるのが彼の肝っ玉の据わった感性なんだろうと合点がいく。
「
否、身構えるに決まっているであろうに。世界一と謳われる歩兵部隊たる
「さあ、まずは
僕を担いだままのレンさんは足早に執務室を後にして、どこぞにあるやも知れない
クンツロール少佐――果たして彼がどんな人物なのか皆目見当も付かないが、不安ばかり抱いても仕方ないと己を奮い立たせる。それなりに上手くコミュニケーションを取れればいいんだけど……と内心独り言ちつつも、事前情報として得た該当人物の
気乗りしないままの僕を連れて、レンさんはズンズンと
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