首輪に従う黒狗-5-
「まず少年と少佐。君達二人が共に認知していないであろう核心たる急報が存在するので、先んじてそこからことの次第を話し始めたい」
全ての元凶となった総説叙述の皮切りとして、
「だが少年。これから話を進めるにあたって【君の名前がない】というのは、説明における最大の妨げになる。間に合わせでも何でもいい。まずは君の仮の名を決めようじゃないか。生憎僕は名付けのセンスがないのでね、君が思いついたものにしよう」
確かにこれから切り出す解説において、僕の名前がなければ積もる話もスムーズに運ばないだろう。適切な仮名を案出することも適わぬため、僕は嫌々ながらも先ほどコールマン大尉から命名された【ハチ】という呼称を提言した。
「なるほどね。君のその秋田犬の
くつくつと目尻を下げながらも皮肉る
「ああごめん、話が逸れたね。そうだな。ハチ、君の正体はね――」
――この第三師管区総司令部における
「「……は!?」」
初めて、少佐と反応が被った。それも当然。僕も彼も、まさか【ハチ】という人間が秘密裏に用意された軍部上層の役人であることなど、知りもしなかったことなのである。しかし、己が重要な密命を担った役人だとしても、記憶喪失であることの説明が付かない。その根幹たる理由を問えば、
思わず訳が分からないと不審が口を衝いて出た。起床時から記憶喪失のスタートを切った自分にとって、先の任務というのも知り得ないことであるからだ。徐々に疑問を紐解いてみれば、何とこちらに派遣される前に負った傷で記憶喪失を生じた僕は、先日戦線復帰したばかりの新米
当初は
「閣下。何故ハチが
少佐が声を上げる。彼は何故
「少佐、これは君のことを既に
まあ、計画の要となる【ハチ】が現地に召喚されたにも拘らず、任務続行が困難になる程度の負傷で記憶を喪失したため、計画は頓挫した訳だが。
また、現状新たな
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