第11話灰となった思い出の顕現

それから山代さんの話は続く・・・。

「それで私と楓は段ボールの中身を探していたら、春子の部屋にあったのですよ。しかも片付ける前の、全く元の状態になっていたんです・・・。これはさすがに私も楓もとても驚いて、もしかしてここには息子夫婦と春子さんの霊がいるんじゃないか・・と思ったのです。この家から出ていきたくなくて、荷物を元にもどしたんだと・・・」

話しているうちに佐俣さんは涙をこぼした。見えなくても、家族が蘇ってきたことに嬉しさを感じたに違いない。

「それから私と紅葉は、部屋のリフォームを諦め家族の霊と仲良く生きることにしました。霊でも家族なら、不思議と怖くはありませんでした。物が勝手に落ちたりするのも、慣れれば面白いものです。」

しかし、その生活は長く続くことはなかった・・。

紅葉さんが、脳卒中で倒れそのまま亡くなってしまった。一人で二世帯住宅を維持するのは大変なので、今から十二年前に今住んでいるところへ引っ越してきたそうだ。

「お話を聞かせていただきありがとうございました。実はあの家からこんなものが見つかりまして、なんだかご存知ですか?」

椿は道草が事故物件で見つけた指輪を佐俣に見せると、佐俣は指輪を凝視した。

「これは・・・、生前嫁さんが無くしたと言っていた指輪だ。どこで見つけたんだ?」

「キッチンのところに落ちていました。」

「そうか・・・、生きていたらさぞ喜んでいただろうな・・・」

佐俣さんは指輪を手にとって、懐かしそうに見つめていた。

そして佐俣さんと我々は、山代夫婦と春子さんの仏壇に指輪を置いて、手を合わせた。

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