第96話 おまいう

「なるほど。かんばせさんはユニークスキル【背後霊ゴースト】で、お兄さんの経験値を貰ってレベルが上がったと」


私の話を聞き、プレイヤー協会の支部長が渋い顔をする。


「はい、そうなります」


正確には一万年以上分なんだけど、まあそれを説明してもきっと信じてくれないだろう。


「むう……にわかに信じがたい話だ。だが実際、彼女のレベルは5000。それだけ優れたユニークスキルだった……いや、レジェンドスキルならともかく……」


支部長が渋い表情のまま額を押さえ、考え込む様にぶつぶつ独り言を呟き出した。


なんか長くなりそう。

葛藤が終わるのをただ待ってるのもあれだし、お菓子でも貰おっかな。


私は出されたお菓子に手を伸ばし、そして頂く。


うん、美味しい。

これは間違いなく高級品だわ。

持って帰ってお母さんと一緒に食べよっと。


支部長が考え込んでいる隙に、私はそのお菓子を素早く数個ポケットに突っ込んだ。

ミッションコンプリート。


『お菓子よりマヨネーズじゃい!マヨネーズを寄越せ!』


ぴよちゃんが私の中で叫ぶ。

この子は徹底してマヨネーズ原理主義だ。

まあ私もマヨネーズは嫌いじゃないんだけど、流石にそのまま啜る程ではない。


「ああ、すいません。少々考え込んでしまって」


「お気になさらずに」


勿論社交辞令だ。

私としては、得に用が無いのならさっさと家に帰りたいのだ。

サッサとして欲しい。


「正直、顔さんから聞かされた話は信じがたい物がありますが……まあ貴方は十文字さんと並ぶ、いや、それ以上の日本の宝と言える存在ですので詮索は止めておきましょう」


むう、日本の宝と来たか。

それは流石にオーバーすぎると思うんだけど。

まあ余計な詮索をされて、無駄に足止めされるよりはましだから良しとしよう。


「にしても凄い量のスキルですね。流石レベル5000。世界で唯一の――」


支部長さんがタブレットを弄る。

私の位置からは見えないけど、たぶん、私のスキルが表示されているのだろう。


「ん?んん?」


タブレットを弄っていたその手が止まり、支部長さんが眉を顰める。

どうしたんだろう。


「アルティメット……スキル?え?アルティメットスキル?んん?」


支部長さんが呆然とした顔で私の方を見た。

そしてまたタブレットに視線を戻し、再度私の方を見て来る。


「ええっと……顔さん、このアルティメットスキル【聖なる戦乙女の守護ヴァルキリー】とは?」


どうやら支部長はアルティメットスキルの事を知らない様だ。

って、まあ当然か。


だってこのスキルは――


「えっとですね……アルティメットスキルはアタシの【背後霊ゴースト】がレジェンドスキルに進化して、そこから更にもう一段階進化したスキルになります」


アングラウスさん曰く。

レジェンドスキルの進化の最低条件には、膨大な量の時間の蓄積が必要だそうだ。


で、あたしの【背後霊ゴースト】は覚醒不全で不完全だったみたいで。

その不完全なせいでエラーが発生して、死んだ後もずっとにいにくっ付いて発動してる状態だったの。


まあここまで言えば分かるわよね。

にいと一緒にくっ付いて一万年間発動しっぱなしだった私のスキルは、私の覚醒と同時に一気に二段階進化したって訳。


え?

時間が巻き戻されてるから、発動時間関係なくないか?


あ、それね。

あたしもそこには気づいてちゃんと聞いたよ。

でさ、クロノスの懐中時計の効果による巻き戻しは、使用者の周囲に存在している者の精神や記憶はそのまま残る仕様なんだって。


まああたしの場合はスキルだけだったから、記憶とかはないんだけど。


でね。

スキルってのは精神に宿る力だそうなの。

だから時間が巻き戻っても、スキルを使った経験は消えないって訳。


都合よすぎ?


うん、そうだね。

でも元々、にいやアングラウスさんのレジェンドスキルを進化させるための神様の仕掛けだったみたいだから、まあそりゃ都合よくなるわって話よ。


「レジェンドスキルから進化した。という事は……このアルティメットスキルはレジェンドスキルの更に上のスキルという事か!!」


支部長さんが急に立ち上がって叫ぶ。

目の前で叫ばれるのは本日二度目。


何て言うか……

プレイヤー協会の人達って、一々リアクションがオーバーよね。


『一々やかましい奴らじゃ!。こいつらには落ち着きが足りとらん!』


ぴよちゃん。

それは【おま言う】だよ。

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