第95話 魔法の呪文

「え?SSSランク?今、SSSランクって言ったか?」


「SSSランクってマジか?」


「聞き間違いじゃねーの?」


「SSSって事は、あの子レベル5000なのか?」


「いやいや、そんなのあり得ないだろ」


受付のおねーさんが私のランクを叫んでしまたっため、それを耳にした周囲の人が騒めき出す。

なんかめっちゃみられて、ちょっと恥ずかしい。


「レディーの秘密を勝手にばらすとは!賠償じゃ!ワシは賠償にマヨネーズを所望するぞ!」


その時、私の中で昼寝していたぴよちゃんが起きて飛び出して来た。

受付のお姉さんの大きな声で目が覚めてしまった様だ。


あ、ぴよちゃんってのはぴよ丸ちゃんの愛称ね。


で、ぴよちゃんは目覚めると同時に、自身の欲望を満たすための要求ダイレクトアタックを始めだす。

本当に困った子だ。


「すいません、つい……所で、そのボール……いえ、鳥かな……えーっと……」


急に私の頭から出て来たぴよちゃんをみて、受付の女性がオドオドしてしまう。


「あ、この子は私の使い魔です。気にしないでください」


「ふぎゃ!」


放っておくといつまでも騒ぎかねないので、私は慌ててぴよちゃんを頭から降ろし、顎下から頬の部分を片手でガシッと掴んだ。


これはアングラウスさんに教えて貰った、対ぴよちゃん用制圧方法。

下手に嘴部分を抑えると融合からの解除で逃げられてしまうので、嘴には触れずに彼女を瞬間的に黙らせる最適解である。


「は、はにゃしぇい……こみゅしゅめぇ……(放せ小娘)」


そんな状態でも、諦めずに藻掻くぴよちゃん。

本当に諦めが悪いんだから。

しょうがない、最後の手段を使おう。


私は呪文を唱える。

荒ぶる彼女を鎮める究極の呪文を。


その名も――


「五月蠅くすると、今日から食事の量マヨネーズを減らしちゃうよ」


――強制ダイエット。


「しょ……しょれだけはごきゃんびぇんうぉ(それだけはご勘弁を)」


呪文の効果は抜群。

ぴよちゃんがごめんなさいしてくる。


「えっと……かんばせ様、少々お待ちいただけますか」


そう断ると、受付の女性が席を立って奥の机に置いてあった電話の受話器を取った。


「あ、はい」


内線って奴かな?


「実はレベル5000の判定が出しまして……え?いえ、決して冗談ではなく……本当に……はい、はい。分かりました」


どうやら私のレベルの事をどこかに報告している様だ。

なんだかちょっと、大事になってきた気がする。


単にレベルが高いってだけなのに、なんでそんなに気にするんだろうか?

謎だわ。


「あの顔様。支部長が少しお話を伺いたいとの事で。直ぐに担当の者がやってきますので」


受付の女性が戻ってきてそう告げる。

むう、急によく分からない偉い人に話があるとか言われても困るんだけどなぁ。


これって宝くじの高額当選者が、銀行の店長に口座開設とかの話を持ち掛けられるみたいなものだよね?

超面倒臭いんですけども。


断れないかな?


「えーっと、もう鑑定は終わってるんですよね?でしたら、証明だけ貰って帰りたいんですけど」


「直ぐに参りますので少々お待ちください。本当に直ぐに来ますんで」


直ぐかどうかではなく、話をするのが面倒くさいんですけども……まだ証明を貰っていないので無視する事も出来ないし、諦めるしかないか。


「大変お待たせしました」


程なくして、髪を七三に分けたメガネの男性がいそいそとやって来た。

年齢は50台ほどかな。


「ささ、どうぞこちらへ」


「はぁ……」


ああもう、面倒くさいなぁ……


あたしはしぶしぶ、面倒くさいながらも促されるままついて行く。

どうか早く終わります様に。

と、心の中で祈りながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る