第91話 厚かましい
「私を殺せば……黄龍ギルドを敵に回す事になるぞ。何せ俺はギルドマスターの甥にあたる訳だからな」
追い込まれているはずの陳が口の端を歪める。
バックで脅して生存を確保。
更に俺達の保護の元、外に出るって腹積もりだろう。
因みに、黄龍ギルドは中国最大手の一つだ。
その規模は日本の三大ギルドより大きいと聞く。
まあ日本と中国じゃ、人口が全然違うからな。
規模が違うのは仕方がない事ではある。
まあ、だからなんだって話ではあるが……
俺にとってそれは気にする必要のない情報だ。
外敵なんざ、アングラウスの結界で全部シャットアウトできる。
だが――
「どうします?」
俺は田吾に尋ねた。
――姫ギルドは違う。
国内のカイザーギルドならいざ知らず――トップ二人死んだので大幅に弱体してるだろうし――どの程度法律がブレーキになってくれるかも分からない中国の巨大ギルドを敵に回すのは、リスクがかなり高いはず。
陳の自信の表れも、そのあたりを見込んでの物だろうと思われる。
「先程
「確かに損失は大きい。だが此方から仕掛けた事だ。あいつだけなら、レジェンドスキルの情報と交換で穏便に済ませる事も出来る。俺達としてもSSSランク級のプレイヤーや、日本の大手とは無駄に揉めたくはないからな」
さらりと、厚かましい条件を
盗人猛々しいとはまさにこの事だ。
「言っとくけど……そんな情報はないぞ。俺はレベルアップとは別の手段で強くなってるだけだからな」
レジェンドスキルの進化は言っても信じないだろうし、証明しようもない。
「戯言を……そんな言葉を誰が信じる?」
「では交渉決裂ですな。顔さん、やっちゃってください。マスターには私から話しますので」
「なんだと!?」
田吾があっさりと決断を下す。
「いいんですか?」
「姫ギルドはこれでも大手です。そういった事に対する対抗手段は、ちゃんと持ち合わせていますよ。それに……うちは迅雷ギルドのマスターと多少懇意にさせて貰ってますからな。国内での揉め事はアレですが、海外ギルドが相手なら力を貸してくれる筈です」
迅雷ギルド。
雷神の二つ名を持つ、SSランクプレイヤー
姫ギルドは、そことつながりがあるみたいだな。
カイザーギルドが壊滅を狙ったのも、案外その辺りが関係しているのかもしれない。
「わかりました」
「しょ、正気か!?黄龍ギルドだぞ!俺達を敵に回して無事に済むと思っているのか!!」
陳が取り乱し、口から唾を飛ばし叫ぶ。
命がかかっているので必死だ。
「中国への旅行は厳しくなるでしょうが……まさか、日本でやりたい放題出来ると本気で思っているんですか?だとしたら、余りにも愚かですな。確かに……昨今の日本では外国籍の方々が好き放題しているイメージがありますが、それはあくまでも一般人だからの話。流石に、強力な兵器とも言える海外の覚醒者に好き放題させたりはしませんよ。余り日本を舐めないで頂きたい」
「くそっ!」
田吾の声質は非常に冷たい物だ。
これ以上の交渉は無駄だと判断した陳は踵を返し、その場から逃げ出す。
俺達を相手取るより、その方が生存確率が高いと判断したのだろう。
その判断は正しい。
何故なら、俺と戦って奴が生き残る確率は0だからだ。
とは言え、どちらにせよ結果は一緒な訳だが。
「——っ!?」
俺とあいつとではスピードが違う。
一瞬で間合いを詰め、背後からその首を跳ね飛ばす。
切り落とした首の唇が何か言いたそうに僅かに動くが、結局言葉を発する事無く息絶えた。
「お見事。愛しのアリスを害す輩共が綺麗さっぱり消えたので、これで安心してダンジョン攻略に集中できるという物です」
「そ……そうですね」
「あんな小娘に思いを寄せるとはさては変態じゃな!」
ぴよ丸がわざわざ飛び出て来て、余計な一言を発する。
そういうことは思っていても、口にしないのがマナーなのだが……まあ、本能のままに赴くヒヨコにそれを求めるのは無駄だとは思うが。
因みに、戦闘中こいつが静かなのは封印解除の影響だ。
【
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