第90話 地雷

「く……貴様!」


山田太郎が収束された光を放つ。

分散させた光では効果がないと、先ほどの攻撃でそれを学習したのだろう。


対応が早い事は評価するが――


「無駄だ!」


山田の光線が胸元へと直撃する。

だが、俺はそれを無視して奴へと突っ込んだ。


――多少の痛みはあっても、不死身の相手に威力の大小など意味はないのだ。


「ひぃ!よ、よるな!!」


間合いを詰められ、追い詰められた山田が俺に背を向け逃げようとする。

絶望的状況なのは分かるが、敵に背を向けるのは流石に愚かすぎだろう。


俺は光炎の剣でその背中をバッサリと切り捨てる。


「が……あぁ……助けてくれ」


真っ二つにするつもりだったのに、山田を一撃で倒す事が出来なかった。


耐久力が高いタイプなのか。

それとも、背中を向けた相手に対して無意識にブレーキがかかったのか。

もしくはその両方か。


「も、もう手出ししたりしない……だから……だから命だけは……」


山田が無様に命乞いして来る。

悪人なら悪人らしく、最後まで悪態をついていて欲しい物だ。

やりにくくて仕方がない。


「た、頼む……」


涙を流して命乞いする姿に、気持ちがほんの僅かに揺らぐ。

力の差をきっちり見せつけてやったので、例え此処で見逃したとしても、もう俺を襲って来る心配は薄いだろう。


「私は……ただ……失った物を取りもどしたかっただけなんだ……それももう諦めるから……」


……元アイドルだった訳だし、その頃の姿に戻りたかったんだろうな。


レジェンドスキルのデメリットは人生を変える。

なのでその突破方法が、とんでもなく魅力的である事は疑い様がない。

エリスに至っては、ポンと100億出そうとしていたぐらいだしな。


もし俺が回帰前の死なないだけの身だったなら、こいつらの様にどんな手を使ってでもその情報を得ようとしていたはずだ。

家族を守る力を手に入れる為に。


だが――


「俺だけを狙って来てたなら、見逃してやったかもしれないが……」


俺は死ぬ事がない。

だから、情報目的の誘拐だけなら情状の余地はあっただろう。


しかしこいつは姫ギルドの主力まで壊滅させようとしていた。

自分の欲望の為なら、何でもやる正真正銘の屑だ。

流石にそんな相手にかける情けなど、持ち合わせてはいない。


「ま……待ってくれ!」


――俺は命乞いする山田に、剣を突き刺し無慈悲にトドメを刺す。


「がぅ……ば……ぁ……」


「さて……」


「ひぃぃ……」


「わぁあ!」


それまで俺の動きに呆然としていた周囲の奴らが、頭を潰されてパニックにでもなったのだろう。

蜘蛛の子を散らす様に、バラバラに逃げ出し始めた。


「やれやれ」


ここはSSランクダンジョンだ。

しかも、結構深い場所まで進んで来ている。

Sランク以下のプレイヤーが散り散りになって逃げても、その先に待つのは死のみ。


ここまで来る様なプレイヤーなら、それぐらい理解しているはず。

パニックってのは恐ろしいもんだな。


まあ追いかける必要すらないだろう。

単独でも逃げ延びる可能性のある、SSランクの陳って奴だけ始末すれば――


「——っ!?」


急に周囲で大爆発が起き、散らばって逃げだした奴らが吹き飛ぶ。


「なんだ!?」


『たーまやー!』


たまやじゃねぇよ。

てか、一体何が起きた?


爆発が続く中――


「地雷男参上!」


頭上から突然、おかっぱ頭のメガネ男――田吾作たごつくるが降って来た。


「田吾さん!?何でここに!?」


「アイリスさんに蹴飛ばされて、むしゃくしゃしてサーチしたらかんばせさんが一人休憩ポイントから離れている事に気付きまして……」


むしゃくしゃしてサーチとか、どんな理由だよ。


「で、こっそりつけて来た訳なんですが……そしたら物騒な話を耳にしましたので、隠れてこそこそ逃げ道を地雷で塞いでやった次第という訳です。顔さんなら、一人で無双できると思ってましたから」


田吾が眼鏡を指で得意げに上下に動かす。

以前のSSSランクという鑑定結果から、この状況を推測したのだろう。


「なるほど……」


何故こっそりつけて来たのかは置いといて、取り敢えず今の状況は理解できた。

まあアングラウスがその事に気づいていなかったとも思えないので、きっと害はないと放置したんだろう。


「顔さんは、逃げ出す者達など放置しても良いと考えたかもしれませんが……プレイヤーの中には、生存特化の能力を持つ者もいますから。こういう事は徹底しておきませんとな」


生存特化か……

最初に始末したミイラ男なんかが、その典型ではあるな。


カイザーギルドが自分達が返り討ちにあう可能性を考慮していたとは思えないが、万一のメッセンジャーとしてそういうプレイヤーを他にも引き連れて来ていないとは限らない。

自分の詰めの甘さを痛感させられる。


「そうですね。助かりました」


逃がしてもいい事などないだろうから、本当に助かった。

見た目や趣向はアレだが、頼れる人だ。


「礼にはおよびませんよ。愛するアリスを手にかけようとしていた極悪人共なので、きっちり処理したまでです」


うん、やっぱりこの人は変態だな。


「さて、残りは……」


SSランカーの陳だけだ。

奴だけは逃げ出そうとしなかった。

少数で逃げても、死ぬだけだと分かっているからだろう。

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