第89話 些末な事

最初に狙うべき相手は、中国からやって来た田吾作のサーチ能力を無効化していたSSランカーである。

最初姿も見えなかったので、姿を消されると厄介だ。


まあもう一人が【束縛】使用時に姿を現した事から、戦闘行動は姿を消したままではできないだろうとは思っているが、違ったら面倒くさいからな。


「させるか!」


俺の突撃に真っ先に反応したのは山田太郎だ。

流石は三大ギルドのトップだけはある。


「【光り輝く者シャイニング】!」


山田太郎はレジェンドスキル【光り輝く者シャイニング】を持つ世界ランク36位のSSランクプレイヤーだ。


シャイニングは全身に光を纏い、それをレーザーの様に放つスキルとなっている。

この攻撃スキルはレジェンドだけあって強力で、威力は勿論の事、その攻撃速度から回避不能と言われる程だ。

更に威力を分散させる事で複数同時に放つ事もでき、対単体、対複数に対応している優秀なスキルと言っていいだろう。


そのデメリットは――‟地味”である。


地味というのは、言葉通りの意味だ。

もともと山田太郎は大人気のアイドルで、名前も違っていた。

確か鳳凰院光だったかな。


だがデメリットにより、見た目は中肉中背の平凡な目鼻立ちに変わってしまい。

更に名前も、山田太郎としか名乗れなくなってしまっていた。


因みに、戸籍なんかの名前はスキルどうこうで勝手に変わる事は無い。

だがそれらを放置するとスキルの威力が下がる為、山田太郎は書類上の名前も徹底して変更したそうだ。


当然そんな状態でアイドルなど続けられる筈もなく、彼は芸能から引退してプレイヤーとしてギルドを――実家は相当な金持ちだったらしい――立ち上げた。

それがカイザーギルドの始まりらしい。


それに見合った力であっても、レジェンドスキルのデメリットは冗談抜きで人の一生を狂わせる。


エリスの強制幼女化といい、十文字の寿命減少といい。

本当に恐ろしい話だ。


「無駄だ!」


山田から放たれた光線は分散された物だった。

不死身である俺には、収束した攻撃でダメージを与える事は無駄以外何者でもない。

だから威力を下げた手数で、関節などを狙って動きを阻害するのが相手の狙いだろう。


その狙いは正しい。

分かっている情報だけなら、俺も同じ判断をしたしたはずだ。


だがそれは間違った判断である。

何故なら――


「なにっ!?」


山田の攻撃は奴の狙い通り、此方の関節を直撃する。

だが残念ながら、それは俺の動きを阻害する事は無い。

何故なら、パワーが違うからだ。


この手の攻撃スキルは、レジェンドスキルであっても使い手の能力によって威力が左右される。

SSランクである奴のパワーなら、分散させた威力でも、大半のプレイヤーには通用しただろう。


だが今の俺の強さはSSSランク。

そんな半端な攻撃では、例え関節に直撃させたとしてもこの程度では俺の動きは止まらない。


「くっ!」


急接近した俺に、鳳がサーベルの様な武器を抜き攻撃して来る。

この男はレジェンドスキルを所持していない。

「邪魔だ!」


だが腐ってもカイザーギルドの副マスターを務めるSSランクプレイヤーだ。

弱い筈がない。

俺は手から神炎を放ち、それを剣状にしてそれを全力で振るう。


「がぁっ!?」


俺の振るった神炎の剣が、鳳の手のにしたサーベルを容易く切り裂き。

更に奴の腕と胴体とを分断する。


SSランクを一撃か……


命が一つ増え、【神炎鳥ゴッドフレイムバード】が加わった状態での実戦をまだ経験していなかったのだが、想像以上のパワーに仕上がっていた。

今なら、あの時の制限時間内に百々目鬼を倒す事もきっと可能だろう。


「ひっ!?」


「逃がすかよ!」


その様を見て、ミイラ姿の中国のSSランカーが逃げようと動く。

だがそれよりも早く、俺はその体を縦に寸断する。


これで、姿を眩まされる心配は無くなった。


「「「……」」」


山田太郎が。

その場にいた全員が。


一瞬の間に起きた信じがたい出来事に目を見開き、言葉を失って呆然と立ち尽くす。


……負けないとは思ってたけど、これじゃ完全に蹂躙だな。


「にしても……」


初めて人を殺したが、特に感じる物はない。

それがレジェンドスキル、【不老不死】による精神への影響なのか。

それとも生来の気質なのか。

はたまた、一万年という経験からくる精神の変質なのかは分からない。


だが――


「まあ嫌な気分になるよりかはマシか」


重要なのは、家族を守ろうと思う意思であり信念だ。

それ以外に問題が発生しても、それは俺にとって些末な事でしかない。

気にする程でもないだろう。


「それじゃ、残りもさっさと始末するとしようか」

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