第88話 錆び

「体もちゃんと元のサイズに戻ったな」


自爆で【束縛】が吹き飛び、アングラウスより低かった俺の視線の位置が元に戻る。


「ば……ばかな、私のスキルが破られただと?レジェンドスキルだぞ!?」


『これが友情マヨネーズパワーじゃい!』


まあ、あながち間違ってはいないけど……

封印の力を暴走させる自爆は、マヨネーズしか食べないぴよ丸の力の訳だからな。


「せっかく中国から来て貰った助っ人が無駄に終わった訳だが……それで?どうするつもりだ?」


「く……」


俺は馬鹿にした様な口調で煽り、振り返って山田と鳳を見た。

二人は苦虫を噛み潰した様な顔で俺を睨みつけている。

まさかこうなるとは、夢にも思っていなかった事だろう。


「アングラウス」


切り札が聞かなかったからと言って『それじゃ僕達帰りますね』とはならないだろう。


何より、俺自身奴らをやすやすと逃がす気はなかった。

下らない因縁に決着をつけるいい機会だ。


とはいえ――


「SランクやSSランクの奴らは、やっぱり生かしておいた方がいいのか?」


侵略者達との戦いには、少しでも戦力は多い方がいいだろう。

低ランクはともかく、SSランククラスともなればその辺りは期待出来るはず。


「侵略者との戦いを考えているのか?なら悠よ……逆に尋ねるが、お前はあんな奴らに背中を任せられるのか?」


正しい指摘だな。

確かに、こんな碌でもない奴らを信じて共闘出来る訳もない。

なのでもちろん答えはノーだ。


「無理であろう?だいたい、こういう輩は不利になればすぐに裏切るものだ。毒にしかならん様な奴らは、初めから居ない方がマシと言うもの。まあ同族を手に掛けたくないというなら、我が代わりにこ奴らの相手をしてやろう」


どうやらアングラウスは、俺が人間を手にかける事を忌避しての質問だと思った様だ。

もちろん好んでそんな真似をしたいとは思わないし、彼女に丸投げした方が気分的に楽なのは間違いない。


だが、こいつらの狙いは俺だ。

気持ちにしこりが残るかもしれないからといって、第三者であるアングラウスに丸投げするのは筋が通らないからな。


まあ俺が勝てない様な相手なら話は変わって来るが……


相手はSSランク4人に、Sランクが2名。

それとAランクが14の計20人。

あの化け物じみた百々目鬼とすらある程度戦えた今の状態なら、まず負ける心配はない。


「いや、必要ないさ。俺がこの手でキッチリとカタを付ける」


「そうか?まあ好きにすればいい」


アングラウスがニヤリと笑ったかと思うと、その姿が足元の影の中に沈んで消えてしまう。

ほんと何でもできるな。

こいつ。


「さて、いつまで呆けてるつもりだ?そっちから来ないなら……こっちから行くぞ!」


『マヨネーズの錆にしてくれるわ!』


錆び付きのマヨネーズとか、もう食品としての価値ゼロだぞ。


「「——っ!?」」


そんな事を考えつつ、俺は山田達に向かって突っ込んだ。

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