第87話 再び
「隠れて俺を狙ってる奴がいるのもお見通しだぜ」
振り返ってそう口にした途端、何もない空間に突如人の姿が現れる。
そいつはチャイナ服を着た禿のおっさんで、両手を俺に向けて突き出していた。
「陳!」
「チャージは十分だ!くらえ!」
……どうやら会話は時間稼ぎだったみたいだな。
チャイナ禿の手から、空間を歪める巨大な何かが生み出された。
そしてそれは放たれ、俺に向かって超高速で飛んでくる。
――禿の攻撃が俺に直撃。
攻撃が高速だったというのもあるが、それ以前に、そもそも回避する気が端からなかった。
躱すより、喰らったうえで奴らの目算を打ち砕いた方がすっきりすると思ったからだ。
こいつらには散々迷惑をかけられたしな。
それ相応の意趣返しはしてやらんと。
「……」
特にダメージなどはないが、体が全く動かない。
何か見えない粘り気のあるタールの様な物に、埋もれている様な感じだ。
……まあ予想通りか。
不死身である人間から情報を引き出すなら、普通の攻撃じゃなく封殺系に行きつくのは当然の帰結だ。
殴ってどうにかなる相手だったなら、カイザーギルドもわざわざ中国のギルドに助っ人を要請したりはしなかっただろう。
「くくく。私のレジェンドスキル【束縛】は対象を完全に封じ込める。更には――」
「お、おお……」
急に視界が下がっていく。
「これはまた随分と縮んだな」
足元にいたはずのアングラウスが俺を見下ろして来る。
視線を大きく動かせないので自分の状態は分からないが、まあ彼女の言う通り体のサイズが縮んでしまったのだろう。
「——持ち運びしやすい様になる」
捕らえた挙句、サイズまで変えて来るとか。
かなり強力なレジェンドスキルの様だ。
「因みに……デメリットはこの頭部だ」
陳と呼ばれた男が、自分の手で禿げあがった頭をペチンと叩く。
禿がデメリット?
レジェンドスキルのデメリットは、効果に関連するものが大半なんだが……どういう関連か全く分からん。
束縛の反対は解放、もしくは自由辺りだ。
つまり頭部が自由で開放的という事だろうか?
まあそんな事は果てしなくどうでもいいな。
「私はお前から情報を引き出し、この何もない頭部から脱却する!覚悟して貰うぞ」
十文字みたいにもっと致命的なデメリットならともかく、たかだか禿の治療如きで人を誘拐しようとすんな。
まあいい。
取りあえず脱出だ。
「ぴよ丸……ブリンクを頼む」
『ラジャー!ブリンク!』
俺の指示でぴよ丸がブリンクを発動させる。
だが――
「スキルまでくっ付いてくんのかよ」
転移先にまで【束縛】が付いて来てしまった。
「なっ!その状態で転移が出来るだと!?馬鹿な!?」
脱出こそできなかった物の、俺の動きに陳が目を見開く。
反応から見るに、カイザーギルドのSランクが使った結界の魔法と同じで、転移なんかを阻害する効果もある様だ。
そしてそれを当たり前の様に無視するぴよ丸のブリンク。
やっぱこいつのスキルは強力だな。
『生意気な!ブリンク!』
ぴよ丸が再びブリンクを使うが、やはり結界は一緒について来てしまう。
「おそらくだが、そのスキルは細胞に癒着してしまっているんだろう。だから悠の一部としてついて来てしまうのだ」
アングラウスが今の状態を説明してくれる。
勝手に人の体の一部になるとか、嫌なスキルだ。
「まあだが、そこまで強力な物でも無し。今の悠のパワーなら力づくで突破できるだろう」
仮にもレジェンドスキルを、大した事無いと来たか。
まあ実際、アングラウスからすればそうなのだろうな。
そしてぴよ丸の力を借りた今のフルパワーなら……
「ぴよ丸。フルパワーだ」
『ワシ等の友情パワーを見せる時が来たようじゃな!』
友情など育んだ覚えは更々ないが、まあ無粋な事は言うまい。
『【
俺の全身から光る炎が噴き出し、全身に堪えようがない程の熱が滾る。
せっかくなので、ド派手に【束縛】を吹き飛ばしてやろう。
俺は力の全てを解放し――
「はぁ!」
――自爆した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます