第86話 全部
「ここでいいだろう」
姫ギルドの休憩ポイントからかなり離れた広い空間で、アングラウスが足を止める。
「それで?どこにいるんだ?」
「もう取り囲まれておるぞ。姿を現さんのは、突然自分達の方へとやって来た悠を警戒しての事だろうな」
アングラウスが言うのだから間違いないのだろうが、俺には全く分からない。
まあレジェンドスキルだからそれが当然で、寧ろ気づけるアングラウスがおかしいだけだが。
「いつまでもこそこそ隠れてないで出てきたらどうだ!」
大声で呼びかけると――
「やはり気づいての行動か」
周囲に突然多くの人影が現れる。
その中には、見覚えのある姿があった。
以前協会で滝口と揉めた時にいた、巨体の男――
それにネットで見た事のある、カイザーギルドのトップで中肉中背で特徴の薄い男――
……この二人がいるって事は、追跡者はカイザーギルドだった訳か。
「まさか私のスキルが見破られるとはな……」
スキルを使っていたと思しき男は、全身グルグルの包帯巻きでミイラ男の様な姿をしている。
単にそういう趣味なのか、何か事情があるのかは知らないが。
「ああ、この姿か?この姿はレジェンドスキルのデメリットだ。姿を隠し気配を立つこのスキルは、一度使うと暫く醜い化け物の様な姿に変わってしまう。反動で周囲の視線を極端に集めるのが、デメリットという訳だ」
俺の視線に気づいたのだろう。
男が自分の姿の理由を口にする。
「まあそれも今回までだがな。お前から情報を引き出し、この醜い姿ともおさらばさせて貰う。そのために態々ギルドの命で中国を出て、日本くんだりまで来た訳だからな」
狙いはやはり情報。
しかもカイザーギルドは、海外のギルドに協力を要請した様である。
まあ俺に関わってSランクを4人も失っているのだから、慎重に行動するのは当たり前か。
「わざわざ海外ギルドから助っ人かりて、こんな大人数で奇襲かけようとするとか……カイザーギルドはそんなに俺が怖かったのか?」
しつこいその姿勢にイラっとしたので、バカにした様に挑発してやる。
「自惚れるなよ。本来はボス部屋で仕掛け、姫ギルドの主力も始末する予定だったから頭数を用意しただけの事。お前を捕らえるだけなら、中華ギルドから来て貰った二人だけで十分だ」
ついでに姫ギルドまで襲うつもりだったのか。
まさか最初に予想した殆どが当て嵌まる欲張りセットだったとはな。
酷い話もあった物だ。
「ふむ……」
アングラウスはSSランクが4人と言っていた。
山田と鳳。
それにグルグル巻きと、もう一人の中国人が恐らくその4人だろう。
……最後の一人はどこだ?
軽く周囲を見渡すが、特にそれっぽい奴は見当たらない。
まあ中国人だからって、それっぽい格好してるとは限らないから分からないのも無理ないか。
「一人は姿を隠したままだ。他の者が姿を現す事で、油断させる手なのだろうな」
どうやらまだ奇襲をかける気満々の様だ。
意識を逸らせて……こういうのをミスディレクションって言うんだっけ?
鳳は俺の相手は中国人二人で十分って言っているので、恐らくもう一人が潜んで奇襲をかける役なのだろうと思われる。
そしてそいつの能力が、不死身の俺を無力化するキーに違いない。
じゃないといくらSSランク二人とはいえ、Sランク4人を殺した俺——相手目線での推定SSランク――をそう簡単に捉える事など出来ないだろうからな。
「やり合う前に一つ聞かせて貰ってもいいか?どうやって私のレジェンドスキルを破った?それがどうしても気になってな」
ミイラ男が聞いて来る。
自分の御自慢のスキルがあっさり見破られたので、プライドでも傷ついたのだろう。
――もしくは時間稼ぎか。
スキルの中には、発動までに時間のかかるものも有ったりするからな。
まあ普段なら警戒するところだけど、アングラウスが居る時点で何も恐れる必要はない。
「優秀なサポートが付いてるのさ」
そう言って俺は足元のアングラウスを見る。
まあ一々その質問に答えてやる謂れはないが、隠す程でもないからな。
「その猫――使い魔がか?」
「ああそうだ、ついでに言うならこいつは……」
何を言おうとしてるのか察してか、アングラウスの視線が背後へと動く。
俺もその視線を追って振り返った。
「隠れて俺を狙ってる奴がいるのもお見通しだぜ」
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