第69話 出来る事

上空から勢いよく地面に叩きつけられた俺の体は、全身の骨がバラバラになり、皮膚や臓器系が破裂して周囲に血をまき散らす。


一言で言うなら、潰れた蛙状態。

普通の人間ならまず間違いなく即死の状態だ。

このまま死んだふりをして百々目鬼をやり過ごせれば最高だったが、残念ながらそれは不可能だった。


――何故なら、体は一瞬で回復してしまうから。


潰れたカエルの様な状態から回復すれば、見た目にもそれは明らかで、流石にそれを見落としてくれる事を期待するのは無理がある。


「ほほう、これは驚いた。確実に死んだと思ったんだがのう」


俺が素早く起き上ると、そのすぐ側に百々目鬼が着地する。


「どうやら、余程優れた生命力と回復能力を備えている様だな。かかかか、これは楽しみがいがありそうだ。お主はメインディッシュで決まりだな。なら、先に前菜を頂くとしようか」


前菜を先に終わらせる。

そう言った百々目鬼の両手が背後に向かって勢いよく伸びていく。

そして他のプレイヤーを掴み、それを自分の元に引き寄せ奴はバリバリと喰らう。


その隙に間合いを離すが、奴は特に俺の動きに反応はしない。

但し、その全身にある目は真っすぐ此方を捉えたままだが。

メインディッシュと言っていたので、俺を最後に回す気なのだろう。


参ったな……


変身しても普通に見つかってしまう以上、壁を飛び越える事は絶望的だ。

それに俺のパワーでは壁も壊せないし、分厚いのでブリンクで抜ける事も出来ない。


つまり……この場からの逃亡は不可能。


「……」


なら、俺に出来る事は一つだけ。

ただひたすら耐え凌いで、時間を稼ぐのみだ。


アングラウスには、2日ほど狩りをして来ると言っている。

更に場所も伝えてあるので、予定日を越えて俺が帰って来なければきっと様子を見に来てくれるはず。


この化け物の強さはけた違いだが、それでもアングラウスの敵で無い事は断言できる。

だからあいつが来るまでここで粘り続ければ勝ちだ。

まあ俺が倒す訳じゃないので、勝ちってのとはちょっと違う気もするが。


その際の唯一の懸念点は、奴が不死身を殺す方法を知っている可能性だが……


まあそこは多分大丈夫だろうと思う。

さっき奴は俺の復活に対し、『余程優れた生命力と回復能力を備えている様だな』と口にしていた。

どう見ても死んでいる状態だったにもかかわらず、だ。


もし不死を知っていたなら、真っ先に不死身を疑う状況。

にも拘らず、生命力と回復能力と言ったのだ。

それは即ち、奴が不死身の存在を知らない証。


そして存在を知らないと言う事は、殺し方も知らないと言う事だ。


「くぞおおぉぉぉぉ!!俺がこんな所でぇ!!」


蟹山が捕まり、奴に食い殺される。

これでカイザーギルドの人間は全滅だ。


「さて、待たせたのう。メインディッシュなのだから簡単に死んでがっかりさせないでくれよ、坊主」


百々目鬼が口の端を歪めて笑う。


心配しなくていいさ。

何故なら、簡単所か、俺は不死身だから絶対に死なない訳だからな。


「では……まずは小手調べじゃ」


百々目鬼の右手が此方へと延びる。

但し、その手は握られ拳状になっていた。

どうやら捕まえて喰らうのではなく、俺が死ぬまでなぶる気の様だ。


いいぜ。

好きなだけなぶりな。

そう言うのには、死ぬ程馴れてる。


ま、不死身だから死ぬ事は無いんだけどな。

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