第65話 4人

蟹山に直撃し、巻き起こる爆炎。

それは蟹山だけではなく、背後にいる奴らへと襲い掛かか――


「おおおおお!!」


雄叫び。

ぴよ丸の放った炎にクロス型の亀裂が走ったかと思うと、跡形もなく吹きとばされてしまう。


「あっちぃな、こん畜生が!」


ブスブスと体から煙を上げる蟹山の手には、銀色に輝く剣が握られていた。

恐らく攻撃系のスキルで魔法を切り裂いたのだろう。


まあ十分だな……


蟹山の発言と見た目、そこからダメージを推定する。

仮にも相手はSランク。

初めから一撃で倒せるなどとは思っていないので、この程度ダメージが通っているなら十分だ。


特にこの威力の魔法が詠唱無しに飛んでくる事を見せつけられたAランク以下は、俺に真面に近付く事も出来ないだろう。

喰らえば大惨事確定な訳だからな。


『なんじゃと!?ワシの魔法があんなモブっぽい雑魚に潰されるとは!!』


「相手はSランクだからな。十分効いてるから、そのまま魔法を頼む」


『ラジャ!』


俺はぴよ丸に引き続き魔法を放つよう指示し、ファイヤーバードの炎で生み出した剣の切っ先を滝口へと向ける。


「随分と顔色が悪いじゃないか、滝口」


「ば、ばかな……何でお前がこんな魔法を使えるってんだよ……」


滝口が血色の失せた、怯えた表情で俺を見る。

もし蟹山が止めていなかったら、魔法の直撃は奴が喰らっていた。

顔色が悪いのは、きっとそれを想像したからだろう。


そう、真っ黒こげになって倒れる自分の姿を。


「どうした?かかって来ないのか?御自慢のユニークスキルで俺を屈伏させてみろよ」


「う……」


俺の挑発に、滝口が顔を歪めて数歩後ろに下がる。

それと入れ替わるかの様に、三人の人物が前に出て来た。


「詠唱無しでの高威力の魔法……思っていたよりずっと厄介な相手の様ですね」


「ああ、下手にAランクの奴らを近づかせるのは不味そうだ。一緒について来て正解だったな」


「俺達4人で相手するから、お前らは近づくなよ」


Sランクは4人か……


さっき魔法を使ったローブの女。

軽装で青髪で細身の男。

重鎧を着こんだ赤毛の大柄な男。

それに蟹山を加えた4人がSランクの様だ。


考えていたより若干多いが、まあ問題ないだろう。


「こんな所に4人もいるとか……カイザーギルドのSランクは暇人揃いなのか?」


「それだけ、貴方の価値が高いって事ですよ」


俺の嫌味に、フードの女が涼しい顔で答えた。

余裕がある所を見ると、今の魔法を見てなお、俺を押さえる自信が彼らにはあるって事なのだろう。


何か隠し玉があるのか。

それとも前回の戦闘結果から、単純に俺の身体能力が低いと考えているのか。


単純に魔法さえ対処できれば楽勝だと考えているなら、直ぐにその認識が誤っている事を彼らは思い知る事になるだろう。

隠し玉があった場合だが……まあやばそうならブリンクで逃げればいいだけだ。


「俺達4人が相手してやるんだ。少しは楽しませろよ……行くぜ!」


宣言と同時に大男が盾を構えながら突っ込んで来た。

装備から見ても分かる通り、彼が先陣を切る盾役タンカーなのだろう。


『フレイムテンペスト!』


そこにぴよ丸の放った魔法が襲い掛かる。


「スキル【フレイムガード】!」


だが大男はスキルを発動させ、ぴよ丸の放った炎の渦へと構わず突っ込んで来た。

そしてそれを突き破り、盾を構えたまま俺の目前へと迫る。

恐らくそのまま体当たりする気なのだろう。


「隙だらけだ」


横から声が聞こえ、腹部側面に痛みが走る。

視線を向けると、青髪の男の手にした槍が俺の横腹に突き刺さっていた。


これがほんとの横やり、なんてな。


その目的は奇襲で俺の動きを止め、赤毛の体当たりを喰らわせる事だろうと思われる。

だがまあぶっちゃけ、こいつが炎を避け、高速で接近して来ていたのにはちゃんと気づいていた。

それでも視線を一切向けずに不意をつかれた様に喰らったのは、相手を油断させるためだ。


「そっちもな」


喰らうのが分かっていたなら、それに備える事は容易い。


「なっ!?」


そのまま俺は槍がより深く刺さる形に突っ込み、手にした炎の剣で青髪の男に斬りつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る