第56話 外面より内面

「糞みたいな奴等っすね」


ミノータは、横で伸びているエリスに魔法で冷風を送りながらそう言う。

訓練は集中力や魔力的にかなりきつい物の様で、基本1時間程やったら過熱状態オーバーヒートになってしまう様だった。

現在はその熱取り中だ。


「何なら我が始末してやってもいいぞ?」


「報復は自分でするさ。まあその時は少し手を借りるかもしれないが」


「いいだろう」


アングラウスに任せれば簡単なのは確かだ。

けど、自分の報復を他人に丸投げと言うのは余りにもカッコ悪い。


「まあそれも、相手のリアクション次第だけどな。苦情は出してるし」


帰り際、協会寄ってダンジョンで起きた事は報告してある。

まあ証拠がないので本格的には動いてくれないだろうが、カイザーギルドに問い合わせるぐらいはする筈だ。


そこでどんな反応が返って来るか――


カイザーギルドも協会からの問い合わせがあれば、滝口達に確認くらいはするだろう。

そしてその際、俺が復讐を口にした事も伝わるはず。


『必ず借りは返す』


それは情報をネットに流した事も含めての警告——最終通告だ。

そこで真面な行動をとらない様なら、ギルドその物が俺の敵と判断させて貰う。


――まあ想像は出来るけど。


「大手は面子を気にするから、自分達の落ち度とかは認めないしょうね」


ノックアウトしていたエリスが目を開け、口を開いた。

どうやら意識は戻っていた様だ。


「他人事みたいに言ってるけど、気高き翼ノーブルウィングも超がつく大手じゃ?」


「うちは特別よ。何せトップが正義大好きっ子だからね」


「たしか聖女様だっけか……」


気高き翼ノーブルウィングのトップはレジェンドスキル【聖女】の所持者で、本人もそのスキルを持つに値する人物だと言われている。

当然その二つ名は聖女だ。


「あの人は曲がった事が嫌いだし、アーサーもそれに追従——ていうか心酔してるからね」


アーサーと言うのは、恐らくレジェンドスキル【聖騎士】の持ち主で、世界7位のプレイヤーであるアーサー・ブリスタンの事だろう。

どうやらこっちもスキルに準じた性格をしている様だな。


「馬鹿な真似をしたら、あの二人はギルド員でも容赦なく断罪するっす」


「なるほど」


まあそれが本来あるべきギルドの姿なんだろうが、なかなかそうはいかないのが現実だ。

特に組織が大きくなればなるほど、腐敗して行くのが世の常だからな。


「所で……その黒い大きな卵はなんなのかしら?」


エリスがソファの上に置いてある黒い卵をみて、尋ねて来る。


「ああ、これはぴよちゃんの卵っす」


「ぴよちゃんの卵?」


ミノータの説明に、エリスが眉を顰める。

まあ間違ってはいないのだが、その説明じゃ一ミリも伝わらんわな。


「ぴよ丸が進化の為に変化した姿だ。まあ再誕と言った所だ」


アングラウスが補足を入れる。

そう、これはぴよ丸が進化する為にとった形態。

言ってしまえば、繭の状態だ。


――進化はダンジョン攻略後、約束通り家でぴよ丸に二十三本のマヨネーズを一気飲みさせた後に訪れた。


「満足じゃ!そして遂にワシは至ったぞ!!」


という謎の発言と共に光り輝き、その光が繭――卵の殻になって今の形態へと変化している。

以前の進化は光った後単にやせただけだったのだが、今回はこういう状態になっているので恐らく大幅な進化が行われるのだろう。

たぶん。


「しばらくすれば卵から出て来るだろう」


「姿形はそのままだと嬉しいんすが」


「折角可愛い見た目をしてる訳だし、そのままの路線でいて欲しいわね」


エリスとミノータは、進化したぴよ丸が可愛くなくなる事を心配している様だ。

俺としては姿かたちはどうでもいいんで、ひたすら強力なスキルを取得してくれる事を切に願っている。


内面重視。

いわゆる反ルッキイズムと言う奴だ。


ちょっと違うか?

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