第54話 遭遇

「さて……」


今日はAランクダンジョンに来ていた。


BじゃなくAに来た理由は二つ。

一つはアングラウスがエリスの特訓につきっきりなため。

そしてもう一つは、4つ目の命が繋ぎ終わって力が上がったからだ。


アイツがいないと、ボスの確定レアドロップが無くなるからな。

ボスを倒す旨味が減るなら奥まで行く必要がない。

そして途中まででいいなら時間を気にする必要がなくなるので、ある程度真面に戦える様になったAランクの方が稼ぎは大きい。


以上の理由から、俺はAランクダンジョンに来てるという訳だ。


「オーガの里っていうけど、ただの森だな」


ダンジョンは自然あふれる森のフィールドになっていた。


暫く森の中を進むと、森の中をうろつくオーガの姿を発見する。

赤い肌をした、巨体に角の生えた人型の魔物だ。

いわゆる赤鬼だと思って貰えばいいだろう。


「ぴよ丸。ファイヤーバードを頼む」


オーガは癖のある攻撃こそしてこないが高いフィジカルが売りの魔物で、単純な強さはBランク以下の魔物とは一線を画している。

命を増やして順調に強くなっているとは言え、素手で相手をするのは面倒なので武器を使う。


『あいあい。マヨマヨまーよ』


手から炎が噴き出し、それを俺は剣の形に変える。

ぴよ丸のレベルが上がって来た事で、以前よりずっと炎の出力は上がっていた。

Aランクダンジョンのモンスター相手でも、これなら十分通用するだろう。


後、最近は発動時に『ファイヤーバード』ではなく、『マヨマヨ』言ってぴよ丸はスキルを発動させるようになっていた。

マヨ中毒街道絶賛驀進中である。

まあだからなんだって話ではあるが。


「ごおおおおぉぉぉ!!」


オーガの雄叫びに空気が震える。

とんでもない声量だ。


協会の攻略情報だと、この雄叫びに釣られて周囲のオーガも寄って来るとの事だ。

運が悪いと大量に寄って来る事もあるらしいので、その辺りは気を付けた方がいいとも載ってたな。


ま、俺は死なないからいくら囲まれても問題ないし、狩って金を稼ぎたいので寧ろウェルカムまである。

取り敢えず目の前の一匹を処理するとしようか。


「がぁ!」


オーガは巨体にも拘らず、木の間をするすると身軽に抜けて突っ込んで来る。

流石にホームにしてるだけあって、森の中での戦いはお手の物の様だ。


奴はそのままの勢いに、鋭い爪を俺に向かって振るう。


「ぐっ……パワーじゃ負けるか」


剣でそれを受け止めるが、パワーで押し切られ吹っ飛ばされてしまった。

背後の木に背中から激突し、一瞬息が止まる。


「攻撃は正面から受けない方が……いや、出し惜しみしてもしょうがないか」


俺はエクストリームバーストを発動させる。

反動による全身を焼き尽くす様な燃える痛みと共に、手にした炎の剣の火勢が大きく増す。


「ぐぉぉ!」


オーガが再度攻撃を仕掛けて来る。

先程は吹き飛ばされたが今度は違う。


「はぁっ!」


今度はこちらがパワーで鋭い爪による攻撃をはじき返し、隙の出来たその胸元に炎の剣を叩き込む。


「ごぁぁ!」


手応えはあったが、流石フィジカルが売りの魔物だ。

受けたダメージを無視してオーガは反対の手で攻撃して来た。


「良い根性だ」


肩にオーガの鋭い爪が食い込む。


「けど……悪いが攻撃無視は俺の専売特許だ」


我慢比べでこの世で俺に勝てる奴などいない。

何せこちとら、一万年間死にまくってる訳だからな。

俺はダメージを無視し、そのままオーガの巨体に炎の剣を連続で叩き込んでやる。


「タフな奴だ」


オーガは死に、魔石に変わった訳だが。

あの状態からもう一発、ダメージ無視の反撃を喰らってしまった。

流石にAランクダンジョンの魔物は手強い。


まあ命がもう一つ増えれば瞬殺も可能だろうが。


「がああああ!!!」


「ぐおおおおお!!」


オーガの雄叫びが二つ響く。

先程の咆哮で呼び寄せられた奴らだ。

今度は二対一だが、まあやる事は変わらない。


「こい!」


そう、相手の攻撃をガン無視して攻撃しまくるのみ。


オーガ二体を問題なく対処した俺は、その後も出て来る奴らを対処しながら奥へと進む。

広い空間型のダンジョンだが、見取り図は事前に頭の中に入れてある。


え?

森の中じゃ、見取り図も糞もないんじゃないかって?


まあ普通の森ならそうだな。

けどここは所々に毛色の違う木が生えてるからな。

それを目印にすれば分かりやすい。


丸1日程かけて俺は第二階層へと進むゲートを発見する。

因みにゲートは二つあり、片方は脱出用の物だ。


「2層目の森は……木がデカいな」


ゲートをくぐって二層目へと転移する。

その先も森だったが、明らかに一本一本の木が馬鹿デカイ。

神社の御神木とかになってそうなレベルだ。


「そういや、ここからはオーガアーチャーも出るんだっけか」


木の上から狙撃して来るアーチャー。

肌の色は緑だが、当然オーガなので巨体だ。

木が大きいのは、その巨体を枝が支えられる様にするためだろうと思われる。


因みにこのアーチャーの存在が、このダンジョンにおける罠も担当している。

急に遠くから弓が飛んでくる訳だからな。


「三層へのゲートはかなり遠いっぽいし、いつでも脱出できる様にこの付近で狩りするか」


振り返ると、背後にはゲートが一つある。

これは外に通じる物で、二層から一層側に戻れる様にはなっていない。

二層がきつかったらこれを使って脱出しろって事だ。


取り敢えず森の中を進む。

と――


「うぉ!?」


急に肩に痛みが走り、見るとぶっとい矢が肩に刺さっていた。

どうやら狙撃された様だ。

刺さっている向きから撃たれた方角へと視線をやると、木の枝の上に次の矢を番えた緑色のオーガの姿を見つける事が出来た。


これスキルか魔法なしじゃ、絶対攻撃される前に見つけるの無理だな。


「まあでも、流石に飛んでくるのが分かってたら喰らわないな。よっと」


肩に刺さった矢を引き抜き、飛んで来た二発目を躱す。

と同時に、出しっぱなしにしていた炎の剣をオーガめがけて投げつける。


威力は下がってしまうが、これは遠距離攻撃としても使用可能だ。


「ぐぅおう!」


オーガに炎の剣がヒットし、木の枝から落ちて来た。

遠距離合戦をするつもりはないので、俺はオーガに向かって突進する。


「ごおおおおおお!!」


アーチャーが雄叫びを上げる。

一階層と同じで、周囲の仲間を呼ぶ効果ありだ。

今更なのは、先に吠えたら隠れて先制攻撃できなくなるからだろう。


「うっさいっての」


再度剣に変えた炎で斬りかかる。

オーガアーチャーは素早く弓を放り捨て、素手で俺を迎え撃つ。


そこからは一層のオーガ戦と同じく、お互いノーガード戦法だ。

なので当然勝つのは俺。


「強さはほぼ一層目のオーガと同じか」


『マスター!ここ五月蠅くてゆっくり眠れん』


穏やかな快眠とかダンジョンに求めてんじゃねぇよ。


「「「ぐおおおお!!」」」


アーチャーの雄叫びに誘われて、通常のオーガが三匹此方へと向かって突っ込んで来た。

魔物の密度は一層より濃いみたいだ。


「今日一日は我慢しろ」


このダンジョンにはもう一泊する予定だ。

ぴよ丸の安眠の為に早めに切り上げるなどありえない。


「よう、久しぶりだな」


三匹のオーガを始末すると、見知った顔のいる集団が近くにまで来ていた。

どうやら戦闘中に近づいてきた様だ。

それも此方に気付かれない様、静かに。


「オーガの雄叫びで誰か戦ってると思って探索掛けてびっくりだぜ……まさかお前がこんな所で一人でいるとはよぉ」


「滝口……」


Aランクダンジョンで遭遇したのは、カイザーギルドに入った滝口だった。

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