第45話 希望
「そろそろちび姫のお守も卒業ねぇ」
岡町が、アリスの戦いぶりを見てそう呟く。
ここはBランクダンジョンで、現在アリスは姫ギルドに最近入った新人二人を率いて魔物の殲滅を危なげなく行っていた。
「ああ、あんまりやり過ぎると役立たずになっちまうからな」
ギルドによる育成は、やり過ぎると危機的状況で何も出来なくなる残念なプレイヤーを作り出す要因となる。
ネットなどで養殖と揶揄される所以だ。
姫ギルドはその辺りに気を使い、同行する指導者は余程の事がない限り手を出さない決まりになっていた。
あくまでも自主的にダンジョン攻略を行わせる。
それが基本方針だ。
そしてその育成も、他と比べてかなり早い段階で打ち切られる。
自主的とは言え、保護者がいるリスクのない状況は所詮ぬるま湯。
極端な養殖行為と程度の差はあれ、結局そのままでは実戦で背中を預けられる様なプレイヤーになど育たない。
なので教育係が行けると判断した時点——だいたいはBランク――で育成は打ち切られ、そこからギルドにとって戦力と呼べるAランクまでは自力で上がってくる必要があった。
まあちび姫はまだレベルは120程だが、彼女には優秀なユニークスキルがあるのでもうそろそろ十分だろう。
「ちび姫には頑張って貰わないと。私も幸保も、もう自力は絶望的だものねぇ」
「ああ。5年過ぎるとほとんど不可能って言われてるからな。アリスだけが頼りだ」
レベル999の壁。
5年努力しても突破できない様なら、もうそこから先に進むのは難しいと言われている。
そして俺と岡町がレベル999になったのは、5年前。
つまり通説通りなら、俺達はもうSランクには上がれないって訳だ。
しかし、それを何とかする可能性を姫路アリスは秘めている。
俺達二人はそれに期待していた。
「人頼みってのは少し情けない話だけど……」
「まあな……けど、諦められないんだからちび姫に賭けるしかねぇだろ?ガキの頃からの夢だったんだからよ」
俺達の夢は、Sランクのプレイヤーになる事だった。
「そうね」
俺と岡町は腐れ縁だ。
お互い6歳の頃に親を亡くし、ほぼ同じタイミングで同じ施設に放り込まれている。
そう言う事情もあってか、妙に岡町とは馬があって今まで一緒にやって来ていた。
そんな俺とあいつがSランク冒険者に憧れたきっかけは、14の時だ。
施設が火事になって、俺と岡町は炎に巻かれて施設内に取り残されてしまったのだが……そこに颯爽とヒーローが現れた。
当時、日本でただ一人と言われたSランクプレイヤー。
その彼がたまたま現場に居合わせ、俺達を救い出してくれたのだ。
その力強さに憧れ、俺達はSランク冒険者になりたいと強く憧れた。
そして程無くして俺と岡町は覚醒し、夢を叶えるべくダンジョン攻略を始める。
ま、単純明快な理由だ。
で、15年かけて999にまで辿り着いてみたはいい物の、二人そろって壁に阻まれ5年。
正直、もう半分諦めかけていたんだが……
そこに姫路アリスが現れる。
いやまあ、ギルドマスターの妹だから以前からもちろん知ってはいたぞ。
あくまでも希望の象徴としての意味での現れただ。
「コングラッチレーション!三人とも攻略おめでとう!」
「似合わねぇ横文字使うなよ」
「別にいいじゃないの」
ダンジョン攻略は順調に進み、ダンジョンボスを苦戦する事なくちび姫達は倒し終えた。
三人のレベルは、ダンジョンに入った時点ではちび姫が120。
それ以外の二人も、110程である。
つまり、全員レベルでいった場合のランクはCだ。
Bランクダンジョンの推奨レベルは低い物でも250という点を考えると、驚異の低レベルパーティーと言っていいだろう。
普通のプレイヤーならボスを倒す所か、道中の雑魚にさえ苦戦。
それどころか、下手したら初戦で全滅もあり得る。
にも拘らず、この三人が容易くダンジョンをクリアできたのは、ひとえに姫路アリスのお陰と言えるだろう。
ちび姫の持つユニークスキル【
そして彼女には、もう一つユニークスキルがあった。
それは――【
このスキルこそ、俺と岡町にとっての希望となる物だ。
その効果は自分よりレベルの低い仲間と自身の能力を大幅に強化し、そのレベルアップを加速し促すという物だった。
――そう、レベルアップを促してくれるのだ。
この効果に、俺達は期待していた。
壁によって上がらなくなった俺達のレベルを、彼女のスキルなら、ひょっとしたら引き上げてくれるのではないかと。
まあその為には、ちび姫が俺達よりもレベルが上――壁を越えてレベル1000になる必要があるが。
まあその点は心配ない。
ユニークスキルを複数持っているプレイヤーは、無条件でその壁を越えられると言われているからだ。
最近カイザーギルドが滝口って奴を勧誘して加入させたのも、そいつが二つ目のユニークスキルを得たからだと言われている。
確定でSランクに上がる人材なら、あそこが飛びつくのも無理はない。
「ふふふ、どう?これが私達の力よ」
ボス討伐を終えたちび姫が、意気揚々と俺達の方へとやって来る。
「ああ……ちび姫。今日でお前は卒業だ」
「やっとね。ま、私には最初っから保護者なんていらなかったけどね」
「あらそう?悠君がいなかったら、ちょっと危なかった所もあるんじゃない?」
「むっ!アレは気を効かせて混ぜて上げただけよ!その気になったら、あの時のボスだって私一人でどうにでもなったんだから!」
ちび姫は超がつく程負けん気が強い。
そこが若干懸念点ではあるが、それで足を掬われる様な心配はないだろう。
口ではこんな事を言ってはいても、ちゃんと現実を見据える冷静さは持ち合わせているからな。
「ま、とにかく今日で卒業だ。今後の躍進を期待してるぞ、ちび姫」
「まかして!あたしがお姉ちゃんとならんで、姫ギルドのもう一本の柱になって見せるから!」
ちび姫は胸を強く叩き、親指を立てた拳を此方へと向ける。
頼もしい限りだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます