第44話 壁

「止まった様だな」


ほぼ一晩かけて、憂のレベルアップがやっと終了した様だ。


「最終的なレベルは4999だ」


「4999って事は、SSランクか……」


レベルによるランク算出は――


レベル1から19までがF。

20から49までがE。

50から99がD。

100から199がC。

200から499がB。

500から999がA。


そして1000以上がSで、2500以上がSSになり、5000以上がSSSランクとなっている。


つまり憂は限りなくSSSランクに近いSSランクと言う訳だ。

因みに、ランキング世界一位のレベルは4000台前半と言われているので、俺の妹はそれ以上と言う事になる。

まああくまでもレベルだけの話ではあるが。


「4999で綺麗にレベルアップが止まったと言うよりは、三つ目の壁が越えられなかったという事だろうな」


「て事は、やっぱ5000レベルにも壁はあるのか」


レベルアップの壁。

それはプレイヤーがレベルを上げ続けると、いずれぶつかる事になる物だ。


最初の壁は999から1000に上がる時である。

ゲームなんかだと必要経験値が跳ね上がった時なんかに壁と表される事があるが、プレイヤーのそれは違う。

生物としての成長限界に近い物の様で、単純に経験値を稼げば乗り越える事が出来るという物ではなかった。


じゃあどうやって超えればいいのか?


残念ながらその正確な方法はいまだ解明されていない。

そのため、壁を越えられずレベル999で足踏みしているプレイヤーは多いと聞く。


一応ふわっとした物だと、才能+努力という説がある。


才能で苦労せずあっさり壁を超える者もいれば、それとは対照的に何年も努力して壁を越えた者なんかも多い。

その事から、条件は単一ではなく複合的な物と判断され――


才能+努力なんじゃね?


という説が、ネットでは実しやかに流布していた。


更に2499から2500——つまり、SランクからSSランクに上がる際にも壁があり、二つ目の壁と呼ばれている。

そして人類未到達と言われるレベル5000にも壁があるのではないかと推測されていた訳だが、妹のレベルアップでそれがほぼ確定した訳だ。


まあ偶々偶然、レベル4999で止まっただけという可能性もなくはないが……


因みに、レジェンドスキル持ちは基本才能がある側で、1000と2500の壁で引っかかる事はないと言われている。

姫ギルドが俺を勧誘したのも、確実にSランク以上に上がれるという確信があったからこそだろう。


ま、実際はS所かレベル判定自体はFのままなんだが……


「それで……憂の体に異常はないのか?」


まあこの際、レベルがいくつかなんてのはどうでもいいだろう。

重要なのは前代未聞の急激なレベルアップで、妹の体に異常が出ていないかどうかだ。


「命に別状はない。だが、暫くは眠り続ける事になるだろうな」


「しばらく眠り続けるってどういう事だ!?」


「そう声を荒らげるな。命に別状はないと言っただろう」


「じゃあいったい何で暫く眠り続ける事になるんだよ」


「悠の妹は急激にレベルアップしたからな。今は爆発的に上がった能力や、大量に取得したスキルを真面に扱える様に肉体が調整――というより、進化中と言った方が正しいか。ま、要は肉体を健全な状態にするため暫く寝たままになると言う事だ」


「……本当に問題ないんだろうな?」


「ない。心配するにも程があるぞ、シスコン」


「誰がシスコンだ」


家族の事を心配するのは当たり前の事である。

しかも憂はほんの少し前まで、覚醒不全で昏睡していたのだ。

そんな妹を心配するなと言う方が無理という物。


親父の事で傷ついてもいるし……


「まあ安心しろ。魔竜アングラウスの名に懸けて宣言してやる。お前の妹憂は、半年もすれば元気に眠りから覚めると」


「まあお前がそこまで言うのなら――って、半年!?憂はそんなに眠りっぱなしになるのか!?」


「お前の妹の肉体は、爆発的に上がったレベルにゆっくりと適応していっている状態だからな。急げばそれこそ何らかの障害が出かねんから、まあ仕方なかろう」


「そうか……」


4998もレベルが上がったら、もうスペックは完全に別の生き物に近い状態になる。

それにしっかり適応する為には、半年という時間も仕方がない事なのだろう。


せっかく目覚めさせる事が出来たってのにな。

まあだが仕方ない。

目覚めるまでの半年間、俺がずっと憂のそばについていて……


って、そんな訳にもいかないか。

ランクを上げてダンジョン攻略を行う必要が、俺にはあるからな。


エリクサーは手に入ったのに何故ダンジョン攻略するのか?


その理由は簡単である。

金が必要だからだ。

税金を支払う為の金が。


エリクサーは貰い物だが、その相場は15億と高い。

当然そこには贈与税が発生し、俺はその税金を支払わなければならないのだ。

確か税率は55%とかだったはず。


15億の55%は8億ちょっと。

なので8億稼ぐ――だけでは足りないな。

稼いだお金にも税金はかかるので、税金を支払おうとすれば俺は15億程稼がなければならない。


え?

それだと自分でエリクサーを買うのと変わらないから、十文字から貰った意味がない?


もちろんそんな事はない。

自分でエリクサーを買った場合だって、結局その稼ぎには税金が発生する訳だからな。

その場合、俺は合計20億以上稼ぐ必要が出て来る。


こんな事なら十文字から100億受け取った方が良かったな?


そんな事をちょっと考えるが、まあもう後の祭りである。

憂の傍にいてやりたい所だが、頑張ってダンジョンで稼ぐとしよう。


「アングラウス。悪いけど引き続き憂の警護を頼むよ」


レベルが4999とは言え、憂はまだその力を物には出来ていないのだ。

しかも意識がない状態なのだから、そもそも自衛自体ままならない。

なので引き続き、俺はアングラウスに憂の護衛を頼む。


「いいだろう」


「ありがとう。そういや、憂は今も俺を見てるのか?」


「いいや、視線は感じない。どうやら意識が戻った際に、一度解除された様だな」


「そうか。もし視線が戻ったら教えてくれ」


もし憂が見てるのなら、話しかけ続けないと。

父さんがどれだけ憂の事を大事に思い、その幸せを願っていたかを。

そして、俺や母さんにとってどれだけかけがえのない存在であるかを。


そうでないと憂は……

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