第43話 レベルアップ
「憂は俺が見ておくよ」
憂は暫く泣いた後、疲れて眠ってしまった。
とりあえず俺は今日、病院に泊る。
不安定な憂を一人にしておけないからな。
もちろん病院には許可を貰っているぞ。
「ごめんだけど憂の事お願いね、悠」
母さんは夜の仕事があった。
憂の傍にいたいだろうが、真面目な母さんは自分が抜けて他の人に迷惑を掛けられないからと、仕事へと向かう。
「俺は不死身だから疲れないし気にしなくていいよ」
「じゃあ母さん行って来るわね」
「うん」
しかし、どうした物か……
父さんの事は憂には伝えないつもりだった。
それでなくとも二年間も寝たきりだったのに、その上父親が自分のために死んだなんて知ったら、強いショックを受けるのは分かり切っていたからだ。
なのにまさかそれをスキルで見ていたとは。
神がいるのなら呪わずにはいられない。
「謎の視線の正体は、お前の妹だった訳か」
ベッドの下から影が伸び、そこからアングラウスが飛び出して来る。
「なんでいんだよ。ぴよ丸の事頼んだろうが」
アングラウスとぴよ丸は家に置いて来た。
ぴよ丸がウザいのが目に見えていたのと、アングラウスにはその給仕係をして貰う為だ。
なのに何でこいつが――
「いや、違うか。お前は分身か」
「そうだ」
レジェンドスキル関係で妹に何かして来る奴がいても対処できる様、アングラウスにはその分身を憂に護衛を付けて貰っていた。
それがコイツだった様だ。
「所で、謎の視線の正体って……お前は気づいてたのか?」
「ああ。初めて会った時から悠に纏わり付いていたからな」
「気づいてたんなら言えよ」
「敵意の様な物は全く感じられなかったからな。問題ないと判断したのさ」
まあ確かに憂のスキルだったからな。
敵意なんてある訳もない。
「そもそも、【不老不死】のデメリット効果を聞くまでは悠のスキルだと思っていたしな」
アングラウスは他人の状態やレベルを見透かす事は出来ても、その所持しているスキルまでは知る事が出来ない様だった。
そのため俺の【不老不死】のデメリットを、彼女はレベルが上がらないだけだと勘違いしていたのだ。
「まあ次からは気づいた時に言ってく――」
気づいたときに言ってくれ。
そう言おうとして引っかかる。
――アングラウスは初めて会った時から気づいていたと言っていた。
俺とこいつが初めて会ったのは何時だ?
ランニング最中に俺の目の前に現れたあの時か?
アングラウスに回帰前の記憶がなかったのなら、そうだろう。
だが奴は記憶があった。
そのアングラウスが言う初めてとはつまり……
「ちょっとまて!?まさかお前と戦った時にも憂の視線があったってのか!?」
もしそうなら、憂はエターナルダンジョン攻略の一万年間、俺の事をずっと見てたと言う事になる。
「最初っからといっただろう?当然、あそこでお前と戦った時だ」
「じゃあ憂は時間がまき戻った事も……」
「それは知らないだろう」
「へ?」
「覗きや盗み聞きは趣味ではないが……さっき悠の妹が取り乱した時の反応を見る限り、父親への自責の念がその大半だった。兄が一万年も頑張っていた事を知っているなら、それに対する反応をもっと強く見せていたはず」
「そうか……そうだな」
確かにアングラウスの言う通りだ。
……良かった。
それでなくとも憂は父の事で傷ついてるのだ。
そこに俺が一万年も苦しみ抜いた姿が加わわるなんて、考えたくもない。
これ以上憂には苦しんで欲しくないんだ。
「そもそも、悠の妹はずっと前に死んでいたのだろう?死者に何かを見聞きする事など出来んよ」
「それもそうだな。けどじゃあ、お前と始めたあった時の視線ってのは何なんだ?別の誰かなのか?」
「いいや、全く同じものだったぞ」
「いや、それだと話がおかしくないか?」
憂は死んでいて俺の姿は見れない。
なのに一万年後のアングラウスとの戦いを見ていた。
完全に矛盾している。
「そうでもない。千里眼の様なスキルではなく、特殊な存在の召喚辺りならな」
「召喚?」
「見えず気配もない何かがお前に憑りつき、そいつを通してお前の様子をみていたなら不思議な事は何もない。主人が死んでも別に使い魔は死なんだろう?それと同じだ。お前に憑いていた奴が、一万年間主の命を守ってたって事さ」
「なるほど……」
それなら憂が知らず、俺に視線が合ったのは説明がつくな。
「まあ恐らくだが……そいつも時間の巻き戻しに巻き込まれていると私は踏んでいるがな」
「どういう事だ?」
俺の問いに、アングラウスは憂の方を見た
「お前の妹は、ただ単に泣き疲れて寝ている訳じゃない」
「?」
アングラウスの言葉に、俺は眉を顰める。
何が言いたいのだろうか?
「結論だけ言えば……お前の妹は、今急激にレベルアップしている」
「は?」
「その急激なレベルアップによる強化の影響で、気絶している状態だって事さ」
「ど、どういう事だ?」
憂がレベルアップ?
意味が分からない。
妹は覚醒不全から回復したばかりで、魔物を倒す所か出会った事すらないと言うのに。
「これは推測だが……この憂という娘のスキルは他人に監視をつけるだけではなく、その対象から経験値を得る事も出来るものではないかと我は睨んでいる」
「他人から経験値を得る……そんなとんでもスキル、聞いた事無いぞ」
「別に悠は全てのスキルを知っている訳ではあるまい?」
「そりゃそうだけど……」
確かにアングラウスの言う通り、俺は全てのスキルを知っている訳ではない。
けど他人を見張りつつ経験値を奪うなんてとんでもスキル、本当にあるんだろうか?
もしあるんだとしたら、それは確実にレジェンドスキルだろう。
「まあこの線で話を進めるぞ。今まで憂は覚醒不全でレベルが存在せず、経験を一切受け取る事が出来なかった。が、覚醒した事で一気にそれを受け取ってレベルアップしている。というのが私の推測だ」
「そうなのか?それで憂は大丈夫なのか?」
「体にダメージはない様だから、死ぬ様な事はまずないだろう」
「そうか、よかった」
俺は一安心する。
せっかく目覚めたのに、急激なレベルアップが影響で死ぬとか笑い話にもならない。
「とは言え、上がり方が上がり方だからな。何らかの影響が出る可能性もなくはないが……因みに、今お前の妹はレベルが500を超えているぞ」
「は!?」
500?
どういう事だ?
俺はそんなレベルに上がれるだけの魔物を倒してなどいない。
いったいなぜそれ程一気にレベルが上がっているのか。
意味不明もい良い所だ。
「だから悠に憑いてた奴も、時間が巻き戻っていると言ったのさ。何せお前はあのダンジョンをクリアした訳だからな。憑いてた奴はさぞ大量の経験値を抱えて時間を巻き戻っている事だろうからな。それなら今も馬鹿みたいに上がり続けるレベルにも納得がいくというものだ」
「いやけど……時間が巻き戻ったなら無かった事になるんじゃ?」
俺は増やした命を全て失っているし、アングラウスだって若返っている。
ならどれ程経験値を抱えていようとも、それだって失われてしまわなければおかしい。
「まあ普通の生物ならそうだろうが、憑いている奴の正体が不明だからな。それにスキルによる蓄積された経験値というのも特殊だ。その辺りが影響しているのだろうと思う。もしくは……」
「もしくは?」
「我の推測が全く当たっていないか、だ」
「おいおい。自信満々に説明しておいてお前……」
「もちろん自信があるが、そこはスキルの事を本人に聞いて見ん事にはな。とにかく、お前の妹のレベルは止まる事無く上がり続けている。それが全てだ」
体の心配がないのなら、レベルアップの事はこの際置いておこう。
やはり問題は心のケアだ。
「憂……」
どうやったら辛い現実を乗り越えられるのか……
とにかく、今は常に憂の傍にいてやるしかない。
「俺と母さんがついてるからな」
俺はそう言って、寝ている憂の髪を優しく撫ぜた。
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