第29話 ニュース

「ふぅ……」


三つ目の命の接続が終わり、俺は一息つく。

回帰前に戻るにはまだまだ先は長いが、とにかく地道にやっていくしかないだろう。

幸い、ぴよ丸のお陰でかなり短縮は出来ているしな。


『マスター!祝いのマヨネーズを所望じゃ!』


「分かったよ」


俺はマヨネーズを袋から出して、封を外すと――


「アイラブマヨネーズ!」


ぴよ丸が俺の体から飛び出して来て、そのままベッドの上に転がる。

立ち上がろうとさえしないその体形は、限りなく球体に近い。

語尾に「ぶひぃ」とかつきそうな感じである。


……ますます太って来たが、まあ気にしない事にしよう。


融合している分には問題ないので。


「ウマウマウマウマ」


ぴよ丸を片手で持ち上げ、その嘴にマヨネーズの噴出口を突っ込んでゆっくり絞ってやると、ごくごくと喉を鳴らしながらぴよ丸が美味そうにマヨネーズを啜る。

なんか赤ちゃんに哺乳瓶でミルクをやっている気分だ。


まあカロリーは別次元だが。


「悠。面白いネットニュースが乗っているぞ」


「ん?」


アングラウスがタブレットの画面を肉球で叩く。

俺は何かと思い、その画面をのぞき込んだ。


『レジェンドスキルのデメリット部分回避方法が!?』


という見出しの画面が目に入る。


「こりゃあ……誰かが発見したって事か?」


「その誰かが問題だな。記事を見て見ろ」


「——っ!?」


その記事を読むと、レジェンドスキル【不老不死】の所持者である顔悠かんばせゆう——つまり俺が、デメリットの回避方法を発見したと書かれていた。

それを見て俺は眉を顰める。


「リーク元はカイザーギルドか」


レジェンドスキル関連に関しては、姫ギルドも知っている。

だが記事にはカイザーギルドが10億で情報の購入を試みたが袖にされ、100億請求されたと書いてある。

ので、間違いなくカイザーギルドが情報の出元だろう。


「吹っ掛けすぎとか、金の亡者と書かれているな」


記事には、多くのコメントが寄せられている。

貴重な情報なのでそれ位の価値はあると書かれていたりもするが、そう言うのはごく少数だ。

その殆どが、100億も要求するとか正気の沙汰じゃない的な物がずらっと並んでいた。


「完全に悪者だな」


「それはまあ、どうでもいい」


ぶっちゃけ。

有象無象の一般人に何と思われようが、どうでもよかった。

面と向かって何かされる訳でもないからな。


だが、問題はデカデカとネットニュースになった事だ。


「マスター!もう一本!」


ぴよ丸が空気も読まず、お代わりを求めて来る。

無視するとぎゃーぎゃー五月蠅いので、もう一本マヨネーズを与えてやる。


「はぁ……厄介な事になったな」


「何が厄介なんだ?」


「ネットニュースの一面に乗ったからな。間違いなくレジェンドスキル持ち達の耳に、この事が届いちまう事がさ」


突破方法があるなら、彼らはその情報を喉から手が出るほど欲するはず。


レジェンドスキルの持ち主ってのは、一部俺の様な例外のスキル持ちを除いて強力な力を有している。

そういう奴らなので、当然大きなギルドや国の機関や組織に所属しているのが大半だ。

立場も当然高い。


そんな彼らがどう動くか……

只の交渉くらいで終わればいいんだが、絶対そうはならんよな。


カイザーギルドの様に、情報を買おうとするだけなら問題はないだろう。

勿論対応は面倒くさいが、実害はそれ位である。


問題は、強引にでも情報を手に入れようとする輩。

組織が出てきた場合だ。


いくら金を積んでも俺が首を縦に振らない――まあ俺自身がそんな情報を持っていないので、ふり様がないのだが。

金で手に入らないなら、無理やり力づくでもと考える奴等が出て来てもおかしくはない。

特に国外のやばい組織なら、冗談抜きで手段を択ばず仕掛けて来てもおかしくないのだ。


俺はその事をアングラウスに説明する。


「なるほど、それは厄介だな。しかし解せん。カイザーギルドは情報を欲しがっていたのだろう?こんな情報を広めたら、競合が増えるだけじゃないのか?そもそも悠が連れ去られでもしたら、奴らは絶対に情報を手に入れられんだろうに」


「情報の流布が追い風になると考えたんだろ」


「何故だ?」


「何を仕出かすか分からない様な奴らに狙われる状況。その手っ取り早い回避方法が、カイザーギルドに所属する事だからだ。要は、うちに所属すれば守ってやるって名分で俺に契約を求めるつもりなんだろう。日本三大ギルドに所属すれば、他所の組織も迂闊に手を出せないからな」


そんなふざけた真似をした所ではなく、他の大手に入ればいい?


残念ながら、日本のギルドでレジェンドスキル持ちがいるのはカイザーギルドだけだ。

自分の所にスキル持ちが所属してないギルドは、他所と揉めてまで俺を受け入れたりはしないだろう。


もちろん海外にまで目を向ければ選択肢はあるが、よく分からない海外のギルドに飛び込むなど論外である。

よく知らないので信頼性がないのもそうだが、俺には覚醒不全で動けない妹がいるのだ。

その状態で拠点を海外に移すなど出来る筈もない。


そういった事情を考慮して、カイザーギルドは交渉が有利に運ぶと判断したのだろう。


要は此方の足元を見てるのだ。

舐めやがって。


「日本三大ギルドの割に、随分とせこい手を使うな」


「ああ、まあ上手い手なんだとは思う。もちろん……俺以外になら、だが」


カイザーギルドは大きな勘違いを2つしている。

一つは、俺がレジェンドスキルの突破方法を知っていると勘違いしている事だ。

だがそんな物はないので、奴らがどう立ち回ろうと情報は手に入らない。


もう一つ。

それは――


「という訳で、借りもう一つ頼んでいいか?」


「家族だけではなく、自分まで守れと?厚かましい奴だな。自分の身ぐらい守れんのか?不死身だろうに」


――俺の直ぐ傍に化け物アングラウスがいる点だ。


母や妹には、数日前からアングラウスの不可視の分身が付いている。

何かあった時、守って貰えるよう俺が頼んだからだ。

カイザーギルドの捨て台詞があったからな。


「死なないだけで、捕縛されたらどうしようもないんだよ。せめて命が7つくらいになるまでは頼む」


7つもあれば、ギリギリSランクとだって戦えるだろう。

そのレベルになれば、不死身と言う特性と合わせて余程の事がない限り襲われても逃げ切る事ぐらいは出来る筈だ。


「安心しろ。お前の事は母親から頼まれているからな。それに……育ち切って貰わんと話にならん」


返事がイエスなのはもちろん分かっていた。

何せアングラウスは、強さを取り戻した――いや、以前以上の俺と再戦するのが目的な訳だからな。


だが守って貰う以上、相手にきちんと頼むのが筋だ。


「ありがとう。頼むよ」


「マスター!お代わり!」


「へいへい」


俺は請われるままに、三本目のマヨネーズをぴよ丸デブにチャージする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る