第27話 問題

「そう言えば、何故勧誘を断ったんだ?」


命を繋いでいると、アングラウスが寝そべってタブレットを弄りながら聞いて来る。


午前中、岡町と幸保が家に訪ねて来て俺を姫ギルドに誘って来たのだが、俺はそれを断っていた。

アングラウスにはそれが不思議だったのだろう。


「手っ取り早くエリクサーを手に入れる機会だったろうに」


「まあな」


岡町達の話じゃ、エリクサーは相当値上がりしている様だった。

相場だと現在15億だそうである。

回帰前も値上がりしていた事自体は知っていたが、当時は働くのに必死過ぎて値段の確認をしていなかったので、まさかそこまで上がっているとは夢にも思わなかった事だ。


二人が勧誘に出した条件はそのエリクサーだった。


現在Dランク――証を使って協会で更新済み――である人間にとって、それを契約金代わりに貰えるのは間違いなく破格の条件と言えるだろう。

だが俺はそれを断っている。

契約するには少々問題があったからだ。


彼らは俺がレジェンドスキルのデメリットを何らかの方法で突破したと思っていた様だが、実際は違う。

戦闘能力の向上は命を使った特殊な技術だし、アングラウスはユニークスキルの使い魔でも何でもなく、ただの俺にくっ付いているだけの魔竜である。


「けど、お前がいるからな。もしギルドに入ったら、ユニークスキルでも何でもないのがバレちまうし」


大手ギルドなら、新規メンバーの能力の鑑定は間違いなく行われるだろう。

そうなると一発でウソがばれる。

そしてそうなった場合、アングラウスはいったいなんなんだって事になるのは目に見えていた。


「余計なトラブルを抱えて、お前に暴れられても敵わないからな」


アングラウスは今は大人しくしている。

だが周囲が騒いで騒動になった時、それを我慢してくれるとは限らない。

所詮は人ならざる化け物だ。


コイツが暴れ出したら周囲にどれだ程の被害が出る事か……


「成程」


「まあぴよ丸のお陰で巻いていけそうだからな。15億より値上がりしても一年以内に何とでもなるさ」


あまり頼りたくはないんだが、最悪、アングラウスの初回レアドロップ確定を使えばいいってのもある。

そうすれば直接入手する事も可能だ。


「ん?」


アングラウスと話していると、チャイムの音が響いた。

誰か家を訪ねて来た様だ。

母は仕事で出払っているので、俺が対応しないと。


「ぴよ丸は作業を続けといてくれ」


『マヨネーズイズジャスティス!』


元気よく返事が返って来る。

何言ってるのかよく分からんが、まあたぶんイエスって意味だろう。


「はい」


玄関を開けると、七三頭のスーツ姿の男性が立っていた。


「突然のご訪問失礼いたします。わたくしこう言う物でして」


男から名刺を手渡される。

名刺にはカイザーギルドエリアマネージャー、柏木豊かしわぎゆたかと記されていた。

どうやらカイザーギルドの人間の様だ。


「先日はうちの滝口が大変ご迷惑をおかけした様で、そのお詫びにとお伺いさせて頂きました。本日お時間の方宜しいでしょうか。お忙しいようでしたら、後日日を改めさせて頂きますので」


協会での滝口の件で、例の誠意——要はお金を持って来た様だ。

しかし金渡すだけなら、別に時間なんていらないだろうに。

ポンと渡してバイバイするだけなら30秒もいらん。


「ええ、まあ大丈夫です」


「さようですか。では立ち話もなんですので、近くにカフェがありましたのでそちらへ参りましょう」


なんで態々喫茶店?

何かするにして、パッと思い浮かぶのはこの前の一件を口外しない旨の誓約書を書かせるとかか?


まあ大手ギルドからしたら、人の首へし折ったなんて噂は好ましくないだろうからな。

協会での事なので目撃者はいるが、被害者の俺が黙ってれば大きな噂にはならない筈だ。


「はぁ……」


いいから金だけ寄越せという訳にもいかないので、俺は戸締りをして柏木と一緒に近所のカフェへと向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る