第26話 時短

「んまんまんまんまんまんま……」


ぴよ丸がマヨネーズを美味そうに、ごくごくと喉を鳴らして飲んでいる。

その姿を見て思う――


「こいつ絶対太ったよな」


――と。


元々丸かったぴよ丸は、この数日で劇的に丸味成分を増していた。

間違いなくこいつは太って来ている。


「生まれたばかりの成長期だから、大きくなっているだけだろう」


ベッドで寝転ぶアングラウスは、タブレットを弄りながら問いかけた俺に興味なさ気にそう答えた。


お前が俺と融合するから健康被害は出ないって言ったから、こいつにマヨネーズを好きなだけ食わせてる訳だが?

まあ太っても何故か健康な人間はいるので、ぴよ丸もその類の可能性は高いが。


「美味い!マスター、もう一杯!」


「黙れデブ」


昼食にマヨネーズ二本もすすっておいてまだ欲しいとか、完全なるデブマインドである。


「ななな!なんじゃと!ワシはぽっちゃり系女子じゃ!デブではなか!」


「はいはい、どっちにしろ打ち止めだ。買いに行かないともう家にはねーよ」


「なんじゃと!それは一大事じゃ!スーパーへ急がねば!モードチェンジ!ファイヤーバード!!」


端が炎になった羽をぴよ丸が羽搏かせる。

その羽搏きは初めての頃とは見違えるほどに力強く、彼女の体を飛翔させる。

具体的には15センチぐらい。


「ファイヤーウィング!ファイヤーウィング!」


本人は気合を入れて羽搏いているのだろうが、全くそれ以上浮かびもしなければ進みもしない。

綺麗なホバリング状態だ。


「なんでレベルが30個も上がってんのに、ホバリングしかできないんだよ」


ぴよ丸のレベルはあのDランクダンジョンで30個も上がっていた。

まあレベル1だったから劇的に上がるのは当然の事なのだが、それだけ上がったにもかかわらず成長の跡が見えない。


「そんな事はないだろう。前より浮いているし、レベルアップ前ならもう墜落してた頃だ」


「まあ確かに」


「ファイヤーウィング!ファイヤーウィング!」


初めて飛ぼうとした時は一瞬でスタミナ切れを起こしていたが、今のぴよ丸にその様子はない。

一応成長はしている様だ。


「ま、浮くだけで上手く飛べないのはバランスの問題だろう。短い羽と丸い体だからな。後、太ってるし。まあ成長すれば自然と飛べるようになるだろう」


……結局お前も太ってるって思ってるんじゃねーか。


「……勝手に飛び回られても困るし、今はこれぐらいでちょうどいいのか」


コイツはフリーダムだからな。

しかし……


「ファイヤーウィング!ファイヤーウィング!ファイヤーブゲッ!?」


羽搏くのは良いのだが、雄叫びがうるさくて敵わなん。

ので、引っ掴んで黙らせた。


「ぴよ丸。飛ぶのは良いんだが、その叫ぶのは何とかならないのか?」


「難しい注文じゃ!じゃがそこまで請われたなら善処しようぞ!」


「そうしてくれ。それとマヨネーズは後で買いに行くから、夕飯まで我慢しろ」


「馬鹿な!?」


「良いから融合だ。繋ぐの手伝え」


現在は3つ目——ぴよ丸の命は含まない――を接続中である。

本当は二つ目の命の慣らしにはもっとかかる筈だったのだが、ぴよ丸と融合したのがいい方に影響したのか、早々に次のステップへと進む事が出来ていた。


その接続に関しても、ぴよ丸に手伝わせる事でかなり期間を短縮できそうだ。


「やれやれ、マスターはワシなしじゃなんも出来んのじゃな。仕方ない!この女ぴよ丸にドンとまかしんしゃい!」


「ああ、感謝してるよ。だからマヨネーズが欲しけりゃさっさと融合して手伝え」


「ただ一言だけ言わせて貰う!融合ではなくミラクルドッキングじゃい!」


「ああ、はいはい」


ぴよ丸のよく分からないこだわりに、俺は適当に返した。

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