第19話 マヨラー

「ふおおおぉぉぉぉ!!」


母が用意してくれた朝食を取ろうとすると、雄叫びと共に目覚めたヒヨコが俺の体から飛び出してテーブルの上に着地する。

どれだけ声をかけても起きなかった癖に、飯の匂いで目を覚ますとか現金な奴だ。


「あら、その子が言ってたヒヨコちゃんね」


当然母には事前に話してある。


「初めましてぴよ丸ちゃん」


ついでに言うなら名前ももう考えておいた。

ピータンにするか迷ったが、流石に食べ物の名前はどうかと言う事でぴよ丸で。


「それ!それをくれ!ファイヤーバード!!」


ぴよ丸は母の挨拶など無視して、毛先を炎に変えて飛び上がろうと必死に羽搏いた。

その視線の先は、サラダ用に蓋を開けた俺の手にあるマヨネーズだ。


「マヨネーズが欲しいのか?」


「ファイヤーバード!ファイヤーバード!」


問いには答えず、目を血走らせたぴよ丸が狂った様に羽搏き、俺の手の中にあるマヨネーズに向かって超がつく程のスローモーションで突っ込んで来る。


……ドンだけ必死なんだよ。


「ファイヤーバード!ファイヤーバードォ!!」


「昨日よりずいぶん飛べるようになってるな」


昨日は5センチ浮くのが限界だったが、今日はもうその倍近く飛んでいる。

昨日の今日で大したもんだと思いつつ、俺はその首根っこを掴んでテーブルの上に戻した。


「ちゃんとやるから落ち着け」


また飛び上がろうとするぴよ丸を手で押さえ、母が取ってくれた小皿にマヨネーズを入れてやる。

そしてそれを目の前に置いてやった。


「ほぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


雄叫びを上げながら、ぴよ丸が狂った様に頭を前後させてくちばしでマヨネーズをついばむ。

だが嘴では上手く食べられないせいか、周囲に激しく飛び散りまくってしまう。


……きったねぇなぁ、まったく。


「足りん!足りんぞぉぉ!マスター!その白くてドロリとした物をワシに!!」


全部喰い終わった――半分ぐらいは周囲に飛ばしただけだが――ぴよ丸が、俺にお代わりを求めて来る。


「いや……マヨネーズとか食べまくるのは絶対アレだから、それだけで我慢しろ。他にも喰いもんはあるから」


どういう食性かは知らないが、マヨネーズだけ食いまくるのはどう考えても健康に良くないはず。

俺が育てる以上、不健康にする様ないい加減な真似をするつもりはない。


「ワシはそれが良いんじゃあ!それじゃなきゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!!」


ぴよ丸がテーブルの上で横になって、羽や足をじたばたさせて暴れだす。


小さな子供かよ、お前は。

いやまあ生まれたばかりだから、子供所か赤ん坊な訳ではあるが。

お馬鹿な喋り方のせいでどうもそう思えなくて困る。


「やればいい。仮に体調に問題が出ても、悠と融合すれば回復するだろう」


焼き魚を喰っているアングラウスが、煩わしそうにそう言って来る。

どうやら食事中にギャーギャー喚かれるのが不快な様だ。

まあその状態が楽しい奴なんていないだろうが。


「まあ、確かにそうだな……」


融合できる以上、俺のスキルの影響でぴよ丸の体調が万全に保たれる可能性は高い。

命がそうだった訳だからな。

なら、好きな物を食わても問題ないだろう。


「ほれ、やるから喚くな」


「とぅっ!」


再び小皿にマヨネーズを出そうとすると、ぴよ丸の奴は容器の先端に飛びつき、その嘴で噴出口を咥えてしまう。

どうやらダイレクトで寄越せと言いたい様だ。

この馬鹿鳥は。


「バッチい事すんなよ。俺や母さんも使うんだぞ」


「私達は新しいのを使えばいいじゃない。普通に食べたら周りが汚れちゃうし、そのままぴよ丸ちゃんに飲ませて上げなさい」


「……まあそうだね」


俺は空いてる手でぴよ丸を包み、容器を握って中身を絞り出してやる。

あんま一気にやると気管に入ったりするかもしれないので、出来るだけゆっくりと。


「んまんまんまんまんまんまんま」


「ふふふ、まるで赤ちゃんにミルクを上げてるみたいね」


母が楽しそうに微笑む。

まあ確かに絵面的にはそんな感じなんだろう。

但し、飲ませてるのはミルクなんて優しい物とは程遠いマヨネーズだが。


朝食を終えた俺は、今日はDランクダンジョンへと向かう。

ぴよ丸を連れて。


「わしの名前はぴよ丸じゃーい!」


用意を済ませて出かけようとしたら、ぴよ丸が玄関先で自分の名前を意味もなく吠えた。

どうやらお気に入りの様だ。


最初名前を告げた時もっと格好の良い名前が良いとか喚いていたが、アングラウスが『それは古代竜語で覇王と言う意味だ』と言うと、その嘘を真に受けてコロッと掌を返している。

チョロい奴だ。


「はいはい、分かったからさっさと融合してくれ」


基本的に外では融合状態でいく。

五月蠅く喋るコイツを連れ歩くのは、色々と問題があるからだ。


「融合ではなくミラクルドッキングじゃい!」


「分かった分かった。じゃあそのミラクルドッキングを頼む」


「一回につきマヨネーズ一本じゃい!」


「おまえどんだけマヨネーズすするつもりだよ」


「アイラブマヨネーズ!」


「やれやれ。まあ帰ってきたらやるから」


「流石はマスターじゃい!では!ミラクルドッキング!!」


俺はぴよ丸と融合し、ダンジョンへと向かう。

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