第18話 寝る子は育つ

「これは……」


自分の中に感じる三つ目の命。

それもストックではなく、自分自身にちゃんと繋がってる命だった。

どうやら融合したヒヨコの命も、俺の命として扱える様だ。


「命が増えている様だな」


アングラウスも気づいた様だ。


「ああ、それにこの感じ」


俺はライフストリームを発動させる。


「ライフストリームはきちんと発動するな」


ライフストリームを発動させると、俺の二つだけではなく、ヒヨコの命の分も含めて発動させる事が出来た。


『ふおおお!体に力がみなぎって来るばい!これがワシの真の力か!!』


お前のじゃなくて俺の力なんだが……

いやまあ、ヒヨコの命も燃やしてるからこいつの力と言えなくもないが。


「それに寿命も減ってない」


ライフストリームは命を燃焼させて身体能力を上げる技だ。

使えば当然その分の寿命が縮む。

だが、俺の中にあるヒヨコの命の輝きには全く変化がなかった。


つまり融合しているヒヨコにも、俺のレジェンドスキル【不老不死】の効果が及んでいるという事だ。


俺は続いてエクストラバーストを発動させる。


『キタキタキタァ!今のワシは神すら超える!!』


もちろん超えない。

神どころか、目の前のアングラウスにもデコピン一発で吹き飛ばされかねないレベルだ。


「痛みは感じてなさそうだな」


エクストラバーストは命を爆発させ、限界を超えた力を発揮する技だ。

普通の人間が使えばあっという間に命が尽きるし、体に無茶な負担をかけるので痛みも伴う。


まあ今は三つなので、命が十二個あったころに比べれば全然大した事はないのだが、それでも生まれたばかりのヒヨコが無視して元気いっぱい叫んだり出来るとは思えない。

なので、傷みは感じてないと考えていいだろう。


「ま、念のため……」


左手の人差し指を右手で掴み、俺は自分の指をへし折った。

焼ける様な鋭い痛みが走る。


『なんぞ!?自らの力に溺れてしまったんかいね!?』


が、ヒヨコの声に痛がっている様子はない。

まあこれで確定だろう。


態々指を折って強い痛みを発生させなくても、聞けばよかっただけじゃないか?


このヒヨコは今一会話が成立しないからな。

聞くよりこの方が早い。

不老不死だから折った指も一瞬で治るし。


取り敢えず発動している技を止める。


『なんじゃい、もうボーナスタイムは終わりかいね。つまらん!』


「良い拾い物をしたようだな。上手く使うと良い」


「ああ。けどいいのか?こいつがいたら、俺は以前より強くなってしまうぞ?」


アングラウスの目的は、万全の状態である俺にリベンジする事である。

だが奴は命が12個しかなかった回帰前ですら、俺に負けているのだ。

13個目の命が入れば、その差は更に広がる事になるだろう。


「前より強くなれば自分が勝つと?くくく……お前は二つほど大きな勘違いをしているぞ」


「勘違い?」


「一つ目は場所だ。あの狭い空間では、我は本来の力を発揮できなかった。折角翼が生えていても、あそこでは自由に飛び回る事が出来んかったからな」


エターナルダンジョン最下層。

そこは神殿の様な形状をしていた。


俺の眼から見れば、まるで馬鹿デカイ巨人の為に用意されたかの様な巨大な建物ではあったが、確かに巨体のアングラウスからすればそれ程広い空間ではなかっただろう。

少なくとも、その巨体で自由に飛び回れる程天井の高さが無かったのは事実だ。


……もしあの時奴が自由に空を飛び回れていたなら、相当厄介だったろうな。


「それともう一つ。我の種は人間に比べて遥かに長寿ではあるが……不老という訳ではない点だ。短い物なら1万年と生きられない」


「それって……」


俺がエターナルダンジョン攻略に賭けた時間は1万年だ。

もしアングラウスがその間、ずっと最下層ボスとして存在していたなら……


「そうだ。お前は寿命で死にかけの婆をぶち殺しただけと言う訳だ」


アングラウスが口の端を歪めて笑う。


「そして今は1万年前。この意味が分かるな?」


「今なら本来の力を発揮できるって訳か……」


「そう言う事だ」


俺が元の力を取り戻したら、リベンジマッチの結果は同じになる。

にも拘らずわざわざ奴が自信満々に待つと言ったのは、以前戦った時よりも、今の方がずっと強いからだった訳か。


「……」


けど……


アングラウスは知らないだろうが、同時に扱える命の数は増えれば増えるほど一つ当たりの出力が増えていく。

その原因は、師匠曰く『命の共鳴によって増幅される』だそうだ。

そのため、たった一つでも追加で増えれば俺のパワーは大幅に上がる事になる。


なのでアングラウスが以前の倍以上強いとかでもない限り、13個目の命を得た俺の方が有利なはずだ。

まあもちろん、それを態々奴に教えてやるつもりはないが。


『ぐぅー、すぴぴぴぴー』


「ん?なんだ?」


頭の中で間抜けな音が響く。

一瞬何の音かと思ったが――


『ぐぃー、ぷひゅぅぅぅぅ』


俺はそれが直ぐにヒヨコの寝息だという事に気付く。

どうやらヒヨコは寝てしまった様だ。


――って、何寝てやがる!


「融合したまま寝るとか、どういう神経してるんだこいつ」


普通あり得ないだろ。

フリーダムにも程がある。


『くぴぃー』


寝息が断続的に続く。

当然俺は融合の解き方など知らないので、体から追い出す術を持たない。


取り敢えず起こそう。

そう思って大声を出すが。


「おい寝るな!起きろ!寝たいなら分離してからにしろ!!」


反応は返ってこない。

起きるまで続けたい所だが、あんまり大声を出し続けるとご近所迷惑になってしまう。

痛みがないから体を叩いて起こす真似も出来ないので、どうやら自然に目を覚ますのを待つしかない様だ。


「はぁ……こいつが起きるまで、ずっとこの間抜けなBGM聞き続けなけりゃならないのかよ」


ものすごく扱い辛い言動の生き物だ。

まあもちろん、その有用さを考えれば誤差と言えるデメリットでしかないが。


とにかく――


「ヒヨコげっとだぜ!」


と、某国民的アニメ主人公の口癖っぽく心の中で叫んでおいた。

アングラウスの前で叫ぶのは躊躇われたからだ。

絶対頭がおかしくなったと思われる。


『女の封印は勲章じゃい!スピィー……』


俺の頭の中に、ヒヨコの寝言が響く。

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