第20話 ながら
「さて……」
俺がやって来たDランクダンジョンは、水溜まりと呼ばれる場所だ。
名前の由来はダンジョンのそこかしこに大きな水溜まり――水源がある事から来ている。
『なんぞこの場所は!マスターよ、陰気臭いぞ!』
「ダンジョンってのはそういうもんだ」
草原だったり、山みたいなダンジョンもあるらしいが、低ランク帯はこういう閉鎖的な洞窟系がメインになっている。
因みに俺がこのダンジョンを選んだ理由は三つある。
一つは家から近かった事だ。
何をするにしたって、アクセスのしやすさってのは重要だからな。
二つ目はダンジョンがそれ程広くない事。
俺はここをサクッとクリアして、証明の紋章を手に入れてDランクプレイヤーに上がろう思っていた。
何故ならぴよ丸のお陰で
今の俺なら、Cランクでもある程度狩りが成立するだろう。
基本的に稼ぎは高ランクであればある程よくなるので、Cランクでの狩りが成立するならそれ以下のダンジョンに通う意味はない。
そして三つめは、ここが人気のないダンジョンだからだ。
理由としてはこれが一番重要だったりする。
クリア目指してボス部屋に行ったらもう倒されてました。
なので最大24時間待機しててくださいとかなったら萎えるからな。
因みにボスは最短で4時間。
最長で24時間でリポップする仕組みになっている。
「悠。お前の命を増やすってのは、動きながらじゃできないのか?」
探索を始めようとしたら、アングラウスにそう問われる。
「動きながら?」
動きながらとか、考えた事もなかったな。
エターナルダンジョン時代も、ボス討伐後にある次エリアへのゲート――安全地帯でやっていたし。
「色々な事に使えそうだからな。ストックは多ければ多いほどいいだろう?なら、ながらで作り出せる訓練をしても罰は当たらないと思うぞ?」
「ふむ……」
命のストックは他人に入れれば、一応ヒール代わりにも使えなくはない。
まあ回復は死んだ瞬間って制限はあるが。
なので、ストックは多ければ多い程いいってのは確かにそうだ。
ただ、俺はパーティーを組んだりする訳じゃないからな。
ソロの俺がそうそう誰かを回復する為に命を分ける事など無いので、ストックを大量に保持する必要性は基本的に感じない。
けどまあ――
「そうだな、試しにやってみるか」
増やして損をする訳でも無し。
何かの役に立つ時が来るかもしれないので、アングラウスの言う通り、動きながら
「それが良かろう」
取り敢えず歩きながらから試してみた。
感覚的には集中してやるよりかは若干効率が落ちる感じだが、まあ出来なくはない。
これならちょっとした運動をしながらぐらいは問題ないだろう。
ただ敵との戦闘となると……
激しい運動。
それも痛みを感じる状況で出来るかは、現状正直怪しいと言わざる得ない。
戦闘中だけ中断すればいい?
残念ながらそう言う訳にはいかない。
何故なら、裂命は途中で途切れるとまた一からやり直しになってしまうからだ。
なので今のままだと、戦闘毎に一からやり直す羽目になる。
実際に戦闘になって見ないと分からないが、裂命を維持しながら戦うのに馴れるのには相当な時間がかかりそうだ。
『なんじゃ?なんか胸の辺りがもむずむずするぞい。マスターは何をしとるんじゃ?』
「命を増やしてるんだが……分かるのか?」
『むずむずじゃい!』
返事がアレだが、感じる事は出来ていると判断する。
「……なあぴよ丸、お前その感覚を維持できないか?ちょっとやってみてくれ」
感覚を感じられるなら、ひょっとしたら維持ぐらいは出来るのではないか?
そう思いぴよ丸に言う。
もしコイツが裂命を進めている状態を維持できるのなら、戦闘中に途切れる心配がなくなる。
『わしに不可能はなか!まかせんしゃい!』
「——っ!?これは……」
維持できればラッキー程度に思っていたのだが、ぴよ丸はなんと裂命自体をやって見せた。
まさか維持どころか命を分ける工程まで進められるとか……
こいつ天才か?
維持程度ならともかく、命を分けるのはかなり集中力と技術の居る行為だ。
融合による感覚の共有があったとしても、そうそう簡単にできる事ではない。
『どうじゃい!ワシに不可能はないんじゃい!!』
これなら裂命自体の加速も出来るな……
試してみたら共同作業も可能だった。
まあぴよ丸側はかなり拙い感じなので、倍速とまではいかないが。
「ほう、ぴよ丸に手伝わせたか。悪い手ではないな」
アングラウスには俺の細かい状態が分かる様だ。
何らかのスキルだろうか?
「ああ。ぴよ丸、そのまま続けてくれ」
『え!?これちょっと面倒臭いんじゃけど……』
「マヨネーズを追加でやるから頑張ってくれ」
『ふおおおおお!アイラブマヨネーズ!!』
マヨネーズ程度で頑張ってくれるのなら安いものだ。
チョロいぜ。
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