第4話 再会
「
ベッドで昏睡している妹の憂。
その姿はガリガリに痩せこけており、チューブなんかの色々な物が体中に繋がっている痛々しい姿だった。
その姿を見て、俺は思わず涙を流す。
「ぐっ、う……憂、兄ちゃん帰って来たよ。今度こそ……今度こそお前を目覚めさせてやるからな」
寝むる憂からしたら、目の前で泣きながら俺に帰って来たと言われても、きっと何の事かさっぱりだろう。
「そしたら……一緒に、父さんの墓参りに行こう」
父親は妹を救うため、自殺している。
覚醒不全を起こした憂は内臓の多くが駄目になっており、そのままの状態では持って数日だと医者に言われていた。
生き延びるにはエリクサーを使うか、移植しかない状態。
だがエリクサーは高すぎてとても直ぐには手に入れられない。
そして移植で何とかするにも、余りにも余命が短く、また必要とする部分が多すぎた。
だから医者は、諦めてくださいと俺達に告げたのだ。
確かに諦めるしかない状態だったと思う。
でも父さんは諦めなかった。
移植する臓器がないのなら、自分の物を使えばいいと。
「父さん……俺が絶対憂を助けるから、天国から見ててくれよ」
父さんの遺書には『不甲斐ない父親ですまない。どうか憂を2人で守ってやってくれ』と書いてあった。
俺はその遺言を、父の願いを叶える事が出来なかった。
だけど、だけど今度こそ……
「あら、
俺が妹を見ていると、ふいに病室の扉が開く。
振り返ると、そこには母がいた。
一時はもう二度と会えないと思っていた母が。
その顔を見ると、堪えきれずに涙が溢れ出してしまう。
「どうしたの悠!?何か仕事で辛い事でもあったの?」
涙を流す俺を見て、母が慌てる。
「ち、違うんだ母さん。逆だよ……」
「逆?」
「うん、逆さ。ほら、俺って強くなれなかっただろ?」
「ええ。だから危ない仕事をしてお金を稼いで……
母が心配げに俺の顔を覗き込んでそう言う。
仕事に複数のアルバイトを合わせて、それこそ休む暇もなく身を粉にして働いてくれてはいるが、母の稼ぎだけでは到底エリクサーには手が届かない。
もしそれだけに頼ってしまったら、それこそ手に入れるのに何十年もかかってしまうだろう。
「ははは、だから違うって。逆って言っただろ」
「逆って、何が逆なの?」
「強くなる方法が見つかったんだよ。これからは俺も普通の冒険者としてガンガンお金を稼いで見せる。だから母さんは仕事を減らしてくれていいんだ。なんだったら、もう働かなくても大丈夫なぐらいさ」
かつては力が無かった。
だが今は違う。
二人を守るだけの力が今の俺にはある。
まあ現状は回帰前に比べて相当弱くなってしまってはいるが、それも直ぐに取り戻せるだろう。
そうなればエリクサーを手に入れる事も、母さんに楽をさせてやる事も容易い。
「強くなれるのはめでたい事だけど……あんまり無理はしないでね」
「大丈夫だよ、母さん。何せ俺は不死身なんだから」
「それはそうだけど……痛みや苦しみが無くなる訳じゃないんでしょ?」
「強くなれば、そういうのからも自分を守れるから安心してよ」
弱いから苦しめられたり、死ぬ事になるのだ。
強ければその心配はなくなる。
そこに嘘はない。
とは言え……
強さとは相対的な物だ。
此方がいくら強くなっても、それよりも強い相手と戦えば当然殺されてしまう。
だから余程無敵の強さでも手にいれない限りは、苦痛と完全に無縁という訳にはいかない。
まあ高難易度のダンジョンには行かず、自分より圧倒的に弱い敵だけ狩るのならそれを避ける事も出来るだろう。
だけど俺は高難易度、それも超が付く高難度ダンジョンに力が戻り次第挑まなければならない。
――
今から1年後。
旧来の、ダンジョンからは魔物が出て来ないという常識を覆す事態が起きる。
それが崩壊型ダンジョンだ。
既存の物とは違い、崩壊ダンジョンは内部から魔物が出現する。
これによりダンジョンが一般人にとって危険が無いと言う安全神話は崩れさり、そこから世界は激変する事となったのだ。
憂や母さんが死んだのも。
俺が二人を守れなかったのも。
全てはこのダンジョンのせいだった
何故なら、最初の崩壊ダンジョンはいま憂がいるこの病院の地下で発生したからだ。
動けない憂を守る為、魔物によって阿鼻叫喚の地獄となった病院に母さんは勇敢に突入し――魔物によって二人とも殺されてしまう。
だが、今回はそんな事は絶対に起きさせない。
憂を目覚めさせ、二人を崩壊型ダンジョンの脅威から守り抜いて見せる。
守るだけなら、妹をさっさと別の病院に移せばいいだけ?
残念ながら、今の憂を別の病院に移す事は出来ない。
現在症状が安定しているとはいえ、下手に動かすと肉体の崩壊が加速しないとも限らないからだ。
だから崩壊ダンジョン発生前に、なんとしてもエリクサーを手に入れなければならない。
まあエリクサーを手に入れても、崩壊型ダンジョンへの対応はするが。
いや、して行くと言うのが正解か。
崩壊型ダンジョンによる世界への影響を押さえる事は、巡り巡って家族の安全に繋がるのだから。
まあその辺りの事は、今は母には伏せておく。
まだ先の事だし、今言っても余計な心配をさせるだけだからな。
話すのは憂を目覚めさせて、心労を少しでも軽くしてからだ。
とにかく、今は可及的速やかに力を取り戻してエリクサーを入手する事。
そして一年後に発生する崩壊型ダンジョンの出現に備える。
それが目下の目的だ。
「それならいいんだけど……」
「まあ見ててよ。そのうちプレイヤーランキングに乗るぐらい大活躍するからさ」
「それは凄いわね。でも……本当に無茶はしないでね」
「分かってるよ」
もちろんこれは嘘だ。
無茶だろうが何だろうが、何でもやる。
家族を守るために。
そのための苦労や苦痛など、孤独の中一万年かけてクリアしたエターナルダンジョンに比べれば屁でもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます