第5話 ドキドキの時間

ある日の学校帰り────




「おいっ!兄ちゃん!待ちな!」



そういう声が、何処からか聞こえてくる。


辺りを見渡すも姿が見えない。




「そっちから、ぶつかっといてイチャもんつけんじゃねーよ!」

「何ーーっ!?」

「テメーー」




すると、私の目に飛び込んだのは




「…樹羅君…!?」




私は足が勝手に樹羅君の方へと向かった。




「樹羅君っ!!」

「バカっ!こっち来んなっ!」





次の瞬間─────



私は引き止められ、背後から抱きしめられるようにされ首にナイフを突き付けられた。





「兄ちゃん、そこまでだ!彼女に何かあったら困るんじゃねーの?」


「別に何かあっても彼は困る事はないよ!ただの通りすがりのクラスメイトなだけだから!ほらっ!殺(や)りなよ!その代わり恨んで出てきてやるから!!」


「何!?この女っ!」




相手はナイフを振り上げる。



私は目を閉じた。




「よせっ!」







その直後、私は相手の手に噛み付く。





「ってーー!頭きたっ!!」




そして、ナイフが再び私に向かってくる。






「辞めろっ!霞っ!退け!避けろっ!」

「えっ?」



顔で、避けろ!という仕草をし避ける方向を指図する樹羅君。


私は避けると樹羅君は武術でナイフを地面に落とし、相手のお腹を殴った。





「うっ…」



崩れ落ちる相手。



「野郎っ!!」



すると、もう一人が襲い掛かってきた。




「樹羅君っ!」




私は樹羅君にとっさに駆け寄ろうとする。


それに気付いたか、樹羅君は私をかばうようにし、もう一人を倒した。


2人は悔しそうに逃げるように走り去り、その直後、パトカーが来た事に気付き、樹羅君は私の手を掴み路地裏に隠れた。


私を隠すように壁に押し付けると、かなりの密着感と至近距離に私の胸はザワつき、ドキドキと加速する中、まともに見れず下にうつ向く。





「……………………」





「なあ!」

「な、何?」

「お前さ、もっと自分大切にしろよ!」

「し、仕方ないでしょう?足が勝手に…」



私は顔を上げれず下にうつ向いたまま話をするも、樹羅君からクイッと顎を掴まれ私の顔を上げさせた。



ドキーーッ

かあぁぁぁぁぁ~~っ!



≪ち、ち、ち、近いっ!≫




「…………………」



「分かりやす…顔、真っ赤なんだけど」



ドンッ

何とか押し離し帰り始める。



「あっ!おいっ!」

「け、怪我してるから!うちに来て!」

「怪我?あー、別に全然」

「駄目!怪我を甘くみたらいけないよ!」





私は樹羅君を強制的に連れて行く。


そして、手当てをする。



「痛っ!おいっ!もっと優しくしろよ!」

「男でしょう!?強いくせして、こういうのは痛がりなんだ」


「うるせーな!つーか…お前も性格違わね?一見大人しそうにして案外言うんだな」


「いけない?」

「別に」





グイッと引き寄せる樹羅君。




ドキッ




「ギャップがある事に意外性があっただけだ。だけど逆に」




すると気付けば私の両手は樹羅君の手によって押さえつけられ私の上に股がっている樹羅君。




ドキーーッ




≪えっ?ええーっ!?な、な、何?この状況!≫




すると、顔が近付いて来る。




「ちょ、ちょっと!待っ……!」





スッと私から降り離れる。





「バーカ。好きでもねー女、抱けるわけねーだろ?」

「えっ?」

「じゃあな!」




帰って行き始める樹羅君。





「ま、待って!樹羅君!」



玄関先で足を止める樹羅君。




「お前に色気感じねーんだよ。それともお前に、その気あるわけ?だったら抱いてやろうか?」


「け、結構です!!好きでもない人に何もかも捧げる気ないし!それに自信はないからっ!樹羅君に見せられる良い身体もしてません」




「………………」



─── 沈黙が流れる



「帰ろ」

「そ、そうだよ!いつまでいんの?早く帰って!」

「お前が引き止めたんだろ!?全く」



そう言うと、樹羅君は部屋を出て行く。


私はドアに背中を凭れかかる。




「なあ!」



ビクッ



「な、何?まだいたの?」

「お前…両親いねーの?」



ドアと向き合いドアを挟んで私達は会話を続ける。




「えっ?」


「写真あったの見掛けたから…家族と住んでるなら、もっと生活感ある気がするけど…何か理由…」


「ないよ!何もない!つーか樹羅君には関係ないでしよう?ほら!早く帰らなきゃ男狩りあうよ!樹羅君、カッコイイから!」


「男狩り?バカバカしい。じゃあな!」


「またね」


「…傷…サンキューな…」





ドキッ




そう言うと私のドアの前から去って行く足音だけが微かに聞こえていた。















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