メニ

86:聖姫は難攻不落の要塞を攻略したい

 山だ、山ばっかりだ!

 そこはまるでアルプスかと思わんばかりの山脈だった。

 某有名アニメで見ただけで行ったことないけどね!



 上陸した海岸から街道を進み、二日目に入ると今度は長~い登り坂に入っていた。さらに一日進んだところがアストの出身国であるユリルッシがあった場所に入った。

 山から流れる水は綺麗で美味しく、高原で取れる乳製品と、豊富な山から出る鉱石や宝石類が主要な輸出品だったそうだ。

 歴史はあるが小国で人口はそれほど多くなく、国民の多くは一角族と獣人族で構成されていたという。



 さて純奈がパーティに加わって一つ変わったことがあった。

 それは……

「お風呂だわ!」

 私の目の前には湯気を出すお風呂があった。

 ちなみに場所は街道のどん真ん中! 覗かれ放題と言うなかれ!


 純奈の『具現化』で無理やり湯船を作っての念願のお風呂タイムなのです。

「この大きさだとMPを圧迫しないみたい」

 私のアビリティ効果により純奈のMPが自動回復するようになったお陰で、MP消費が激しくて使い道が無かった『具現化』に光りが差したのだ。


 MP消費量が自動回復量で相殺できるのがこのサイズ。

 そんな湯船の大きさは三人入ればギリかも? ってくらいなので実は大きい。ただしパーティーメンバー五人と護衛騎士二十人の合わせて二十五人で使うとなると物足りないけど、女性だけだったら十二人だから四周りで行ける。

「やろーは入んなくていいっしょ?」

「うえっちぃ姉、酷ぇ」

 ワンころがなんか言ったけど聞こえないよー


「さってと、ほら犬どきなっ、【結界ドーム】」

「イル、そこにいると危ないですよ~【土壁アースウォール】」

 同時詠唱ではなく、二人が別の魔法を使っただけ。


 お風呂の周囲は【土壁アースウォール】で覆われ、その範囲を覆うように『男と魔物禁止』な【結界ドーム】を張ったのだ。


「さぁゆっくりつかろうか~」







 ─女性陣は─ひとっ風呂浴びてすっきりして再び進軍開始。

 アストに案内されるまま、私たちは街道とは名ばかりの険しい山道を進んでいた。こんな険しい道だから当然馬車は使えず、【収納ボックス】に入れて徒歩だ。

 それを見た純奈が驚きの声を上げる。

「食糧の他に馬車まで入れるなんて、お姉さまのMPは底なしですか!?」

「あーそう言えば聞いてみたかったんだけど、メニの【収納ボックス】ってどのくらいの広さなの?」

「お姉さまのパーティーに入る前だと六畳一間くらいでしたけど、いまのあたしだと学校の教室くらいあるかもしれないです」

「なるほどね。それだと馬車四台は無理っぽいね」

 そして私のMPが『-』で無いことを告げると、

「ずるぃです……」

 純奈はしょんぼりしてしまった。

 そんなこと言われても……ねぇ?



 前方には高い山々が見えてその中の一つ、険しい山の中腹に築かれたユリルッシが誇る難攻不落の要塞。

 この要塞はその噂に違わず、最後まで魔王軍に攻略されることなかったという。


 そう攻略されなかった。

 だったらなんでって話だけど、辺鄙な場所にあるこの要塞は無視されて、隣国経由で山を大きく迂回した魔王軍により、王都が攻められて要塞より先に国が滅んだそうだ。

「うわっ魔王汚い、ズルい!」

 どうしてそっち側にも要塞を造らなかったのか?

 今さら言っても仕方がないのだけど、こうして要塞は無力化された。最前線の要塞をまさか迂回されるとは、ユリルッシ王国はさぞ不本意だったに違いないわね。

「そのズルい攻め方を考え、実行できる知恵あたまが魔物にあるということが脅威だろう」

「確かにそうかも」

 普段集団行動しない魔物を統率する力と、それを実行する知恵、それこそが魔王の脅威のようだ。



 さて現在、私たちが向かっているのはその要塞のあった場所だった。


 主要な都市や町などは魔王軍によって破壊か占領されたそうだが、魔物の軍勢は小さな村や僻地の集落まで隈なく進軍した訳ではない。

 そのため人里離れた森や山中などでは、今も隠れて少人数で生活している人たちが居るという。

 さすがにここは最初に占領された国なので、もう残っていることはないだろうが、落ちなかった要塞ならばもしや? と言うことらしい。


「俺の我が儘に付き合って貰って悪いな」

 確かアストはこの滅んだ国の王子だったはず、もしも今でも残っているなら国民を助けたいのだろう。

「別に~どうせ通り道だし気にしなくてもいいわよ」

 要塞を超えて山を下った先にある海岸から、魔王の居る島へを渡るので本当に通り道なのです。

 ただ……

 さっきお風呂で汗を流したのに、徒歩移動のお陰ですっかり汗だく。

 あーお風呂はいりたーい!







 アストの案内で街道を離れて要塞に通じると言う獣道を進んでゆく。私は長年放置された街道とけもの道の違いについて考えたい。

 ぶっちゃけ違いが判らんのよねぇ……


 強いて言うならこの森と言うか山は、魔物が減り獣が増えた事かな?

 獣の中には肉食獣もいたが、銀狼の獣人イルがいたお陰であちらが匂いを察知して避けてくれたらしく、無駄な殺生は無く先に進めた。


 一時間ほど歩いた時、前方でガラッガララッと木と木を打ち付ける様な音が聞こえてきた。

「どうかした?」

 巧妙に木々に隠されたロープに括り付けられていたのは、板と木の棒で、ロープに引っかかると互いを打ち付けて音が鳴るようになっていたらしい。

「あっこれ映画で見た奴だわ!」

 なんだか嬉しそうな純奈は放置して、私はすぐさま支援魔法を展開した。

 突然の行動に純奈が驚いていたので、早口に「この罠を張った奴が来るかも」と、伝えた。


 しばし警戒態勢を取るが、

「相手の気配は先の方だな」

 と、アストが言う。しかしまたも魔法の感知範囲外、相変わらずの彼の感知の広さには舌を巻く。


「ねぇねぇいつも思うんだけど、あんたどうやって感知してんのよ?」

「気配と殺気、あとは大地の揺れだな」

「……なにそれ」

 なんとびっくり、カンフー映画の達人レベルの話だったわ。



 それから十分後、

「(増えてきたぞ)」と言うアストに、

 シベリウスが『警戒せよ!』と言う手信号を周囲に送った。それを見た後続の騎士たちは一瞬で空気が変わった。


 ヴァル姉が詠唱に入り、周囲の風が揺れる。きっと【矢よけミサイルプロテクション】だろう。

 私も支援魔法を、手抜きで『紅の魔道書グリモア』で範囲化して全体に使った。

「す、凄い!」

 感動しているだけの純奈はいまは放置しておくが、あとでしっかり言いつけておこうと思う。


 目の良いイルが敵を発見して、小さな声で位置を教えてくれる。場所は四カ所、どれも距離はまだ遠く、魔法の範囲外だ。

「(どうする?)」

 先頭を行くアストに小声で問い掛けると、

「俺はユリルッシの元王子エサイアスだ! 代表者はだれだ!?」

 なんとびっくり、大声でアストが叫んだ!



 すると前方にあるイルが指した樹が揺れた。

 茶色と緑を基調にした迷彩風な服装を着た者が二人、樹からヒョイと飛び降りてくる。


 二人は武器を持たずにゆっくりとこちらに歩いてくる。私の目でも姿が分かるほどの距離まで近づき……

 茶色だった部分は、んっ羽毛?

────────────────────

名前:ルードヴィーグ

種族:獣人族(鳥)

年齢:47

称号:レンジャー


HP:387/387

MP:72/72

ST:444/444

────────────────────

名前:オイヴィ

種族:獣人族(鳥)

年齢:13

称号:レンジャー


HP:249/249

MP:42/42

ST:325/325

────────────────────


「殿下、良くご無事でしたな」

 そう言って二人はアストに向かって臣下の礼を取った。

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