02:聖姫は面接中です!
さあ早くとばかりに急かしてくる魔法使い風のおじいさん。
二十一歳になって公衆の面前で
隣の高校生、─
「ステータス」
こんなのでも評価が下がるかもと腹を括り、慌てて私も手を上げて、「ステータス」と言った。
するとSF映画ではお馴染みの半透明の不思議な映像が目の前に現れた。鳩尾の辺りの宙空に浮かぶ灰色の石版。プライバシー保護のためか、同じくそれを出したはずの純奈の前の石版は私には見えない。
この会社の技術かな? もしかして凄くない!?
興奮冷めやらぬまま、目の前に現れた灰色の石版を覗き込んでみると、私の名前と何ともよく分からない単語が並んでいた。
ただし書いてあるのは日本語なので、読めないという意味では無い。
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名前:
種族:人族(転移者)
年齢:21
称号:聖姫
HP:40/40(800/800)
MP: -/ -
ST:10/10(200/200)
スキル
料理 B
裁縫 D
神聖魔法 -
光魔法 -
アビリティ
癒しの小奇跡
天使の慈愛
神の障壁
※※※※※※
※※※※※※
────────────────────
ゲームのような、まさしくステータス画面だ。技術は凄いけどこれを表示して一体何に使うのか不明。
この会社はこれをどうしたいのかしら?
「二人ともにお聞きします」
「貴女は聖女ですか?」
「はい」
「は……、書いてある内容についてでよろしいでしょうか?」
危うく『はい』と言いかけて私は質問の意味を問いただした。
「その通りです。お二人とも称号に書いてある内容にについて答えてください」
ならば聖女ではないので、返答は、
「いいえ」
それを聞いた魔法使い風のおじいさんは少しだけ安堵した表情を浮かべていた。
何かしら?
さらに「念のために」と、言われて、大きさがドッジボールくらいもある、高そうな透明な水晶球がコロコロの付いたテーブルに鎮座して運ばれてきた。
そのテーブルは私の前で止まり、
「さあ触れてください」
べちゃっと行こうと手を広げると、
「ああ駄目だ、指先でそっと触れてくだされ」
あ、そうですか。
私は手の形を変更、指先でつんつんと水晶に触れた。ひんやりと感じる以外何も起きず、すぐに会場からほぅと大きなため息が聞こえてきた。
なんだから露骨にホッとされたような気がするわね?
水晶は今度は純奈の方へ移動した。
先ほど注意されたからか、純奈は指先を立てて水晶へ手を動かしていく。会場のどこかからごくりと聞こえた気がしたとき、純奈の指が水晶に触れた。
完全に透明だったはずの水晶が、純奈が触れた場所から、もやぁとまるで煙に撒かれたかのように乳白色に変わって行った。
これもこの会社の新技術なのかしら?
そんな事を思っている間に、乳白色の煙は水晶球を染め上げ、ついに眩い白い光を放ち始めた。
その光を見て周りの仮装したおじさんたちが、
「おおっ!」と口を揃えて驚き、どよめき始める。
「間違いないようです。彼女こそ聖女です!」
「「「おぉー!!」」」
周りから上がる歓声。
なんだこれ?
ここには、興奮しハイテンションのコスプレしたおっさんらに凝視されて焦る純奈と、すっかり無視されて冷め切った私が居た。
何の説明も無し。
私は訳が判らないまま、騎士風のコスプレをした男性社員に連れられて別の部屋へと案内された。ベッドと小さなサイドテーブルに椅子が一つ有るだけの簡素な部屋、まるでビジネスホテルの一室のようなそれは来た時とは違う部屋だった。
確か先に入った二人は元の部屋へと帰ってきたはずなのだが、この部屋は最初に居た部屋とはまったく違う。
「ここで待つように」
そういって去っていこうとする騎士風の男性社員を呼びとめ、
「あの、鞄がありますので先ほどの部屋に取りに戻って良いでしょうか?」
「鞄?」
「はい、先ほど待合室に置いて来てしまったので」
まさか戻る部屋が違うとは思わなかった。
というか、最初の二人は二十分ほどで戻ってきたのだし、自分だけ違うとは普通は思わないでしょ?
「貴女は何か勘違いしているようだが、ここは貴女が居た世界ではない」
「はい?」
「ここはサクレリウス王国。貴女は聖女召喚の魔法陣から召喚された、異世界人だ」
「すみません、もしかしてこれも面接の続きでしょうか?
でしたら申し訳ないのですが、入社しても御社に付いていける自信が無いので辞退させてください」
私も悪ノリは嫌いではないけどもねっ!
他の会社の内定があった上でのコレだったらもう少し態度も違っただろう。
しかし何とか辿り着いた初めての最終面接で、こんな扱いされれば誰だって苛立つしキレるでしょ!?
しかし騎士風の男性社員は、
「申し訳ないが、私では詳しい事は分からない。
少しだけ待っていて貰えるか?」
そして足早に部屋を出て行き、戻ってくる事は無かった。
そして一時間が経過した。
※
トイレに行きたい……
技術は凄かったけども! もうこんな糞会社に未練なんてあるもんか!
私は憤慨しながらも 来た順を逆に戻り、さっきの大広間に迷わず辿り着いた。室内だから何度も似たような角を曲がったけれども、私は昔から道に迷う事が無いのが特技なので問題なしだ。
そして辿り着いた大広間では、なにやら盛大なパーティーが開かれていた。
社員数は確か二十人ほどだったはずだが、参加者の数はそれよりも多いようだ。
舞台袖から見える玉座の近くには、制服を着て困惑した表情を見せている純奈が居た。
つまり彼女が内定したのだろう。
まぁ今更未練なんてないけどね!! まあ技術は凄かったけどさ!!
舞台袖から入って壁端を走って大広間の扉を目指す。
途中で何人かの仮装した社員と目が合ったが、何かを言われる前に愛想笑いと会釈で全て乗り切った。
扉を抜けて左手の一つ目の部屋が最初の……
「なにこれ……、ドアが、無いんだけど?」
まさか真面目に異世界だとでも言うのか?
手を上げて私は震える声で、「ステータス」と言った。
────────────────────
名前:氷山瑞佳
種族:人族(転移者)
年齢:21
称号:聖姫
HP:40/40(800/800)
MP: -/ -
ST:10/10(200/200)
スキル
料理 B
裁縫 D
神聖魔法 -
光魔法 -
アビリティ
癒しの小奇跡
天使の慈愛
神の障壁
※※※※※※
※※※※※※
────────────────────
再び開いたゲームみたいな謎のウィンドウ。
面接だと思って盲目的だった先ほどと違って今なら理解できる、やっぱりここは異世界なんだと……
聖女召喚とか言う儀式で間違って召喚されて、聖女の純奈は皆に祝われ、間違われた私は部屋に軟禁ということか。
「は、ははは。どうしろって言うのよ?」
私の口から乾いた笑いが漏れた。
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