03:聖姫は慰謝料を請求する
大広間の扉を警備している兵士に、
「ねえ、トイレの場所を教えてくれる。
後ここから出たいんだけど、どうすればいい?」
なお彼はトイレの場所は教えてくれたのだが、ここから出る方法は教えてくれなかった。それどころかトイレから出たら別の兵士が数人現れて、再び最初に連れていかれた部屋に入れられて軟禁された。
ご丁寧な事に今度は部屋のドアの前に二人の兵士が立ち、勝手に出る事さえも禁止されてしまった。
さらに二時間。
腕時計があるので時間は間違いない。
ドアがガチャっと開いた。
入ってきたのは魔法使い風のおじいさんと、数人の身なりの良い男性だった。
「お待たせしてしまい申し訳ない」
これは謝ったのではなく、社交辞令の決まり文句だろう。
だから私は返事をせず無視していた。
「間違って召喚してしまった事をお詫びする。
極力、貴女の希望にそえるようにする所存だが、何かあるだろうか?」
「日本に、元居た世界に帰して」
それ以外に望みがあるわけが無い。
当然それは相手も分かっていた事なのだろう、返答も早かった。
「すまないがそれは出来ない。
聖女は召喚された際に契約が結ばれている。その契約の中に帰還の術が含まれているから、契約を終えれば帰る
しかし一緒に来てしまった貴女は前例が無いので、その契約事態が存在しているのかは分からない。
だから申し訳ないが、儂には貴女が元の世界に帰れるかも分からない」
「どういうこと、それ。
帰れないのに私は呼び出されたというの?」
「なにぶん前例が無い事ゆえ、申し訳ない」
その後、何を聞いても「申し訳ない」の一言で片付けられる事になった。
それから魔法使いのおじいさんが話したことは、自己弁護とただの言い訳だった。
魔物が増えすぎた場合に、この世界では異世界から聖女を召喚するらしい。聖女は最高レベルの神聖魔法と光魔法を使えて魔物を浄化するそうだ。
浄化をある程度終えると聖女は元の世界へと帰っていく。
勝手な事だが聖女は定期的に、それこそ百年に一度は呼び出しているという。
宮廷魔道師の自分が、決められた儀式に従って聖女を召喚したというが、一つ違っていたのは召喚されてやってきた女性が二人居たことだった。
聖女以外の者が召喚されたのは初めてだという。
なお、称号を質問した時に嘘を発見する【
さらにもう一つ聖女判別用の水晶球も光ってないことが真実だともいう。
「いまこの世界には魔王を名乗る強大な魔物が存在している。奴は普通の魔物と違い、魔物を集団として使う知恵があり魔物たちの軍勢を率いている。
魔王を名乗る魔物の存在は初めてで、もしかしたらその影響で二人の女性が召喚された可能性があるのだが、これもわしの憶測でしかない」
結局、分からない以外の回答を引き出す事は出来なかった。
まったく持って役に立たないじじぃだと思った。
「もういいわ。
それで私は、聖女の純奈が魔王とやらを倒すまで、ずっとここで軟禁されていれば良いのかしら?」
ため息と共にそう言い捨てれば、
「本来ならそうしたいのだが、何もしない異世界の者が城に長期滞在するのを貴族らは良しとしないだろう。
だから彼らの屋敷へ行ってくれないだろうか?」
彼の言葉の『何もしない』は『何も出来ない』に言い換えて良いのだろう。
一緒に入ってきた男たちはどうやら貴族で、誰を選んでもいいから選んだ人の屋敷へ行けという話しだった。どんなに言い方を変えようが、『ここから出て行け』という意味でしかない。
言い辛い話なのにはっきり言うのね。
「私は彼らの屋敷に行ったらどうすればいいの?」
「帰れるかどうか分からないのだ、将来の為にも使用人として働いて、生活する術を得るのが貴女の為だろうと思う」
聖女でもない奴にただ飯を出すつもりは無い、働かせてやるだけマシだと思えということだろう。
勝手に呼び出しておいて、挙句に働けかぁ。
そもそも私は就職活動中の身分だ。これで『就職先が見つかったわ』と思えるほど切羽詰っているつもりも無い。
そもそも私が働きたいのは日本の企業であって、一個人でも異世界でもない。
はっきり言おう! こんな態度をとるような奴らの所で働きたくないわ!
だから私は、
「希望に副うって言ったわよね。
ねぇ慰謝料っていうか、迷惑料は貰えない?
それを貰って私はここから出て行こうと思うのだけど」
そう提案すると、魔法使いのおじいさんと貴族の男たちは安堵したようだ。
「分かった。支度金としてお金を出そう」
即断と安堵の表情を見て、要するに誰もが私の処分に困っていたのだと分かった。
これ幸いにと、すぐにでも準備させようとするおじいさんを止めて、
「ちょっと待ってよ、今すぐじゃないわ!
最低限、この世界の常識くらいは教えからにしなさいよ!」
相当厄介払いしたかったのだろう。
こいつら速攻で追い出そうとしたわ、信じらんない!
私はその場で決められるというか、要求すべき事を思いつく限り突きつけた。
最初に何かあった場合に、魔法使いのじじぃに直接面会して文句を言える手段を貰った。彼は基本的に城に居るらしいので、会うための手段を取り決めただけだ。
それとは別に一週間に一度、話し合いの場を設けて改善して貰う必要があれば言う。
そして常識や知識を教えて貰うということで、三等文官の男性一人と、身の回りの世話などをしつつ話を聞いてくれる侍女を交代制で三人つけて貰った。
あとは城からの外出許可。最初はかなり渋ったのだが、これは街の様子やら住民の生活を学ぶ名目で、絶対に譲れないと言って何とか勝ち取った。
ついでにその際の、ちょっとしたお小遣いを頂戴することも約束して貰った。
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