就活の最終面接だったんです!
夏菜しの
逃亡
01:プロローグ
独り暮らしに憧れて、反対する親を奨学金で通うからと説得し、二県離れた大学へと進学した。アルバイトで生活費とお小遣いを稼ぎつつ、苦心の末に進級してきた大学もついに四年生。今年は就職活動の年だ。
春に入りそろそろやろうかな~とバイトのシフトを見ながら呟けば、三年生の終わりから準備を始めた友人たちから、
「バイトで忙しいのは分かるけど、あんたはのんびりしすぎだからね!」と叱られた。
そう言われてもなぁ。
私は生活費も自分で稼いでいるのだし、アルバイトはどうやっても切り離すことは出来ないのだから仕方が無いじゃん。
それにまだ四年生は始まったばかりだ、そんな焦ること無い……と、思っていた。
しかし実際は、学校の事務が紹介する斡旋先は日を追うごとに無くなっていき、就職センターで調べた企業も、四大女子の雇用状況はどれも微妙な物ばかりで、そもそも間口からして狭かった。
昨年度の春のニュースでは景気が良くなっていると聞いたのに嘘だったのか!?
こうして私の盛大に出遅れた、就職活動が始まった。
何度も何度も書類選考で落ちたり、一次面接で落ちたりを繰り返して七月。
だんだんと条件が悪くなる中で、パラパラと二次面接にいける事も増えてきた。
うん、行っただけ。
もちろん落ちたわ……
就職の決まった友人から冗談交じりに言われた言葉。
「やっぱスカートタイプじゃないとねー」
おっさんの視線を集めるならそこでしょーと、居酒屋で枝豆を食べつつほろ酔いで言われて、私はパンツタイプからスカートタイプに変更して臨んでいたりする。
吊るしのリクルートスーツとは言え、アルバイトで生計を立てている身としてはこの出費は地味に痛いのだが、もはや藁にもすがる思いという奴だ。
確かに二次面接の率が変わった気がしないでもないけれどもさ……
まぁそれだけ。結果は今までと変わらなかった。
そして唯一、つまり初めての最終面接と名の付くものに辿りついたのが、今日のこの会社だ。社員数が二十人程度の中小企業だが、一般事務兼会計が出来る人材と言う事で、学部的に問題なく進む事が出来た最後の砦。
ここが落ちたらもうどうしたらいいのか……
いや次の会社の二次面接を突破すればまだ望みはある、よね?
待合室になっている部屋では、私と同じくリクルートスーツを着た女性たちが座っている。ここにいる私を入れた四人が採用枠を争っているのだろう。
こんな時期だ、当然お互い無言よね。
まず最初に二人が一緒に呼ばれて部屋に入り、二十分ほどで戻ってきた。
そして残った一人と私が呼ばれる。
先に呼ばれた彼女が立ち上がり、ドアを開けて面接会場へと進んでいく。私はそれに付いていくだけ。
応対した女性社員に少し待つように言われてドアの前で待機。
彼女がノックをして先に入りドアが閉まる。
ほんの一分にも満たない時間で、「どうぞ」と女性社員に促される。
よし!
コンコンコン
『どうぞ』
ガチャ
「失礼します」
と、一礼。
そしてドアを閉めてから、振り返り、一歩足を踏み出して……
そこは、真っ赤な絨毯がざざーっと敷かれた、とても広い部屋だった。
周りには騎士のような鎧を着たコスプレおじさん、正面の最奥には王様のコスプレをしたおじさん─社長だろうか─に、その隣にはご丁寧に宰相っぽいおじさんまで居る。
なにこの会社……
演劇の舞台のようなこの様相を見て、笑顔が引きつった私だが、流石に私は悪く無いと思いたい。
やっと最終面接に辿り着いたのに、こんなおかしな会社だったとは……
そうかーだからこの時期まで採用が残ってたのかー
呆然としていたのは少しの間だった。
「聖徳女学院、商学部、経営情報学科から参りました、
本日はよろしくお願いいたします」
そして一礼する。
内定がまだ出ていない私としては、こんな会社でも保険にはなると言う打算もあり、一礼の後にすぐに腹をくくった。
本来ならここで「どうぞ」と椅子を勧められるはずなのだが……、座るべき椅子なんてどこにも無い。いや玉座っぽい物はあるんだけどね。
椅子も無い面接会場は初めてで、雰囲気もアレでかなり落ち着かなかった。
最初に入った彼女もさぞかし動揺しただろうなぁと、チラッと隣を見れば、セーラー服を着た高校生くらいの女の子が立っている。
あれ?
確か私と同じスカートタイプの黒のリクルートスーツだったはずだが……
しかし隣に立つ少女は間違いなくセーラー服で。
見間違えたかしら?
っと、今は自分のことよね。
スッと正面を見つめなおした。
うん、やっぱり仮装だわ……
とっても不安な会社なんだけど、せめて一つは内定が欲しいので今は頑張ろうと思う。
王様のコスプレをしている人が驚きの表情を見せている。驚くのはこっちだと一言文句を言いたいのはもちろん我慢だ。
「聖女が二人、一体どういうことだ?」
そう聞かれた宰相っぽい人の隣に立つ長い杖を持った魔法使い風のおじいさん。映画の中から出てきたような風貌のその人は、
「わかりませぬ。過去より聖女は一人きり、つまり一人は聖女ではないかと思います」
聖女?
共学四大の聖徳大学と区別する為に聖女って呼ばれてるんだけど、隣の子は高卒みたいだから
でも二人って……
もしかして付属の聖徳女子高等学校の生徒ってこと。
あーそういうことかー
どうやら面接官は聖女の呼び名が二つあることを知らないみたいだわー
壇上の王様と宰相と魔法使いのコスプレおじさんたちはボソボソと話し始めていた。
そして待つ事数分。
「簡単な質問をさせて貰って良いだろうか?」
代表して魔法使いのおじいさんがそう問い掛けてきた。
やっと面接が始まるようだ。
……。
……。
質問の内容は名前に年齢と、正直に言えば履歴書を見れば分かる程度の質問ばかりで、『我社の志望動機』といったテンプレ質問でさえない。
少々拍子抜けしたところで、
「二人とも手を出して、『ステータス』と言って下さい」
魔法使い風のおじいさんは自分がいま言ったポーズを取りながら真顔でそう言った。
この会社ついにこちらにまで演劇を要求してきやがった……
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