第2話 吹けば飛ぶような、テスト後



 とあるファミレスにて、夕暮れ時――



「かんぱーい」

「かんぱい、まあコーラなんですけど」

「私はコーヒー」

「見ればわかるよ」

「うまい」

「それはよかった……今日は奢らないからね?」

「わかってるわよ。まあなんにせよ、テストも無事乗りきれそうでよかったわね」

「それはまったく実花さんのお陰です。感謝してます」

「うん」

「実花といると自己採点も楽でいいよ。その解答がそのまま答えなんだもん」

「うん」

「……ねえ、そんなに頭よくてどうするの?」

「うん?」

「時々思うんだよね。実花ってさ、そんなに頭よくてどうする気なんだろうって」

「どうする、とは?」

「いや、東大とか、行くのかなって」

「東大ねえ……ねえ、東大って楽しいのかな?」

「私が知るわけないじゃないですか……」

「勉強ばっかりしてるイメージもあるし、意外とゆるくやってますって話も聞いたことあるし。どうなんでしょうね?」

「知りませんって」

「裕子はどうするの?」

「私?私は、そうだなあ……」

「……」

「無事に高校卒業したら、とりあえずまあ、どっかの大学に滑り込んで、どっかの会社に滑り込んで、あとは流れで、って感じかなあ」

「げー」

「なによ」

「つまんない」

「いや、私だってそう思うけどさあ、他に思い付かないし。なんかやりたい仕事とかがあるなら専門学校っていうのもありなんだけどね。それもないし」

「だからさあ、」

「お笑い芸人にはならない、って言ってるでしょ」

「絶対向いてるのに……」

「向いてないし、そんな中途半端な気持ちで目指すものでもないし」

「えー」

「芸人さん舐めんな」

「怒られた……」

「……」

「……でもさ、人を笑わせることに懸ける人生っていうのも、悪くないかもね」

「……実花さん?」

「真面目なお話」

「……」

「人生においてさ、楽しいことを見つける、っていうのが一番大変だと思うのよね。例えば学校の成績を上げるには勉強すればいいし、お金を稼ぎたいなら給料の高い会社に入るとか、株や投資信託について学ぶとか、いくらでも方法があるし」

「……」

「でもさ、楽しいことってなると、それはもうあまりに主観的すぎて、本人にしかわかり得ないものになっちゃうじゃない?」

「……よくわかんない」

「例えば、学校の成績がいいからって必ず楽しい訳じゃないし、お金がたくさんあるからって必ず楽しい訳じゃない。たとえ周りから見れば文句なく満たされているような境遇であっても、本人がそう思っていなければそれは楽しくないのよ」

「……」

「いや、むしろ、本人だからこそ気がつかないのかもしれない。自分にはお金もあっていい職にも就いていて家族もいて、こんなに満たされているはずなのに、それなのに、ちっとも楽しくないのはなぜなんだ――って思って、それをアルコールとか薬とか、そういう一時的な快楽で埋めるようになったりする、のかもしれない」

「……」

「……暴力とか」

「……実花」

「……ごめん」

「……」

「話が逸れたわね……ええと、だからその、私がどうしたいかってことの答えとしては、『楽しいことがしたい』ってことになるわね」

「……楽しいことかあ」

「東大でも専門学校でも株でも投資信託でもお笑い芸人でもなんでもいいけど、やってて楽しいって思えて、それに人生まで懸けることができれば、そんなものを見つけることができれば、それが幸せっていうんじゃないの?」

「……ないなあ、そんなの」

「だから今、こうして探してるんじゃない」

「むう」













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