第4話 この世界は白と黒で満たされていた

嗚呼、また繰り返しだ。

彩度を欠いたこの白と黒の世界で、僕は君と永久の時を過ごす。


「お兄さん助けて」

図書館のロビーに木霊する君の声。

脱兎の如く駆けつける僕。

助けなくては、と胸が締め付けられる。

「大丈夫か!」

掃除ロボが君のスカートを吸い込んでいた。

「何ぼぅっと見てるんですか」

「ああ、ごめん」


君と顔を突き合わせるようになって何日経ったのだろうか。数ヶ月いや半年それ以上僕らは会ってるのかもしれない。

時間の概念が歪んだこの世界でまた僕は君と出会う。


どうやら君は物語を書いているらしかった。以前は見せてもくれなかったのに、今では自ら相談してくるようになった。

「最後、キャラクターが死んじゃうのって悲しいですよね」

「ロミオとジュリエットはそうだけど、三大悲劇ではないね」

「そういうこと聞いてるんじゃないです」

ぷんすか。

どうも噛み合わない。ジュネレーションギャップか。


ここには一生では読み切れない本がある。


今日も本を読むふりをして君の様子を垣間見る。

今日はスケッチブックを取り出し色鉛筆でスケッチをしていた。覗き見るとそこには図体のデカイ男と制服姿の女の子が描かれていた。

僕たちだった。

「これって」

「記憶です」

「記録でなくて」

「そうです。私達にとって」

そう言ったきり黙ってしまったので、僕も黙ってスケッチを見守る。

「かっこ良すぎない?」

「記憶ですから」

記録でなく記憶、か。


「過去イチで面白かった書物は何ですか」

難しい質問が来た。

真夏の午後のひと時、君が言い放った言葉に僕は戸惑ってしまった。

「僕に聞くのはナンセンスじゃあるまいか」

真面目に本を読んでこなかったので質問には答えられそうにも無い。

「夏目漱石とか?」

お札になった人という認識だけでまともに読んでないけど。

「お札? 千円札は野口英世ではなくて?」

ジェネレーションギャップ発生。

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