第2話 銅貨の価値

奴隷商人の仕事をすると決めたシクは

半年の間、貧民街を探し回った。


何故か最近、奴隷商人が見つからない。


考えかねたシクは

とある人物に

手持ち少ない銅貨3枚で

情報を聞き出そうとしていた…


貧民街の中でも

家のない者たちが寝る場所がある。

それはシクも寝泊まりをしている下水道だ。


シクの様に家から追い出された者たちもいれば

大人や寝たきりの人もいる。


寝たきりの人は病か何かで

死ぬのを待つまでだ。


ここに限っては、

死体を漁ろうが人を殺そうが

バレる事はないし

身元がわからない死体を

わざわざ探す衛兵もいない。


しかし1人では生きられる可能性が

少ないのからなのか

仲間意識はある者たちだ。


当然、

こんな下水にも

まとめるリーダーがいる。


リーダーの名はゲド。


20代前半ぐらいの彼は、

この下水で生き残れた実力がある。

 

彼になら、

奴隷商人の情報を聞き出せるかもしれない。


シクは3枚の銅貨を最初は1枚から始め

ゲドに交渉しようと話かけた。


「シクじゃねぇか 今日はいつもと違って

人間の目をしてるなぁ…」


ここにいる者たちに 希望を見出せる人は少ないのだ。


「こんな貧民街でイキイキとした目を

してるやつは、死神背負っておかしくなったか

変なことを企んでる奴ぐらいだろうよ。」


変なことを企んでるか…

たしかに無謀なのかも知れない。


「自殺でもするつもりなら前もって言え

処理するのが大変なんだ。まあ…死体処理の仕事をするのはお前らだけどな笑」


ゲドはリーダーをするだけあって

下水道の死体処理や清掃などの汚れ仕事を衛兵からうまくもらえている。


ゲドは衛兵からの報酬で黒パンを買い

黒パンを対価に下水の住民に

仕事をさせている。

下水の住民にとって黒パンはありがたいから

貧民街の掲示板と同じく競争率が高い。


自分も空腹をみたすために

ゲドから運良く何度か仕事をもらった事があった。

その為か名前を覚えてもらっている様で

なんだか誇らく感じる。


「シク、何かようか?笑」

なんだかいつもよりおしゃべりなゲドは

機嫌がいいみたいだ。


「ゲドさん、ちょっといい?」

シクは探りながらもゲドに尋ねた。


「最近、奴隷商人を見てないけど、

衛兵が何か警戒をしている?」


ゲドはにやにやしながらシクを見てくる。

「なんだ?衛兵が厳しくなって

ゴミ漁りが難しくなったってか?」


シクは少しでも情報料金の出費を抑えたいため

ゲドから話をできるだけ引き出したいと

考えていた。


「ゴミ漁りもそうだけど、

衛兵が厳しくなると、ゲドさんの仕事も減って黒パンの仕事もなかなかもらえないんじゃないかと思って」


近くで聞いていた下水の住民達は

不安にゲドを見てる。


ゲドは急に見下す様に笑い

シクに答えを返した。


「逆に死体処理はふえてるぞ笑

お前が知りたいのは、

奴隷商人の話じゃねえのか? 

奴隷商人なんて気まぐれ、いつもの事だろ笑」


見透かされてるなぁ…


「ゲドさん、もしなんか知ってるなら教えてほしい」

こうなれば率直に聞くしかないか


「奴隷商人か?まさかタダってわけじゃねえだろ?」

来たなと思ったシクは銅貨1枚を

ボロボロの右靴から取り出した。


「おいおい本気か?もし知ってても

衛兵から聞いた奴隷商人の情報を

お前に話して、これっぽちか?笑」


ゲドはニマニマとシクの銅貨1枚を見つめている。

「これしかもうない」

シクはもう1枚左靴から銅貨を差し出した。

これで教えてほしい。


ちなみに残りの1枚は、右足の親指でコインをはさみ必死に隠してある。

「笑 まあ2枚で教えれる事を教えてやるよ

一応知った顔だしな」

シクは少しホッとした。


ゲドはシクの右足を見つめながら

「死にに行く奴にコインは必要だ笑」

と言ってみせた。


1日奴隷をしようとしてる事を見透かされているのかもしれないな…


ゲドはこっちにこいと手招きした後

近くで耳打ちに小さく話しだした。


「衛兵が話してたのを聞いたんだがよ、

奴隷商人達は最近何かを恐れて

貧民街では見かけなくなったらしい。」


「前までは貧民街で奴隷希望の住人を探しに来てたりもしてたがな」


生きる為、貧困街から抜け出し奴隷になる者も少なくない。いくら国から管理されてるとはいえ 貧困街からの奴隷の扱いなど生きるより酷いといわれている。


「奴隷商人は何に恐れてる?」

何か知ってるなら教えて欲しい。


「俺の予想だと、

ここの下水道に倒れてるやつがいるだろ?

最近、貧民街で謎の疫病が流行ってる。

俺みたいな平気な奴もいるが 

奴隷商人とってはそれが他の商品にうつるのを恐れているじゃねえかと思う」


たしか死体の数が多いとゲドさんは言っていたな。どうりでゲドさんの機嫌がいいわけだ。


銅貨2枚払って 奴隷商人を見つける情報には

ならなかった…

シクが顔をしかめていると


ゲドはシクの銅貨2枚をにぎりしめ

「毎度あり」と

薄気味悪い笑顔で元の場所に帰っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る