落ちこぼれシーフの盗譚

ねこまた

第1話 一枚の銀貨

真っ暗な道のりに

ひっそりと佇む ひとりの少年がいた。

名前はシク

服ともいえないようなボロをきて

空腹にたえながら

うずくまっていた。


「今日は飯にありつけなかったなぁ…」

シクは、酒場のゴミをあさっていたところ

店主に見つかってしまい 一目散に逃げてきたのだった。


「さすがにここまでこれば 酒場のおやじもこれないだろ」

少年がいる場所は、

街の隅っこにある日も当たらない

下水への通路だった。


少年の右手の甲には、

ひとつの黒い模様が小さく浮き出ていた。


少年はその意味をしりつつも

「こんな毎日が嫌になる。俺にもスキルがあればなぁ…」

と悲観していた。


この世界は15歳になれば、

手の甲に何かの模様が現れる。

それはスキルの紋章であり、

教会の鑑定で、神様?からスキルがもらえる証だった。

ただ、それは教会の鑑定にお金を払う必要があり、親がいないシクにとっては 難しい話であった。


シクの両親は、

10才の時、人殺しとして牢屋に突き出され

犯罪奴隷となったが、

今はどこにいるのかもわからない。

もともと貧民街の借家で

すごしていたシクの家は

蓄えもなく、両親がいなくなった時点で

シクも家をでざるおえなかった。


あれから5年…何とか生き延びたシクは

いつかスキルをもらうために

必死で日銭を稼ごうとするのだが

正式な身分証も発行料金が高く

しっかりとした保証人がいなければ

発行もできない。

身分証もない彼にはまともな職などなかった。


教会の鑑定には身分証の提示が必要と

気づいた時には 

彼の気力もさらに落ち込むばかりだった。


ふと下水道の奥を見つめると

同じような家無しの人たちが

身分証の話をしていた。


保証人をつけなくとも

身分証を発行できる方法が

あるらしい。


その方法は闇発行であり

バレたら即牢屋行き、

もしくは街追放となる

ハイリスクな取り引きだという。


どうやら発行には

貧民街の中では、

かなりのお金を請求されるらしく

だれもが簡単に手に入る物では無いようだ。


しかし、いい事を聞いた!

闇発行さえあれば

この生活を抜け出す事ができる!


「少し調べてみるか…」

シクはさらに闇発行に関する情報を

話していた住人に聞く事にした。


貧民街にタダはない。

なけなしの銅貨2枚を

話しついた住人に1枚づつ差し出し

闇発行の詳細を聞く。


闇発行にかかる代金はおおよそ銀貨1枚。


この世界の通貨は

銅貨1000枚で銀貨1枚

銀貨1000枚で金貨1枚

銅貨5枚でカチカチな黒パンが買える値段。


とても銀貨1枚など貧民街出身には

払えない金額である。


1日頑張ってゴミをあさったりしても

食べ物はたまにあっても

お金は銅貨1枚〜2枚拾えれば奇跡だった。


貧民街では、同じ様に漁るライバルも多い

どうする事もできないレベルだ。

住人達はそれでも

唯一稼ぐ方法がある事を教えてくれた。


どうやら、

たまに貧民街にくる奴隷商人が

奴隷を斡旋している様であった。


詳しく聞くと

1日限定で、奴隷職を斡旋しており

普通の奴隷にはできない違法な仕事などを

貧民街の人間にさせているようだ。


普通の奴隷にも

違法な仕事をさせる事は可能だが、

衛兵にバレる事のリスクを恐れ

1日限定とゆう形で

貧民街の人間と奴隷契約をし

汚れ仕事をさせているのだと言う。


身分証がない貧民たちだからこそ、

バレにくく斡旋しやすいらしい…


ルールはこうだ。

1日間

奴隷は制約の呪文により

逃げる事ができない。

達成後、奴隷商人からお金をもらう。


奴隷商人が

支払わないで逃げるという事はなく

制約の呪文の際には、

お互いの口頭で約束をかわした後、

奴隷契約書の紙に

魔法で自動に書き写される。


契約相手の前で

奴隷商人が

報酬を支払う約束を

呪文の制約として成立させる仕組みだ。


もちろん制約の呪文は絶対である為

支払わなければ

奴隷商人は命を無くす事になる。


これだけ強力な呪縛の奴隷契約書は

1日だけの契約ならば安価であるらしい。


もちろん1日の期限に

こちら側も契約違反や仕事の失敗などをすれば…

制約によって命を落とす。


住民達もうわさでしか聞いていないので

これ以上はわからないとの事。


お互いにリスキーな1日奴隷の仕事は

毎日あるわけでもなさそうだ…


奴隷商人をたまに見るが

そんな話をしていたのを初めて知った。


もし1日奴隷の仕事をするのなら

殺人や窃盗などの依頼だった場合

衛兵に見つれれかば両親の様になりかねない…


最悪死刑や追放など、

考えるだけで恐ろしい。


一般の奴隷や犯罪奴隷は

国から管理されている為、

危険な仕事などは、

公認されないとできないと聞いた事がある。


1日だけの契約であれば、

国に報告する事もないのだろうか?


とにかく報酬も多いらしいけど

命知らずな者たち以外

参加する者も少なそうだ。


身分証がなくともできる仕事が

他にもあったりするのだけど


貧民街の掲示板に

たまに張り出される仕事依頼のみ


報酬は銅貨5枚から10枚ぐらいの仕事であり

おいしい仕事だが、

競争率も高めで働く事も難しい。


例え仕事にありつけても

闇発行にかかる銀貨1枚を貯めるには

いつになるかわからない。


貧民街ではない

街の酒場の賭博で稼ぐ事も考えたが、

少年であるシクでは

とても相手はしてもらえそうにない。

逆に恐喝されお金を取られそうだ。


スリや泥棒、死体漁りなども考えたが

こちらもたまに見回る衛兵にバレれば

犯罪奴隷となる。


やっぱり、

闇発行をしてもらうには

奴隷商人の仕事を受けるしかないのかな…









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