第18話

「気づいちゃったか」

「なにか...理由があるんでしょうか」

「まあね

あの子が脱出方法を知った時には手遅れだったんだ」


美里さんは脱出が出来なかったのではなく、しなかった。

これは思念体の提示した脱出方法に問題があったからだ。

思念体が提示した"かがみのせかい"からの脱出方法

それは大量殺人だった。

せかいに対して不満を持つことが重要で、手っ取り早いのが殺人らしい。

かがみの住人は現実世界で生きる人間の影とせかいの満足で構築されている。

これを殺すことは間接的にせかいを攻撃していることと同じになるようで、迷い人が殺人を行うことにより抱く不快感はかがみのせかいにとって癌であり、排除すべき対象となるらしい。

つまり、せかいから追い出されるまで殺し続けることが脱出方法なのだ。

美里さんが脱出方法を知った当時の友美さんと望さんは"慣れ"がかなり進行しており、精神の限界が近かった。

思念体の脱出方法を実行すると、途中で"かがみのせかい"に染まってしまうのは明白だった。

だから、美里さんは1人で脱出せずに友美さんと共に死ぬことを選んだ。


やばい、想定してたよりキツい。

何がキツいって私これから人を殺すってとこが1番キツい。

美里さんとか友美さんとかちょっと悪いけど頭に入ってこないくらいキツい。

「なあ?あたしたちこれから人殺すの?」

まあそんな物騒な話聞いても1回は聞き返しちゃうよね。

「うん、じゃないとでれないからね」

「そっかー、じゃあーしゃーないか」

かっっる。

なんでそんな覚悟決まってんの聖さん。

もっとこう...あるでしょ?

そんなの無理だよ!とかさ。

「いや、そんなの無理でしょ...

わたしそんなの...」

「え?花ならできるでしょ?」

「は?」

何言ってんの?湧いてんの?

「だってさ、かがみ見てみなよ」

そう言われてせかいの端っこの鏡を見た。


私は真顔だった。

冷めきったいつもの顔。


私の想定としては怯えきって緊張で歯をガタガタ鳴らして今にも泣き出しそうな顔をしているつもりだったんだけど。

思ったより私は繊細な人間ではなかったようだ。

「これからヤバいことするのにさ

冷めきったいつもの花を見てると不思議と緊張とか不安とかなくなったし、覚悟もすんなり決まった

いつもありがと」

聖がちょっと頬を染めて抱きしめてきた。

「フゥ〜」

なんか茶化す声が聞こえるけど気にしない気にしなーい。

「こっちこそ聖には助けられてる

ありがと」

私も今回ばかりは素直に返す。

素直ってのも中々悪くない。

いつもみたいにひねくれてるより気持ちがいい。

「さあ、とりあえず街に戻ろっか

そんでやりたいことやりさがしてこの世界をぐっちゃぐちゃにしよう!」

私と聖、そして望さんは"かがみのせかい"の端っこから離れ、また電車に乗った。


「なあなあ、花カメラもってたじゃん?

どうせグチャグチャにするならさ

全部写真に撮っとかない?」

聖がウキウキしながら私のカバンを指さした。

「え、そんなバイトテロみたいな...」

「いいじゃんいいじゃん

ここならさ、誰にも怒られないし」

「いいと思うよ

滅多にない体験だし、あと記憶にも残らないかもしれないからね」

望さんもちょっと乗り気だ。

「望さんがいうならまあ...」

とんでもないことになりそうだなぁ。

「じゃあさ、まずは1枚撮ろうよ

3人の記念に!」

「いいね、ぴーすぴーす」

「はいはい、じゃあいくよー」

カメラを向かいの座席に置いて3人でポーズをとる。

「はいチーズ」


その時撮った写真は今でも私の宝物だ。


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