第13話

前回までのあらすじ

ラピ○タみたいに女が落ちてきた。


「んであんた誰?」

聖が尻を踏んずけて問い詰めた。

「ちょっとタンマ!タンマタンマ!

痛たただただ!!」

初対面なのに容赦ないな。

いつの間にかロープで縛ってるし...

しかもこの人の格好、ただでさえ変な世界でもさらに変。

頭にはお鍋の蓋にグルグルメガネ、服はタンクトップで下はニッカポッカ。

変人感がぐんと高まっていく。

でも変な人のおかげでさっきまでグチャグチャだった情緒が戻ってきた。

9割は聖のおかげで、残りはこの状況のせいだと思う。

この馬鹿みたいな人を前にして情緒不安定だとついていけないって脳が判断したんだろうけど。

「ねぇねぇ花ちゃん」

「あたし無視すんな花に話しかけんなコラ」

あ、ビンタした。

「いっっっ!!ピンフピンフ!平和に行こうよ!」

「これがあたしの平和ですけどぉ?」

随分と物騒な平和だなぁ。

とはいえこのままだと不毛な言い合いが続くだけだし。

「まあまあ、聖さんや落ち着きんさい」

「えっ?お、おお」

とりあえず聖を止めてこの変な人の話を聞かないとね。

「あなたは何者ですか?」

「お嬢ちゃん、その聞き方はナンセンスだね

もっと取引先に言うみたいに言って」

あ、コイツムカつくわ。

私が指パッチンをすると待ってましたと言わんばかりの勢いで聖がシバいた。

「ず、ずみまぜんでじだ」

結構強くいったんだな、タンコブができてる。

「まあ今のは私も良くなかったですね

もう一度お聞きします

あなたはどこの誰で私たちになんの用があるんですか?」

さすがに答えてくれるよね。

私は優しく微笑み、聖は後ろでメリケンサックを嵌めている。

「私は望、生まれはあなた達と同じ現実世界だよ

そんで目的は"かがみのせかい"に迷い込んだ人とコンタクトをとることかな」

あ〜、この人アレだ。

セカイ系のやばい人だ。

きっとやばい草とかキメてるんだ。

とは流石にならない。

結構いろいろ見てきたし、なにより雰囲気がここの人たちと違う。

「私と聖以外にもいたんだ」

なんでかな、ほっとした。

ほっとしたら力が抜けたみたいで私はまたへたりこんだ。

「と、とりあえずロープ解いた方がいいか?」

聖が申し訳なさそうに聞いてきた。

「そうしてあげて

この人と落ち着いて話がしてみたい」

私がそう言うと聖は望と名乗る人を縛ったロープを解いた。

「いや〜、ごめんごめん

登場の仕方が悪かったかな〜

かがみのせかいならではって感じで良かったと思ったんだけどなぁ」

また言った。

「その、かがみのせかいって」

「まあ察しはついてると思うけどこの世界のことだよ

誰が呼び始めたのかまでは知らないけどみんなこう呼んでたから私もそう呼んでる」

なるほどね、これはそんな感じがしてた。

「やっぱり...

あとさっきみんなが呼んでたって言ってましたよね?

他にも私たちやその、望さんのような人がいるんじゃないですか?」

「いるよ、まあ厳密に言うと"いた"が正しいけどね」

「その感じ、今はいないってことですよね」

「そう、みんなこの世界に染まっちゃった」

さっきまでのグダグダしたやり取りが嘘のようにすらすら聞いたことを応えてくれる。

それから色々聞いた。


この文字や周りの環境が反転した世界は"かがみのせかい"と呼ばれていること。

かがみのせかいには2人1組で迷い込むこと。

この世界での日常に慣れてしまうことを"染まる"と呼び、現実世界での記憶を含めた染まる直前までの記憶を全て無くしてかがみのせかいに適合した人間になってしまうこと。

どれも望さんや他の人達の経験や体験から導き出されたものらしい。

そして、望さんはかがみのせかいで染まっていない最後の生き残りだった。

「だからねー!私うれしかったんだよ!

ほんと久々に向こうの人に会えたのが!」

大粒の涙を流して泣いている彼女を見ると、話してくれたことに嘘が混じっているとはとても思えない。

でも私はまだ気になることがある。

どうしても聞かないといけないことだ。

「最後に一つだけいいですか...?」

「あ、うんうん!いいよ!なんでも聞いて!」

この笑顔に気まずい質問をぶつけるのは心苦しいが私たちには情報が必要だ。

聖も私が聞こうとしていることをなんとなく察したみたいだ。

さっきまで後ろで適当にうんうん頷いてるだけだったのが近くによってきた。

「あの、」

「あー、そっか

気になるよねそりゃ」

「え?」

「私の"対"でしょ?

死んだよ」

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